国内貨物の海上運送を担う内航海運業界では、日々の航行の安全性を高めるため、最新のIT技術を活用した運航管理システムを広く取り入れている。都内では19日、そんな航行安全システムを提供する各社がアップデートを報告するセミナーが開催された。
■船舶版のカーナビとして
三菱造船では、タブレット型運航支援システム「ナビコ」(仮称)について紹介した。内航船向けのECS(電子海図装置Electronic Chart System)として実績のある同社の製品「Super Bridge-X(SB-X)」をタブレットに移植したもので、タッチUIにも対応している。担当者は「船舶版のカーナビとして活用してもらえます」とアピールする。
音声入出力による周囲状況の案内機能も搭載。デモでは、利用者が「危険船は?」と問いかけると「危険船はありません」と音声合成で回答。以下、同様に「進路は?」「座礁危険は?」「左舷前方に他船はいる?」といった質問にも、即座に的確な情報を返した。
連接するセンサーは最小構成(GPS・AIS)を想定している。担当者は「新造船だけでなく既存船にも小さなコストで導入できるよう、システム構成を容易にしました」と説明。また初期費用を抑えられるよう、リース契約も準備している(取付工事費用は別途必要)。
一部機能(離着桟支援モードなど)を利用するケースでは、ジャイロコンパス情報が必要となる。様々な場所で使えるよう可搬性も配慮されており、センサー情報の取得はWi-Fiルータを用いた無線通信を採用している。
■360度の視野を獲得
古野電気では、AR(拡張現実)を活用した大型船舶向けの操船支援システム「フルノENVISIONシリーズ ARナビゲーション」について、新たに360度カメラの設置により全周対応すると明らかにした。前方に向けて設置する室内用IPカメラに加えて、舶用規格に準拠した屋外用カメラを両ウイングに1台ずつ設置することで、360度全方向の映像を取得。操船に必要な周囲情報を、瞬時に把握することができるようになった。
これにともない1画面に表示する視野角も、従来の90度から最大160度まで拡大。並走する他船や、周囲の状況をより素早く把握できるようになった。
また、画面上をダブルクリックすることで、自船から1海里以内に任意で最大3点の測距マーカーを打てる測距機能も搭載する。
このほか、開発中の離着岸支援システムBAS-100についてもアナウンスした。登録した岸壁を自動で検出し、自船から岸壁までの距離を船上から高精度に計測するシステムになっている。計測結果と合わせて3軸船速(左右:任意の2か所、前後)、ROT、風向風速、潮流といった離着岸操船に必要な情報を表示することにより、離着岸操船時における船員の負担を軽減する。
俯瞰図上に船体の過去・現在・未来の航跡を表示し、カメラ映像に計測結果をAR重畳表示する機能も搭載。状況把握をより容易にする。このほか岸壁到達時の速度と偏角を予測して表示する機能により、岸壁への接触速度が超過する場合にはアラート表示で注意喚起。安全性の向上にも寄与する。
■小型舶でも「new pec」をフル活用
昭文社ホールディングスの子会社であるマップル・オンは、航海支援アプリ『new pec smart』を紹介した。現在、iOS版がApp Storeにて提供されている。航海用電子参考図「new pec」を間引きなしで採用しており、年4回の地図更新で最新チャートを利用できるのが特徴。
新機能として、船舶事故を未然に防ぐ「アラート機能」が追加搭載された。音声案内により、危険な状況下でも直感的に回避行動をとれる。担当者は「船舶の運航における安心・安全を強化しました」とアピールしている。