2024年6月8日に開催されたゲームの発表イベント「Summer Game Fest 2024(サマーゲームフェスト2024)」にて、インディーゲームスタジオ「Nomada Studios」の新作タイトル『Neva』の最新映像が公開された。

『Neva』は、1人の少女「Alba」と子どもの狼が、互いの能力を活かして困難を乗り越え、共闘しながら闇を討ち、世界に光を取り戻していくアクションアドベンチャーゲーム。物語は、狼の親子と行動をともにするAlbaの前に、突如として強大な闇が現れ、親の狼が命を落としてしまうところから始まる。Albaは残された子どもの狼と世界を旅し、徐々に絆を深めていく。

  • Neva

    『Neva』最新映像のワンシーン。主人公の少女Albaと狼の親子が映し出される。迫り来る闇を前に、Albaは勇ましく剣を抜いた

  • Neva

    淡いグリーンで描かれた夜の森。柳のように繊細な枝葉が揺れ、幻想的な雰囲気を醸し出す

  • Neva

    闇の生き物に立ち向かうAlbaと白い狼。互いのスキルを活かしたコンビネーションバトルが展開される

リアリティを追求する3Dゲームが多く登場した「サマーゲームフェスト2024」で、おとぎ話のように幻想的な『Neva』は異彩を放っていた。澄んだ歌声とともに映し出される、色鮮やかで壮大な世界。その中で剣を振るい、不気味な闇の生物を倒さんと勇ましく戦う少女と狼。美しい色彩と音楽、そしてどこか物悲しさや畏怖を感じる世界観に、一瞬で心を奪われてしまった。

『Neva』を開発するNomada Studiosは、スペインのアーティストConrad Roset氏とゲーム開発者たちがタッグを組んで生まれたスタジオである。2018年に発売された『GRIS』が大きな話題を呼び、数々のゲーム賞にて受賞・ノミネートを果たした。

短いトレーラーで圧倒的な世界観を見せつけられたことで、未プレイであった過去作『GRIS』への関心は大いに高まった。Nomada Studiosが生み出す、美しく儚い世界観。その原点を探るため、早速『GRIS』をプレイしてみた。

直感的な操作で進める、歌声と世界の色を取り戻す旅

『GRIS』は、主人公の少女「Gris」を操作する2Dアクションパズルゲーム。ゲームの冒頭、ひび割れた石像の掌で歌を奏でるGrisは、突如としてその美しい歌声を失ってしまう。Grisの喪失感と共鳴するように世界が崩壊し、色のない砂漠に放り出されてしまった。

  • 『GRIS』

    美しい歌声を奏でる主人公の少女Gris。ひらひらと揺れるAラインのワンピースが可愛らしい

  • 『GRIS』

    Grisが歌声を失うと同時に世界が崩壊を始め、虚空へと落ちていく

  • Neva

    たどり着いた先は、風の音だけが響く砂漠世界。Grisは涙を拭い、一歩を踏み出す

本作をプレイしてまず驚いたのは、説明やチュートリアルが一切ないことだ。初期段階でプレイヤーに求められる操作は、「歩く」と「ジャンプ」のみ。戦闘要素もなければ、落下死してゲームオーバーすることもない。アクションゲームに苦手意識のある筆者にとって、直感的にプレイできるシンプルなゲームシステムは非常にありがたかった。

右も左もわからないまま前に進んでみると、壊れた遺跡の中にひと粒の「星」が瞬いている。近づいたら、星がGrisのあとを追ってくるようになり、いくつか集めると、星座のような線を描いて橋がかかり、空中に“星座の道”ができるといったシーンもあった。

ほかにも、星々はときにGrisに力を与え、岩になる能力で崩れかけた床を砕き地下へ進めるようになったり、泳ぎを覚えて水中深くまで潜れるようになったりと、新たなアクションが使えるようになる。行けなかった場所にどんどん進めるようになり、世界は少しずつ広がりを見せ、色を取り戻していく。

  • 『GRIS』

    廃墟と化した遺跡の中に現れた「希望の光」。物語を進めていくうえで、重要な鍵となる

  • 『GRIS』

    星座の橋。上を歩くとベルのような足音が鳴るのも素敵だ

  • 『GRIS』

    ワンピースが真四角の岩に変化し、床を砕いて地下への道を拓く。岩の状態で歩くときの着ぐるみのようなモーションも可愛い

  • 『GRIS』

    水中へと潜るアクションを覚え、亀のような生き物と一緒に深海を泳ぐ場面も

  • 『GRIS』

    マップに散らばる星を必要数集めると、世界はひとつ「色」を取り戻す

ビジュアルとサウンドで彩る、真新しい世界観

作中には、Grisが取り戻した「色」に合わせて、いくつかのステージが登場する。緑の木々が揺れる森のステージ、青い雨が降る水のステージ、暗闇の中をあたたかな黄色い光が灯る洞窟のステージなど、どれもアクションゲームの定番といえる舞台だ。

