MONOが「生と死」を語る 人生とバンドの残り時間、スティーヴ・アルビニへの惜別の思い

MONOの通算12作目となる新作『OATH』がリリースされた。バンドの結成25周年を飾る節目の作品であると同時に、長年のコラボレーターであるエンジニア、故スティーヴ・アルビニと作った最後のオリジナル・アルバムでもある。「時間と人生」という壮大なテーマをこれまで以上にドラマティックに、エモーショナルに描ききったこの作品は、間違いなくMONOの代表作であり、長年海外を中心に着実に積み重ねてきた活動が大きく実を結んだ記念碑的な傑作となった。本作に込めた思いと情熱、そして故スティーヴ・アルビニへの惜別の思いを、リーダーのTakaが語る。

─通算12枚目となるアルバム『OATH』が発売されました。

Taka:とてもありがたいですね。どうやったら世界中でレコード店に並ぶんだろうかとか、ツアーができるんだろうとか、ずっとそればっかり考えてきたんで。当たり前のようで当たり前じゃない。こうしてコンスタントに12枚、きちんとレコード店に、世界中にあるっていうのはありがたいです。

─デビュー以来25年、MONOみたいな重厚な作風で12枚というのはかなり多作な方だと思います。

Taka:そうですね。理由は2つあって。インターネットがない頃からバンド始めてるんで、アルバムを出さないとツアーができないんですよ。アメリカだったら細かくやっても7週間。ヨーロッパだと2カ月を2回とかやっていくんですけど、それでも1年ワールドツアーやったら、次の作品が必要になる。じゃないとツアーができないから、バンドとして食べれない。そうやってずっとやってきたのが1つですね。

─なるほど。

Taka:あとは、一時期ほんとにベートーヴェンばっかり聞いた1年間があって。聴きすぎて聴くものがなくなったんですよ。その時にいっぱい作品があったらいいなと思ったんですよね。もっともっと聴きたいと思って。

─ベートーヴェンは作品が少ないから物足りないってことですか?

Taka:そうなんですよ。もっと聴きたいと思ったんです。もっと作品があったらいいなっていうファン心理です。だから僕らもいっぱい出した方がいいなと思ったんですよ。できるだけいっぱい出したい。

─なるほど。でもそんなに簡単に作れるもんでもないでしょう。

Taka:だからパンデミック前まではほんとに1回も休まずにツアー中でも書いてたし、飛行機の中でも書いてた。帰った日から作曲してたし。アルバムは2年おきですけど、ワールドツアーを1年、1年半とかやってるんで、その間に次のアルバムの曲を書く、ということをやってきました。

左上から時計回りにYoda(Gt)、Takaakira 'Taka' Goto(Gt)、Tamaki(Ba)、Dahm(Dr)

─Takaさんにとって、ライブをやることと作品を作ることはどっちが上にあるんですか。

Taka:ライブやりたかったんですよね。ライブ・バンドを作りたかった。世界で最も大きい音の4人組バンドを、インストゥルメンタルでやりたかったんですよ。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインみたいなノイズをひたすら出したいという衝動から入って。ツアーをやるために同時に作曲も必要になってくるけど。今はアルバムもライブもひとくくりですけど。ライブをやるために音楽やってるんです。

─でも当然、作品が単なるライブのための予習教材じゃなく、作品として自立してなかったら意味がない。

Taka:アルバムにはオーケストラとか、自分の聞きたいものを入れていく。ロック・バンドなんだけど、アメリカ人もヨーロッパでも聴いたことがない世界を出す。その完成形がアルバムなんですよ。だけど、いつもオーケストラを持てるわけじゃない。4人でどうやってやるか。それをずっと20年以上追求してきてる感じです。今回のツアーは25周年のワールド・ツアーで、オーケストラを伴ってやる。それが僕の1番再現したいものなんですけど、だけど4人でやるオルタナな感じも大事で。もともと出がそこなんで、どっちも大事なんです。

