船員の雇用のマッチングを図ることを目的に、海運事業者による企業説明会等・就職面接会を実施する「めざせ! 海技者セミナー」を全国で開催している国土交通省。船員不足への危機感が高まっているなか、九州運輸局の主催で「めざせ!海技者セミナー in FUKUOKA」が6月18日に開催された。本セミナーにブース出展し、資格・就職相談を行っていた「海洋教育センター」の担当者に話を聞いた。
旅行や趣味に没頭できる働き方も可能
海の仕事に興味のある若者や求職中の船員など、船員を目指す方の雇用促進を図ることを目的に開催される「めざせ!海技者セミナー」。海上技術学校生、水産系高校生、商船系高専生などを対象に、海運事業者による企業説明会や海技士資格の短期取得の説明会などが行われる。
九州運輸局による福岡での開催は、今回で20回目。昨年度に実施された「めざせ!海技者セミナー in FUKUOKA」には参加企業47社(45ブース)、求職者・学生等215名が参加し、本セミナーをきっかけに38名の内定・採用が決定したという。
6月18日の「めざせ!海技者セミナー in FUKUOKA」には、抽選で選ばれた53社(50ブース)が集結し、参加企業による説明会や就職面接会が実施され、約280名の学生が来場した。
本セミナーでは海運事業者による企業説明会、就職面接会だけでなく海技士資格取得・就職相談なども行われた。海事産業にかかわる複数の事業者・団体によって平成25年に設立された「海洋教育センター」は、海事人材育成開発事業として就職・雇用支援などを展開する一般社団法人だ。
「船に乗るための資格を取得できる学校には、水産高校や海上技術短大などがあります。ただ、普通科の高校などでは、そうした学校の情報にそもそも接する機会がなく、よほど何かしら周りの環境などに恵まれていなければ、進学先の選択肢になりにくいのが現実。新規船員を増やし、内航海運業界の課題である船員不足を緩和・解消するため、我々は船の世界に関わる機会のなかった未経験の社会人・転職者の方を対象とする支援にも取り組んでいます」
未経験からでも船員 (航海士・機関士)という新たなキャリアへ転職を目指す場合、入口となるのが「六級海技士」という国家資格。国土交通省認定校の新六級海技士(航海・機関)の短期養成課程(4.5ヶ月コース)では、最短10.5ヶ月で六級海技士の資格を取得できるという。
「船にも寄りますが、海技士は長期勤務・長期休暇という働き方が特徴のひとつで、2〜3ヶ月乗船して、2〜4週間の休暇があるというサイクルが一般的。乗船中の食費は会社負担で、休暇期間も給料が出る。『バイクのツーリングが趣味で、休みをまとめて取りやすい仕事に興味がある』と我々のブースに足を運ばれる転職者の方もいらっしゃいました」
ミドルからでも高い安定性と将来性、奨学金の敷居も低い
六級海技士の短期養成課程は免許講習を含む2.5ヶ月の座学と、乗船実習2ヶ月で構成される。その後、就職先で6ヶ月の乗船履歴を積み、海技試験(同課程の修了者は筆記試験が免除されるため身体検査のみ)を経て、短期での六級海技士の資格取得が可能という仕組みだ。4.5ヶ月の学費や生活費なども含めて概ね100万円ほどの費用が必要だそうだが、それらを支援する無利子・貸与型の奨学金制度も用意する。
「六級海技士養成施設には内定が決まっている方も、入学後に就職決める方もいますが、内定先の会社はもちろん、所得のある配偶者なども奨学金の連帯保証人になれる奨学金制度です。船員への就職を前提とする奨学金で、国家資格の取得から就職まで一元化された国土交通省認定の船員養成校では、求人企業の多くが船員育成制度を採用しており、奨学や就業の補助金の給付・貸与を行なっているんです」
国内輸送の45%、貿易の99%は船を利用しており、島国である日本の産業や暮らしに欠かせない輸送手段の一翼を担う内航船員の月収は、30.5〜49.5万円(2021年船員労働統計)。
海技士はライフ・ワークプラン(資格・待遇)の見える化ができる職業という点も魅力のようで、上級資格取得・職務に応じた技能向上により上級職に昇進・昇給を実現していけるという。
「社会人を対象とした船員への転職は、学歴ではなく資格を取ってそれをどう活かしていくかという学習歴の世界。35歳、40歳での転職でも六級の資格を取得すれば生活給も安定し、残り30年の仕事人生で実歴を積めば船長にもなれる。海技士の資格は国家資格のため安定性も抜群で、法定職員として船を動かすために必要不可欠な、海運事業者にとって貴重な人材を目指せます」
この不透明な時代に、そうした普通の民間の世界にはないキャリアパスのわかりやすさは若者をはじめ多くの人にとって魅力的な要素といえる。
「より上位の資格を目指して技術や経験を積むことで非常に分かりやすく職位を上げていけるので、自身のキャリアを自らの力で描いていける。目立たない存在ですが、国民の生活と直接関わっている仕事ですし、ワンチームで物を運ぶという完結型の仕事は成果が見えやすいことなどもやりがいにつながるでしょう」
キャリアアップ支援訓練などの現役船員に向けた再教育支援事業や、事業者対象セミナーなども開催する企業力活性化事業なども展開しているという海洋教育センター。海の仕事について理解を深め、気軽に相談できる場を今後も積極的に設けていきたいという。
「海の仕事は一般の人の目に普段触れにくく、世間的な認知度も低いことが課題。我々のところには「私でも船乗りの仕事ができるんですか?」と相談に来られる方も多い。このセミナーの主な来場者は船の仕事を目指している学生ですが、これまで専門的な教育を受ける機会がなかった社会人などの窓口として、年齢などに関係なく船の仕事をしたい方々を支援していきたいと思います」
「海技者セミナー」は船員になりたい人や船員の職業に興味の人にとって、その仕事の魅力を知る絶好の機会になっているようだ。