6月28日にスタートするTBS系金曜ドラマ『笑うマトリョーシカ』(毎週金曜22:00~)のプロデューサーを務める橋本芙美氏にインタビュー。現在と過去が交錯し、複雑な人間模様が描かれる本作の演出や、制作の舞台裏について聞いた。

  • 『笑うマトリョーシカ』場面写真

早見和真氏の同名小説を原作とする本作は、主人公の新聞記者・道上香苗(水川あさみ)が、若き人気政治家・清家一郎(櫻井翔)と有能な秘書・鈴木俊哉(玉山鉄二)を取り巻く黒い闇を追うヒューマン政治サスペンス。『夕暮れに、手をつなぐ』『プロミス・シンデレラ』『危険なビーナス』など、数々のTBSドラマを手掛けてきた橋本芙美氏がプロデューサーを務める。

――いよいよ放送目前ですが、演出面でこだわったところはどんなところでしょうか。

メインキャストである道上、鈴木、清家の衣裳や髪型には、特にこだわりました。道上については、原作ではビジュアル面はあまり描かれておらず、離婚歴があり子供がいるという設定もオリジナルでつけさせていただいたので、忙しくてファッションには多少無頓着だけど身だしなみはきちんとしている人、探究心を持って真実を求める人間をビジュアル的にどう表現するかは監督と水川さんともたくさん話をしました。現役の記者の方への取材で得た情報を水川さんに伝えたところ、サコッシュのような小さい鞄をさげてそこに記者グッズを入れている感じがいいのではないかとアイデアをいただいて、実際に取り入れています。清家と鈴木は、政治家と秘書としての説得力と、とにかくこのお2人の佇まいがカッコよく見えるためのビジュアル作りには特にこだわりたく、オーダーメイドを監督にリクエストしました。それぞれ採寸して生地の色味もたくさんの候補から厳選してスーツを作りました。中でも清家は、政治家としての格もありながら親しみやすさも表現できるように検討を重ね、青の色味の生地を選びました。また、自然体で日本の政治家にはあまりいないタイプにしたいという監督のこだわりから、前髪も空気感を大事にしたふんわり下ろす髪型にしています。

――清家たちの過去を描いた回想シーンもたくさん出てきますが、映像面で工夫したことなどはありますか。

このドラマは、回想シーンがすごく難しいんです(笑)。鈴木が思う回想と、道上が清家の自叙伝「悲願」を読んで想像したイメージの回想が混在するので、そこで視聴者が混乱しないようにしなければならないなと。例えば映像の色味もほんのり印象が変わるようにカメラテストをしてみんなで相談しながら決めました。それとは別に、学生時代の清家、鈴木、佐々木を演じる青木柚さん、西山潤さん、濱尾ノリタカさんもすごく熱心で、回想シーンの3人が、大人になった3人にちゃんとリンクできるように、それぞれ櫻井さん、玉山さん、渡辺大さんの撮影現場に見学に来て演じ方を研究したり、話を聞いたりしていました。学生時代の3人にもぜひ注目していただきたいです。

――組閣や会見など、本作ならではの大掛かりなシーンも多いと思います。撮影の裏話を教えてください。

櫻井さんのクランクインが第1話の会見のシーンでした。国会中継や会見のニュースなどをみていると、下を向いて原稿を読む方が多い印象ですが、清家は原稿を全て頭に入れ、記者や聴衆に目線を送りながらスピーチをしてほしいというのが監督から櫻井さんへのオーダー。かつナチュラルに気持ちがこもって見えるように演じてほしいと。櫻井さんはそれにしっかり応えてくださり、素晴らしい会見シーンが撮れました。こんな大臣が実際にいたら、国民はみんな好きになっちゃうんじゃないかな、と思いました(笑)。櫻井さんは様々な政治家の方を見て研究した上で、清家の独特な話し方やリズム、表情を生み出してくださいました。1話のあるシーンで、道上が清家と会ってみたら「AIみたい」と例えるのですが、それがどういう意味なのか、そして会見シーンで見せる政治家としてのナチュラルな姿と、鈴木と一緒にいる時の顔、道上と2人だけで話す時にふっと見せる今までにない表情、櫻井さんが計算して作ってきてくださった清家の表情の違いにぜひご注目いただきたいです。