─頭の中にある理想の曲のイメージ、音楽のイメージみたいなものに、いかに音源を近づけていくか。

Taka:そうです。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインみたいなギターの音は絶対なんですけど、メロディはエンニオ・モリコーネみたいにしたいと思う。その2つを合わせてみたいというのが最初のアイディアで。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのノイズで映画のようなシネマティックな音楽をやったら。両方好きだったんで、どんな感動がするんだろうって作り始めた。それでああいう奏法になったんです。ストリングスの代わりに、ピアノの代わりに機械も使いながら。そういうスタイル作りの25年だった。

─つまり、今作はその集大成。

Taka:そうなんですよ。ほんとに。ほんとに。ほんとに。

─これアナログで聴いてて思ったんですけど、配信で聞くよりアナログで聴いた方が断然素晴らしいですね。音の厚みやスケールが全然違う。

Taka:それはもう絶対です。絶対です。いやほんと、全然違うんですよ。

─何が違うんでしょうか。

Taka:スティーヴ・アルビニさんの言葉で言うと、(デジタルの音は)「エイリアン・サウンド」。どっかから来たサウンド。エイリアンのサウンドとしか聞こえない。オーガニックじゃない、もう人間離れしてるってことを言ってましたけどね。

死と向き合い、「怒り」から「感謝」へ

─毎回完全インスト、もちろん過去に歌の入ってる曲もありましたけど、大体基本インストで。それでどうやってテーマを具現化するか。いかにテーマを設定して曲を作っていくか。今作はどういうところから発想していたんですか。

Taka:今回パンデミックになってツアーができなくなって、やっと自分の時間を持てたんですよ。ほんとにツアーばかりやってたんで。で、本当に初めて奥さんとずっと一緒にいて、朝の6時に起きて、毎日毎日昼の2時まで作曲を1年間続けてたんです。春に始めて、夏が来て、秋が来て、親父が死んで、いろんな人が死んでいって。で、また春が来た時に、ああ、なんか普通じゃないんだなと思って。ありがたいんだなと思ったんですよ。

─生きられることが。

Taka:そう。ほんとに。雪が降って、春になった時に、なんか感謝が生まれたんですよね。自分はこの先どうなるんだろう、今まで行けた国も行けなくなっちゃったし、ツアーがなくなったら生きる目的がなくなる。僕は曲を書いてデジタルで配信するようなつもりで音楽をやってないから。ツアーで海外にずっと行けなかったらどうなるんだろう、始まって、いつ終わるんだろう、どうなるんだろうと。そんな中この1年、ずっと曲を書き続けてきた。いい曲も悪い曲もあったんだけど、繋いでいったら、やっぱりこう、強い意志が変わんなくて。何歳の頃からかわかんない絶対的な自分と向き合う時間ができて、改めて気付いた。もうこの先どうなろうとも、余命半年であってもこのアルバムは録りたいし、このメンバーと1本でも多くライブをやりたい。いっぱい(自分に)質問したんですけど、その決意は変わらなかった。それを全部自分は知ってた。再認識するために音にしてみたいと思ったんです。

─なるほど。

Taka:バンドの20周年ツアーの最終日(2019年12月)がロンドンのバービカン・ホールって、フィルハーモニーのきちんとしたホール。(そのときは)オーケストラも入れて。ロンドン、最初は客5人で始めたのが、この時は2000人ソールドアウトですよ。それで終わってみんなでハグして、ホテルに着いたら、涙が出てきた。なんかこれ、アルケミストみたいだなと思って。パウロ・コエーリョっていうブラジルの作家の「アルケミスト 夢を旅した少年」って本が大好きなんですけど、そのアルケミストってのは魂の巡礼に繋がっている。その20周年を統括した歴史をアルバムにしようと思ったのが前作『Pilgrimage of the Soul』(2021年)で。前作をパンデミック中にスティーヴ・アルビニさんとこ(シカゴのエレクトリカル・オーディオ・スタジオ)でレコーディングして、戻ってきて、そのあとすぐ『OATH』を書き始めたんです。なんでもう大筋自体は3年前にはもう完成していたんです。

2019年12月14日、20周年記念オーケストラ公演ロンドン、Barbican Hallにて(Photo by Teppei Kishida)

─パンデミックの間に自分自身を見つめ直すことによって、そのテーマがさらに深くなっていた。

Taka:いや、ほんとにそうですね。びっくりしました。考え方も全部変わってしまったんですよ。

─とは?

