日本のアプリデベロッパであるGraffity(グラフィティ)が、Apple Vision Proが日本で発売を迎える6月28日に合わせてARゲーム「Shuriken Survivor」をApp Storeで配信しました。アプリの価格は500円です。
Apple Vision Proが対応するハンドジェスチャーを活かした新感覚のSpatial(空間)シューティングを、筆者もいち早く体験しました。
気鋭のARスタートアップがApple Vision Pro向けアプリに参戦
東京・渋谷に拠点を構えるGraffityは、AR技術を活用するエンターテインメントや事業の企画・開発に携わるスタートアップです。自社でARゲームを開発する事業部門もあり、スマホ向けのマルチプレイARゲーム「ペチャバト」は累計25万ダウンロードのヒットを達成しています。
今年の2月2日に、アメリカでApple Vision Proの販売がスタートしたタイミングで、初めてvisionOS対応ゲーム「Ninja Gaze Typing」をリリースしました。Apple Vision Proが搭載する視線とハンドジェスチャーのトラッキング(追跡)機能を活用して、制限時間内に出題された単語を「視線タイピング」で入力するというユニークな空間ゲームです。
Graffityは、外部企業からの依頼を受けて、ARを活用する新事業や大きな研究開発、イベントを行ってきた実績も多数あり、いま伸び盛りを迎えている次世代のAR技術のエキスパートとして注目されています。
新しい“空間ゲーム”「Shuriken Survivor」登場
6月28日にApple Vision ProのApp Storeで配信される「Shuriken Survivor」は、Apple Vision Proの視線追跡とハンドジェスチャーを利用して「手裏剣を投げて敵を倒す」という、シンプルでハマれるプレイヤー視点で遊ぶ空間シューティングゲームです。
ゲームの目的は、邪悪な忍者軍団から城を守ること。プレイヤーは両手を構えて、手裏剣を投げるように重ねた両手をこする動作で敵に手裏剣を当てて倒します。的となる敵に視線を合わせて、正確に手裏剣を狙い撃つことがゲームクリアのポイントです。
プレイを進めていくと、画面にはさまざまな武器のアップグレードや「城」のダメージを回復できるアイテムが現れます。アイテムが表示されているパネルに手裏剣を当てるとゲットできます。
筆者も、Graffityが開催した新作ゲームの記者発表会で「Shuriken Survivor」を遊んでみました。ひたすら手裏剣を投げて敵を倒すだけなので、ARゲームを初めて遊ぶ方もシンプルに楽しめると思います。次々と迫り来る敵の忍者を倒しまくるうちにストレスも解消され、極上の爽快感が味わえました。一定時間にわたって城を守りながら敵を倒し続けると「ボス戦」も控えているそうです。残念ながら、筆者はそこまで到達できなかったので、アプリの発売日以降にリターンマッチを挑みたいと思います。
Unityを活用しながら独自の体験をつくり上げた
記者説明会では、GraffityのシニアUnityエンジニア、小林慶祐氏が「Shuriken Survivor」の開発秘話を語りました。
空間ゲームならではのワクワク感と心地よい体験を実現するために、Graffityの開発チームはゲーム環境の中にいくつも独自の最適化を図っています。
例えば、ゲームのプレイ時間。Apple Vision Proは質量が600gを超えるデバイスなので、長時間装着していると疲れる場合があります。ひとりのユーザーが1日の中で平均1~2時間に渡ってApple Vision Proを装着すると想定した場合、小林氏は「ゲームは1回あたり5~10分程度、短時間で楽しく遊べるものがベスト。短時間で何度もプレイしたくなるような体験を目指した」と振り返ります。そのために注力したことは、敵やアイテムの出現パターンがランダムに変わる「ローグライク」なシステムを導入することでした。
空間の中に大量の敵を同時に、かつスムーズに表示できる限界もありました。そこで、敵の忍者を大きめに描き、上下左右さまざまな方向から集まってくるような演出により「密度感」を高めています。Apple Vision Proの立体空間の中に表示するユーザーインターフェースは極力2D表示を避けて、プレーヤーが触れて操作できる3D表示のボタン等に統一しています。「立体オブジェクトを目で見ながら、ユーザーが直感的に動かす方法が分かるインターフェースにすること」にも注力したと小林氏が語っています。一例を挙げるならば、ゲームのBGMや効果音を調整できるオーディオミキシング・コンソールのフェーダーがこれにあたります。
ゲームの開発環境はアップルが提供するSwiftではなく、Unity(ユニティ)を選択しました。その理由について小林氏は「Unityの方が3D開発に必要な機能が充実している」ことを挙げています。
Apple Vision Proの特徴的なハンドジェスチャーも、アップルが開発者向けに公開する開発ツールでは「親指と人さし指でタップ/ピンチ」する操作だけが開放されています。小林氏は「アップルの開発プラットフォームには、座標系を取り扱うための基本的な機能が少ないことから、3Dの開発難易度が高かった」といいます。そこで、例えば「手裏剣を投げる」ようなハンドジェスチャーについても、UnityのXR Handパッケージを使って実現しました。
CEO森本氏に聞く「Shuriken Survivorや空間ゲームの未来」
Graffityの代表取締役CEOである森本俊亨氏に、今後のShuriken SurvivorやApple Vision Proに対応するコンテンツの開発について、同社の計画を聞きました。
新作ゲームのShuriken Survivorは、日本でのローンチ後の反響を見ながら、7月以降に順次世界各地での展開を予定しているそうです。
AR体験が楽しめるゴーグル型デバイスである「Meta Quest 3」への対応も検討しているのでしょうか。森本氏は「Meta Quest 3は、ユーザーのハンドジェスチャーをカメラだけで認識するため、Shuriken Survivorをプレイするために必要な精度が確保できない」という理由から、現在のところ対応を考えていないと述べています。
森本氏は、空間コンピューターとしてのApple Vision Proに大きな期待を寄せています。
「映像の解像度や、体験の品質そのものが従来のデバイスに比べて圧倒的にレベルが高いことから、今後はさまざまな空間エンターテインメントがApple Vision Proのプラットフォームに集約される可能性があると考えています。エンターテインメントをはじめ、医療や建設、能力拡張や生産性向上を目的としたバーチャルトレーニングの限界をApple Vision Proが押し上げることで、新しいビジネスも生まれると思います」
森本氏は、記者説明会の壇上で示した、データプラットフォームサービスのStatistaによるレポートは「今後5年間でApple Vision Proが累計3,000万台の販売数に達する」ことを予測しています。このデータを踏まえて、森本氏は「今後のApple Vision Proの普及拡大を視野に入れつつ、Graffityとして挑戦したいことが2つある」と話します。
ひとつは、空間ゲームのメガヒット作を生み出すこと。森本氏は「今後もさまざまなタイプのゲームを開発して、その中から多くの反響を得たタイトルやジャンルを見極めて伸ばす」ことを目標に掲げています。
ふたつめは、AR技術を通じて「人と人とのつながり」を豊かにすること。森本氏は「コミュニケーションにフォーカスしたサービスにも間違いなく大きな可能性があり、そこに向けてプロダクトを送り出したい」と続けながら、「空間ゲーム」と「空間コミュニケーション」を事業の柱として育てることに注力したいと語りました。
筆者は、Shuriken Survivorで複数の友だちと一緒にマルチプレイが楽しめる環境を森本氏にリクエストしました。今後、visionOSの開発環境がより充実するほど、Shuriken Survivorに新しい機能が追加されることも期待できそうです。