――水川さんが演じる道上に関しては、どのようなご感想をお持ちですか。

水川さんって、ご本人は根っから明るい人ですが、みんなが憧れるかっこよさがあるので、クールなイメージと親しみやすいイメージの両方を周りからは持たれるらしいんです。今回視聴者は道上の目線と一緒に物語を追っていくので、凜とした“かっこよさ”の中に親しみやすさもある方に道上というキャラクターを演じてもらいたいと思っていて、そういう意味でも水川さんはぴったり。集中すると周りの話が入ってこなくなる天才肌な人物でもあり、そういう面が先輩記者・山中役の丸山智己さんと後輩記者・青山役の曽田陵介さんとのシーンでよく登場します。水川さんは台本を読まれた段階で、先輩後輩との距離感を大事にしたいとおっしゃられていて。2人に常に何でも情報共有するというよりは、自分の中でまずは突き止めようとして、必要に応じて2人にも相談する感じにしたいと。新聞社での道上のシーンでは、道上独特の観点や気づき、探究心をより浮き立たせるために、水川さんと相談してセリフを変更したりもしました。

――続いて、玉山さんが演じる鈴木についてはいかがでしょうか。

鈴木は怪しくはありつつ、清家の秘書としては一歩引いて彼を支えているので、全面的に「この人怪しいですよ」と分かるようなお芝居ではなく、完璧な秘書なんだけど“何を考えているか分からないから怖い”というお芝居が必要な本当に難しい役。特に1、2話はそういう印象をつけたかったので、玉山さんと何度も意見交換をしました。結果、1話の序盤ほとんどセリフがない中、表情だけでもゾクっとくるような素晴らしい鈴木像を作り上げてくださったなと。目力のインパクトがものすごいので、その目だけで何か含んだ怖さがキャッチにストレートに伝わってくる。そんな鈴木が、道上とどう対峙するか、ぜひ注目していただきたいです。

――3人の撮影現場の雰囲気はいかがですか。

シリアスなシーンも多いですが、カットがかかると3人で楽しくおしゃべりされています。櫻井さんと玉山さんの初共演のシーンは首相官邸でのシーンでしたが、待ち時間には体を鍛える話などをしているようで、すでにいい雰囲気で。水川さんとは、道上の実家の設定のロケ地が実在の飲食店なんですが、そこがすごくおいしそうなので、いつかスタッフとみんなでご飯を食べようという話をしてます。あとは玉山さんとは、櫻井さん同様私も筋肉の話をしました(笑)。スクワットがいかに効果があるかを教えていただいたり、他にも様々な知識をいっぱいいただいていますね。

キャスト陣とは、監督とともに台本についてもよく話します。本作に恋愛要素はありませんが、清家と道上の関係性は例えると“遠距離恋愛”をしているような感じなんですよ。中盤なかなか会えない2人ですがお互いの存在を常に意識していて、例えば今後SNS上でお互いに発信していったり、「いいね」をしあったりする描写もある。恋愛ではないけど、2人がどこかつながっていて、注目し合っている特別な関係性に視聴者が興味を抱けるドラマにしたいので、“疑似遠距離恋愛”的な空気感を大事にしたいと話しています。1話の中で清家が道上に放つ“あるひと言”があるんですが、そのシーンはカット割や目線などもこだわったシーンなので、視聴者の方も道上と一緒に“ドキッ”としてもらえたらうれしいです。

――最後に、視聴者の方にメッセージをお願いします。

政治が舞台なので「難しそう」「堅い」というイメージを持つ方もいらっしゃるかもですが、決してそんなことはなく、主人公の父の死から始まる数々の疑惑や過去とのつながりから見えてくる隠された事実など、ゾクゾクするようなサスペンス要素満載で、さらに道上が対峙していく相手との駆け引きや心理戦も楽しめる、エンターテインメントドラマです。毎回あやしい人が出てきたり、新事実が発覚したり、物語が次々とジェットコースターのように展開していきます。ぜひお友達やご家族と様々な考察をしながら楽しんでいただきたいです。実は1話からセットをよく見ていただければ、あるものがすごく意味を持ってきたりもするので…隅々までよくチェックしておいてほしいです。

(C)TBS