Taka:なんか今までは理不尽なことだったり、自分が未だに手に入れてないことに対する怒りや苛立ちが原動力になっていたんです。MONOを始めたのも、東京でやる場所がなかったっていう怒りだった。怒りっていうか、孤独。場所探しの旅でアメリカ行っちゃったんで、そういうのが衝動となっていたし、若かったからエネルギーとなってやってこれたけども、パンデミックになって、そういう理不尽なことへの怒りみたいなものにフォーカスすることが全くなくなったんです。

─怒りの対象がなくなった?

Taka:うん、そうなんですよ。で、感謝が生まれたんです。

─『Nowhere Now Here』(2019年)の時にお会いした時は怒ってましたよね。

Taka:完全に怒ってました。けど、そういう怒りがなくなったんですよ。書いてる時も全く違う感情で書いてたんで、果たしてこれが何のアルバムになるのかもわからなかった。止まっちゃったものに対して、切り取られた時間の中で何をするのかっていうのが最初のテーマで、そこでこう自分を見つめてたら、自分が持ってるもの、心の中に持ってるものが季節ごとに迸り出て。

─お父様のことも含め、過去の自分とか、そういうものを思い出して。

Taka:そうですね、本当に。あとは25周年の節目になるだろうと思ったのが重要で。20周年の節目がさっき話したロンドンのバービカン・センターで。で、自分の寿命を考えたら、50周年で僕は80歳になるんで、そこでバンドを解散するっていうか、辞めるつもりなんです。80歳で。それはもうみんなに約束してることで。

─今から辞める時期を決めてるんですか。

Taka:80歳で、マディソン・スクエア・ガーデンで最後。もうそれ以上はやらない。それは世界中のパートナーが知っててね。僕はもう、何をやりたいかずっと決まってるんですよ。

─へえ……。

Taka:CBGBSでやりたいっていうのが最初にあった。ジョン・ピール・セッションに出たいとか。そういうのを全部滑り込みで実現してきたんです。それで50周年でマディソン・スクエア・ガーデンでやって解散。それはもう決まってる。

─言ってみれば死ぬ時も自分で決めている、というような?

Taka:そうですね、意識しながら。だから、どんどん減っていくんです、機会が。毎年クリスマスにEPを出してんのも、あと24枚だねとか意識しながら、こう、花摘みしながら人生やっていかないと。

─常に死を意識している。それがある意味バンドを動かしていく、あるいは自分が曲を作る、音楽を作る原動力になってる。

Taka:ありますね。ほんとにもう、TAMAKIとYODAがいなかったら……明日のことはわからないけど、彼らと25年も続く家族になれて、あんな試練を乗り越えた人たちと未だに音楽を作れる。こんなにありがたいことはないです。さっきも言ったけど、怒りとか絶望のような感じが、今までずっとあったにもかかわらず、そういうのは全くなかったです。やっぱり長い時間かけてあんなに人が死んでいくのを見てて。例えば「Hourglass」って「砂時計」って意味なんですけど、親父の点滴見ながら、命が一滴一滴、記憶と一緒に流れていくような気がした。アルツハイマーだったんで、一滴落ちては流れていくような。それも曲にしたかったし。明日どうなるかわからない。年齢のせいもあると思います。オープニングのシンセループは亡くした人の記憶です。死者の思い出っていうのは、自分でよりわけて、こういう人だったっていうのをきちんと自分の意識にメモリーとしてとっとかなきゃいけない。シンセループにはそういう意味が入ってるんですよ。父親が残した、彼が僕に与えてくれたものとか誇りみたいなので始まり、最後は「Time Goes By」で終わる。時間が過ぎて、最後は自分の意識さえもなくなる死がきた時に、冒頭のシンセループが、だんだん実態がなくなっていくんですよ。最初はきちんと区分けされたループだったのが、実態がなくなっていって、最後は1本の線になる。それをやりたかったんです。その時間の流れを描きたくて。人生は有限だっていうのがテーマで、その有限の中をどう意識的に生きていくか、という感覚で描いてました。