しかし、Conrad Roset氏が描く世界は全く新しい印象を与えてくれる。幾何学模様の植物や愛くるしい生き物たち、じんわりと滲む水彩画の背景があまりにも美しく、コントローラーを置いて画面を見入ってしまう瞬間が幾度もあった。

特に感動したのは、物語の後半に登場する鏡のステージだ。星空に浮かぶ青く透き通った塔は上下逆さまに建ち、水も下から上へと流れていく。夢に見るような幻想的な光景には、思わず感嘆の息を漏らした。

  • 『GRIS』

    緑色の森のステージ。カーテンのようにはためく不思議な木々をジャンプしながら越えていく

  • 『GRIS』

    青色の水のステージ。静かに降り注ぐ雨が空中に水たまりを作り、足場となる

  • 『GRIS』

    黄色い光が灯る洞窟のステージ。暗闇に隠れていた道を示し、安心感を与えてくれる

  • 『GRIS』

    上下が逆さまになった鏡のステージ。Grisの操作が反転する難しい場面もあったが、画面の美しさに助けられた

ステージごとに鳴り響く荘厳な音楽も作品の世界観をより魅力的に演出する。サウンドを務めるのは、スペイン・バルセロナを拠点に活動する音楽バンド「Berlinis」。足音や鳥の鳴き声など、環境音と見事に調和したアンビエントな曲調がとにかく気持ちいい。先の鏡のステージでは、睡眠導入のヒーリングミュージックのような優しい音楽が奏でられ、まさに夢心地であった。

戦闘要素のない本作だが、幾度かボス戦のような緊迫した場面が訪れる。巨大な影の生き物に追いかけられたときには、力強いサウンドが前に進む勇気を奮い立たせてくれた。

  • 『GRIS』

    巨大なウツボから逃げるGris。緊迫感が漂う中で、勇ましい音楽が力をくれる

そして何よりも魅力的なのが、Grisの歌声だ。物語の鍵となる彼女の美しい歌声は、言葉に意味を持たずとも聴いているだけで感情があふれてくる。没入感を高めるためにも、ヘッドホンやイヤホンを装着してのプレイは必須だ。

  • 『GRIS』

    物語の後半でGrisはついに歌の力を取り戻す。歌声が円となって描かれ、範囲内の蕾が開き、美しい花が咲く

いくつかの収集要素は残ったものの、物語の主軸だけでいえば2〜3時間程度でゲームクリアまでたどり着いた。謎解きで行き詰まることもなく、アクション部分も数回のチャレンジで突破できるレベル。アクションゲームがあまり得意ではない人でも難なくクリアできるだろう。反対に、歯ごたえのある操作感を求めるプレイヤーは物足りなさを感じるかもしれない。

とはいえ、この作品の最大の魅力は、とにもかくにも美しい世界観である。ゲームのビジュアルやサウンドなどのアート性を重視する人、独創的な世界観にどっぷりと浸りたい人には全力でおすすめしたい。ぜひ、その身で『GRIS』の美しい世界観を堪能してほしい。

  • 『GRIS』

    タイトルの『GRIS』は、スペイン語で灰色を意味する

喪失から始まる新たな物語。次回作『Neva』には、バトルアクションが追加

『GRIS』をプレイしてから改めて『Neva』のトレーラーを見ると、いくつかの共通点があることに気がついた。どちらの作品も1人の少女が主人公であり、歌声や友を失う「喪失感」から物語が始まるのだ。深い悲しみから立ち上がり、前へと突き進む少女の姿が、作品の世界観をより美しく魅せている。

新作の『Neva』がどんな物語になるのか、詳細は明らかではないが、きっと『GRIS』と同じように、Albaも旅を通じて大事なものをひとつずつ取り戻していくのだろう。

  • Neva

    闇に飲み込まれ、命を落としてしまう狼の親。悲しみに暮れるAlbaに子どもの狼が寄り添う

より密度の上がったグラフィックや音楽に期待が高まるものの、気になるのは戦闘要素の追加である。冒頭で触れたように、どうやら『Neva』には『GRIS』に存在しなかったバトルアクションが加わるようだ。

Nomada Studiosが織りなす新たな世界観に浸りたいと思いつつ、アクションゲームが苦手な筆者としては、「難しい操作で行き詰まったら、どうしよう……」という一抹の不安が過ぎる。しかし、『GRIS』で魅せた直感的な操作とアートの融合は、おそらく『Neva』にも引き継がれているだろう。バトルアクションにおいても、高難易度を求められない、心地よい操作感であることを願うばかりだ。

『Neva』の発売は2024年を予定。プラットフォームはNintendo Switch、PlayStation 5(PS5)、Xbox Series X|S、PC。次なる最新情報を楽しみに待ちたい。