─どうやって生きていくか考える中で、怒りとか絶望みたいなのも、キレイに拭い去られていった。

Taka:なかったです。全くなかった。

─持ってもしょうがないから。

Taka:はい、もうそうですね。おそらくそうだと思います。そういう気持ちは全くなかったです。

─怒りが創作のモチベーションだったのに。

Taka:僕自身が変わったんですよね。パンデミックからすごく変わったんですよ、自分が。年齢もあると思いますけど、時間に対しての意識が変わって、そして人生に対する価値観が変わった。やっぱりこう、お金とか地位とか名声とかって長続きしないじゃないですか。しかも、死んだら何も持っていけない。だから、そうじゃなくて、何を自分がして何かできたかっていうのを意識的にやりたいんですよ。だから、自分の時間は自分でスケジューリングして、ここからツアー行ってここは完全オフにしてとか、そういうことがやっとできるようになった。

今鳴らしたいのは歓喜のノイズ

─なるほど。MONOの音楽は歌詞がないし、説明がないし、音自体はすごい冗舌な音楽だと私は思いますけど、そういう言葉による具体的な情報がないってことが、想像力をかきたてますよね。Takaさんがそういうつもりでアルバムを作ったとしても、聴く側の解釈は勝手だという。

Taka:そうなんですよ。けど、こんだけ世界中旅をして、だけど、その世界のどこの国に行っても共通する感覚はやっぱり生と死だったり、光と影だったりする。そういう経験、感覚はやっぱり音楽で1番説明できる。

─生と死は世界中のどんな人であれ訪れることで、それをテーマにすれば世界中の人に通じる。と。

Taka:僕は、例えばある小説を読み切った時に、こんな風に人生を考えたことがなかったって気持ちになることが多い。いい映画を見た時もそうです。音楽も同じことはできるんじゃないのかなって思う。できないはずがないって。そのためにアートがあって。ましてその人のソウル(魂)が作ったものであれば、ソウルは嘘つかないんで。言葉は嘘つきますけど、僕がずっと励まされてきたのは良いアートを人は無視できないっていう言葉なんです。人が無視できないレベルにくれば、人生で知りたいことの答えがなんかしらあるような。そういうものになり得ればいいなって。願望として。

2019年11月9日、20周年記念オーケストラ公演ロスアンゼルス、The Regent Theaterにて(Photo by Yoko Hiramatsu)

─さっきマイブラっていう固有名詞が出てきましたけど、具体的にTakaさんが理想に近いと思う過去の音楽作品とかアーティストとかは、例えばどういう人がいますか。

Taka:いや、でも本当にマイ・ブラッディ・ヴァレンタインが好きだったんですよね。だけど、歌えないんで。だからインストにしました。ボーカルを入れるにしても、結局、誰かに自分が言いたいことを委ねると、その時点で伝えたいことが薄れる。こんなに伝えたいことがあるのに、誰かに委ねちゃダメだと。自分がフロントになって伝えなきゃダメだなと。とにかくシューゲイザーが好きだったんですよね。僕のもう基本中の基本っていうか。同時に大の映画と本のファンなんで、そういうのを全部放り込んだ。

─ギターノイズにドラマチックな展開とかメロディーとか、そういうものを加えたらもっとすごくなるんじゃないかっていう。

Taka:そうそう。それを自分で聴きたい。僕は聴きたいと純粋に思った。すっごい音量で聴きたいと。古いヴァイナルの入力をガッと入れると歪むじゃないですか。ロックになるんですよ。単純にすさまじいんですよ。エンニオ・モリコーネも歪ませたらめっちゃ美しいんですよ。めっちゃくちゃ綺麗なんです。そういうのやりたいんですよね。

─最初からロールモデルがあったわけじゃなくて、自分の理想のものが存在しないから、自分が作るしかないと。

Taka:そうそう。やりたいことは変わってないですよ。しかも、ものすごい音量でやりたいっていうのは最初からずっとありましたね。でも2004年ぐらいまではもうツアーとも呼べない、ステージにマイクがないような状態で、どさ回りみたいなのをずっとやってたんですけど、なんかアメリカのド田舎を回ってる自分に震えちゃって、冒険してる自分を楽しんでる自分もいるけど、夜中に田舎道を走ってて、真っ黒なトンネルとか入ると怖くなってくるんですよ。大丈夫かこの人生って。だけど、トンネルもいつか抜けるじゃないですか。その時に大丈夫って思いながら、ただやりたいって方が強かったですよ。

─もうやめようと思ったことはありますか。

Taka:それはもう、ほんとに小野島さんにインタビューしてもらった時ですね(先述の『Nowhere Now Here』リリース時)。あの時はしんどかったですね。ほんと解散なんだろうなって思いましたし。アルバムをメンバー変えて出したじゃないですか。だからアルバム出してなかったら解散してましたね。やっぱりね、ジャンプアップする前、1回ものすごい落ちるんだなと思いました。夜明け前が1番暗いみたいな。

─あの時は、マネージメントと手を切って、自分1人でやるようになったらいろんな人が助けてくれて、それでなんとかなったということですよね。

Taka:そうですね。

─それってすごい象徴的っていうか、示唆的な話で。最初は怒りだったけど、でもいろんな人に助けてもらうってまさに愛が救いになったわけじゃないですか。

Taka:なんかコインの表と裏みたいなもんなのかなって思います。じゃなかったらその良さもわからない。病気しなければ健康の良さもわかんないみたいな。バランスがあるのかなと思いますけど。怒ってる曲ってのは、絞り出すようにギターを弾かなきゃいけなくて、すごい声もかすれてくるし、エネルギーも使う。怒りで共鳴してくれる人たちもいるけど、やっぱり出口は歓喜まで持っていきたい。1回も忘れたことはないですけどね。やっぱり歓喜のノイズってのもあるはずなんで。けど、怒りのノイズがなかったらアメリカにも行ってなかったし。うん、どっちも必要なものなのかもしれない。

─アーティストによって違うと思いますけど、出発点は怒りとか苛立ちとか満たされない気持ちとか、そういうものからスタートする場合が多いと思うんですよ、特にロックみたいな音楽は。でも、その怒りのままだとどんどん煮詰まっていって、どこかで壁にぶち当たってしまう。やっぱりどこかで救われなきゃいけない。その救いをどうやって表現するか。

Taka:そうですね。なんか、どんどん世界が暗いムードになって、そんな中で、スクリームの怒った音楽を人は聴きたいかなって思うんです。俺はあんまり思わないですよね、やっぱり。北朝鮮がどうの、ロシアがどうのこうの、中国が台北がとかウクライナとか言ってる時に、そういう怒りの音楽は必要なものじゃないんですよね、僕にとって。今は人々がきちんとバランスが取れるものが必要だなと思いますけどね、やっぱり。あまりにも不安定な時に、ネガティブなエネルギーのものは自分では作れない。

─でもそれはTakaさんにとって随分大きな考え方の転換ですね。

Taka:そうですね。けど、世界のファンの人たちがいなかったら、ミュージシャンやってられないじゃないですか。ウクライナもロシアも毎年のように行ってたのに、あれから行けなくなりました。僕のせいじゃないじゃない。国家のせいじゃないですか。なんか、平和であってほしい。ベタですけど。

─今回のジャケットがその考えをよく表しています。

Taka:そうなんですよ。

─こういう優しいジャケットは初めてですね。

Taka:そうなんです。日常にある永遠っていうか、普段あんまりフォーカスしない大切なこととか。何が起きるかわからない、明日何が起きるかわからない。じゃあどうしようっていうところから始まっていくんで、スティーヴさんもそうですけど、ほんとに最近痛感してて。

スティーヴ・アルビニと過ごした22年間

─やはりスティーヴさんのこともお訊きした方がいいかと思うんですけど。

Taka:はい。

─そもそも最初にスティーヴさんにエンジニアをお願いした経緯は?

Taka:1999年に出たニューロシス『Time of Grace』とLowの『Secret Name』、同時期に出てきて、すごかったんですよ。ニューロシスの冒頭からのラウドなサウンドが。うわ、かっこいいと思ったけど、Lowのあの静寂がものすごい綺麗で。で、両方ともエレクトリカル・オーディオでスティーヴさんが録ってる。それまでもスティーヴさんのことは知ってたけど、そこで録りたいっていう発想になったのはその時です。初めてスティーヴさんに会った時に、2枚どっちを(エレクトリカル・オーディオの)どっちのスタジオで録ったんですか、って訊いたら教えてくれたのを覚えてます。それがきっかけです。当時できたばっかだったんですよ、スタジオも。ニューロシスとLow、その両極端をこんなすごい音で録れる。この人に頼むしかないな、と。

Times of Grace Neurosis

─それから22年、アルバムにして7枚も共にしてきた。ついこの間までスティーヴさんとスタジオで作業されていて。でもこのアルバムそのものは去年すでに録られているんですね。このアルバムを録ってた時のスティーヴさんはどんな感じだったんですか。

Taka:なんかめっちゃ上がってました。これまで作品でスティーヴは感銘したとこだけ褒めてくれるんですけど、こんなに褒めてくれたことないですね。

─なんて言われたんですか。

Taka:ちょっと言えないです。恥ずかしくて言えない(笑)。スティーヴさんは絶対嘘つかない人なんですよ。おべんちゃらとか絶対言わない。シンプルな人なんで。でも今回のアルバムが完成した時には絶賛してくれた。びっくりしました。俺たちいいアルバムを作れたんだなと思いました、その時に。

─それまでスティーヴとは何度もやってきたわけですが、何が1番違ったんです?

Taka:比類ない才能なのは間違いないですけど、もう彼じゃないと録れない。あのサウンドっていうのは。ストリングスやホーンをあんなに強く録れる人はいない。やってる作業自体は何も変わってないですよ。僕は何も変わってないですし、スティーヴさんがただそう言っただけです。僕は22年間めちゃくちゃ親しくしてきましたけど、緊張して喋れないんです、スティーヴさんとだけは。そういう先輩っていうか先生っていうか、師匠っていうか。

─スティーヴさんも昔は相当尖った感じだったらしいけど。

Taka:そう。僕らレコーディングして、翌々日からシェラックと一緒にアメリカツアーをやったことがあって。レコーディング最終日はボサボサの髪で、次の日来たら、角刈りで凶器みたいな顔になってましたから。もう一言も口をきくなよ俺に、みたいな。

─切り替えてるわけだ。

Taka:全く別人ですよ、ツアー中は。スタジオではやっぱりこう、ワーカーですよ。エンジニアとして。ただ、アーティストとしてのスティーヴ・アルビニってもう、カミソリのような、ほんとに菅原文太みたいな、怖くて怖くて。親分なんですよね。優しいですけど、あんなすごい人を見たことがないです。スタジオではきちんとした英語で、きちんと丁寧に挨拶するような仲です。Takaさん、スティーヴさんの仲です。ほんとに音楽的な、すっごい科学者っていうぐらい音楽に詳しいんですよ。だからスティーヴさんを通じて、わからないことは質問して。本当にお師匠さんでしたね。同時に、インディペンデント・アーティストとして何が1番クールなのかっていうのも学んだ。やっぱずっと一緒に見てきたし。

─実際にスティーヴはそのバンドのクリエイティブな部分に関しては口を出さないわけですか。

Taka:ないです。僕はデモを完璧に作るんですよ。ストリングス・アレンジも含めてドラムも全部作ってきて、メンバーと共にもう1回それを作り変えていくんですけど、スティーヴさんにデモを聞かせたことがないんですよね、1回も。事前にデモ聴いてもらうとか、1回もやったことないです。スタジオ入って、いつものとこにセッティングして、1回演奏したら「素晴らしい」って。録った音がもうレコードの音になってるという。俺らが演奏終わる時にはもう全部終わってるみたいな。

─その時に、ここはこうした方がもっと良くなるよとか、そういうアドバイスもない?

Taka:全くないです。バンドが訊かなきゃ(言わない)。例えば、僕がファースト・テイクとセカンド・テイクどっちがよかったですかって言ったら、ファースト・パートはファースト・テイクがいいんじゃないか、とかは答えてくれるけど。

─もう20年もやってきたら遠慮もなくなるだろうから。Taka、これはこうした方がいいだろうとか言いたくなるのが人情じゃないですか。

Taka:ないですないです。アイディアを加えることはあります。なんか入れてもらえませんかって言ったことはあります。めっちゃかっこいいノイズを入れてくれました。そこは2時間ぐらいかけてましたね(笑)。

─そこはこだわりですね。

Taka:そうそう、なんか言うといくらでも出てくるんですよ。アイディアっていうかセンスの塊なんですよ。スティーヴ・ライヒからメタルまで知ってるし。でもデフ・レパードはちょっと知らないな、みたいな(笑)。そういう冗談を言うこともありますけど。でも問題あるんだったらお前のせいだぞって言いますね。

─あー厳しいっすね。

Taka:はい。けど、初めて会った日に、こんなに楽なバンドはいない、何もしなくていいな俺は、って言ってくれたのは覚えてますね。

─今年の4月までレコーディングされてたのは、今後公開される予定の映画のサントラだったそうですが。その時の様子はどうだったんですか。

Taka:そもそもその映画っていうか、曲のタイトルが「あなたのいない世界」っていう。それが1曲目で、最後は「エターナル・ストーリー(永遠の話)」っていう。25周年ツアーやる時に、マーチャンダイズで販売する「Unforgettable(忘れられない)」ってタイトルのEPもスティーヴさんに録ってもらったんですよ、実際はそれが最後だったんです。その「Unforgettable」っていうのは、ボブ(・ウェストン)さんがマスタリングしてくれたんですけど、まさかこれがスティーヴの最後に曲になるとはね、みたいな話をしてた。だから、全部が辻褄があってるっていうか。レコーディング最終日に、ぱっと俺のこと見て、Takaさん、初めて会ってから何年が経つんだって訊くから、22年ですって答えたらアメイジング!とか言ってたの。あんなこと訊かない人だったのにね。ドラムのDahm(2018年加入)がヨーロッパに行かなきゃいけなかったんで、ストリングス・セッション中に抜けたんですよ。普通だったらその場で挨拶して別れるんですけど、ちょっと待ってくれって言われたらしくて。で、タクシー乗り場まで来てハグしてくれて、いつもあなたとのセッションはほんとに楽しいよ、see you soonとか言って見送ってくれたって言ってました。あれが最後の瞬間。だからね。今考えるとちょっと不思議な感じはいっぱいありました。もっと一緒に録りたかったです。

─実際スティーヴはMONOぐらい長いこと付き合ってた人ってほかにいるんですか。

Taka:キム(・ディール)じゃないですか、ブリーダーズの。あとニーナ・ナスターシャですね。キムさんもほんとにすごいんですよ。兄妹みたいに仲いいんですよ、あの2人。

─なるほど。実際問題として、音作りの本当に欠かせないパートナーで長年共に仕事をされてきて。

Taka:そうですね。

─いきなりいなくなってしまって、どうするんですか、これから。

Taka:そうなんですよ。グレック・ノーマンっていう、エレクトリカル・オーディオでスティーヴと一緒にずっと働いてるすごい優秀な人がいるんですけども、いずれはその人とやると思います。エレクトリカル・オーディオでは絶対録ります。だけど、当分作りたくないなっていう気持ちなんですよね、アルバムを。なんかね、スティーヴさんの音を常に意識して、その発想をずっと想定しながらやってきたのに、ある日想定する人がいなくなったっていうか。なんかね、目標がなくなったっていうか。要するに曲を書いて、スティーヴさんとエレクトリカル・オーディオで録るっていうのがもう楽しみでしょうがなかったんですよ。大学の最高のクラスで音楽を習っているような気分でもあるし、あと、自分たちがどんだけ成長したのかっていうのを試せる場でもあったし、なんかそういう場がなくなっちゃったから。

─実際、エレクトリカル・オーディオの音は、当然エレクトリカル・オーディオでしか録れないと思うんですよ。で、そこで卓をいじってマイクを立ててるスティーヴ・アルビニという人がいなくなって、どれだけ音が変わるのか。

Taka:そうですね。誰よりもMONOの音楽のファンで、誰よりもMONOの音楽の意味をキャプチャーできた人だと思うんですよ。それがなくなったってのがね、音じゃないとこだったと思うんですよ。ほんとにMONOのことを愛してもらえた感覚がある。しかもクリエイティブだったんですよね、作業が。僕なんかほんとに、ヴァイオリンがどんな音するのか、チェロが、フルートが、オーガニックな楽器、オルガンはこうなんだとか、全部そこで覚えたんですよ。オーガニックな楽器の倍音とかも全部、これが本当の音なんだなみたいなのも含めて学んだ。それを22年ですからね。親みたいなもんですよ。

─たぶんね、今回のことをポジティブに捉えるんであれば、そろそろお前も1人でやってみろよっていう、そういうことなんじゃないですかね。もう俺に頼らないで。もう十分知ってるだろ、俺のやってること、って。そういうメッセージかもしれない。

Taka:そうかもしれないです。

─最後のレコーディングはこれから完成させるわけですよね。

Taka:まあ、録り終わったんで、スティーヴさんのミックスも終わってて、あとはボブさんがマスタリングをするだけなんですけど、なんかね、その時の瞬間が怖くて。なんか聞きたくないんですよね。うん、そういう気分です。

MONO

『OATH』

発売中

再生・購入:https://monoofjapan.fanlink.tv/oath

MONO 25th Anniversary "OATH" Japan Tour

2024年11月20日(水)東京都 Spotify O-EAST(ft. おーけすとら・ぴとれ座)

2024年11月22日(金)大阪府 Yogibo HOLY MOUNTAIN(band only)

詳細・チケット購入:https://eplus.jp/sf/word/0000002283

MONO 25th Anniversary "OATH" Orchestral World Tour

2024年10月22日 (火) フランス・パリ Le Trianon (ft. Chamber Ensemble)

2024年10月23日 (水) ベルギー・ゲント Vooruit (ft. Chamber Ensemble)

2024年10月24日 (木) ドイツ・ベルリン Metropol (ft. Chamber Ensemble)

2024年10月26日 (土) イギリス・ロンドン Hackney Church (ft. Chamber Ensemble)

2024年10月27日 (日) オランダ・ユトレヒト TivoliVredenburg Grote Zaal (ft. Chamber Ensemble)

2024年10月28日 (月) デンマーク・コペンハーゲン Vega (ft. Chamber Ensemble)

2024年10月29日 (火)スウェーデン・ストックホルム Göta Lejon (ft. Chamber Ensemble)

2024年10月31日 (木) フィンランド・ヘルシンキ House of Culture (ft. Chamber Ensemble)

2024年11月4日 (月) 香港 The Vine (ft. 12-Piece Orchestra)

2024年11月6日 (水) 台湾・台北 Zepp New Taipei (ft. 12-Piece Orchestra)

2024年11月8日 (金) タイ・バンコク Siam Pic-Ganesha Theatre (ft. 12-Piece Orchestra)

2024年11月10日 (日) マレーシア・クアラルンプール Zepp KL (ft. 12-Piece Orchestra)

2024年11月12日 (火) シンガポール TBC (ft. 12-Piece Orchestra)

2024年11月15日 (金) 中国・上海 TBC (ft. 12-Piece Orchestra)

2024年11月16日 (土) 中国・上海 TBC (ft. 12-Piece Orchestra)

2024年11月20日 (水) 日本・東京 Spotify O-East (ft. 12-Piece Orchestra)

2024年11月22日 (金) 日本・大阪 Yogibo Holy Mountain (band only)

2024年11月24日 (日) インドネシア・ジャカルタ Joyland Festival (band only)

2024年12月10日 (火) アメリカ・シカゴ Thalia Hall (ft. 12-Piece Orchestra)

2024年12月12日 (木) アメリカ・ニューヨーク Pioneer Works (ft. 12-Piece Orchestra)

2024年12月14日 (土) アメリカ・ロサンゼルス Wilshire Ebell Theatre (ft. 12-Piece Orchestra)

ワールドツアー・チケット購入:https://www.monoofjapan.com/tour.php