ミュージシャンの中村佳穂が、フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)のナレーション収録に初挑戦した。担当したのは、23日に放送される『おくりびとになりたくて ~大切な誰かと別れるとき~』。母の死をきっかけに納棺師になった女性を追った作品だ。

納棺師に密着したドキュメンタリーということで、納棺される故人の遺体の映像も流れる今回の番組。このシーンに、中村は「その家族を知られたような気持ちで、少し温かい気持ちになりました」と受け止めながら、声を吹き込んだ――。

『ザ・ノンフィクション』のナレーションを担当した中村佳穂

『ザ・ノンフィクション』のナレーションを担当した中村佳穂

きっかけは母の納棺式…心が洗われる思い

通夜や葬儀の前に、遺族の目の前で亡き人の状態を整え、棺に納め、お別れの時間を作る納棺師。2008年に公開された映画『おくりびと』でも注目を集めたが、家族だけで故人への思い出や悲しみを分かち合い、死を悼む時間として近年、納棺師が執り行う「納棺式」の需要が高まっているという。

そんな“おくりびと”になることを志し、17年勤めた会社を辞めた陽子さん(48)が、今回の主人公。納棺師を目指すようになったきっかけは、母の葬式で見た納棺式だ。生前の母に尽くせなかった後悔や無念を抱いていたが、納棺師がつくる“別れの時間”で心が洗われる思いだったという。その時の体験から「自分も納棺師になりたい」と決断した。

アカデミーを卒業し、納棺師として働き始める陽子さん。来る日も来る日も、人の死に立ち会い、家族の悲しみと愛を感じている中、故郷・北海道の父の病状が思わしくないという知らせを受ける…。

母に重ねる“人のため”の姿勢

48歳にして新しいことに1から挑戦する陽子さんの姿に、「“ここで人生を切り替えなければ”と思って実際に切り替えられるというのが、素晴らしいなと思いました」という中村。「たぶん年齢を重ねると、切り替えなくていい理由から探すと思うんです。“そうは言ってももう年だし”とか “1から勉強するならお金がかかるし”とか。そんな不安な気持ちを持ちながらも、自身の選択をされていて、私もそうありたいなと思いました」という。

シングルマザーとして2人の娘を育て、彼女たちのためにずっと働く人生だった陽子さん。その娘たちが巣立ち、これから“自分のため”の新たな人生が幕を開けるところで、「納棺師」という“人のため”の仕事を選んだことに、中村は自身の母を重ね合わせる。

「私の母は子どもに関わる仕事をしている人で、人に奉仕することが生きがいのタイプの人なんです。家族で旅行に出かけた記憶はほぼなくて、自分のために贅沢をしてこなかった人でした。子育てがひと段落して、新たに自分の人生を選択するときに誰かをサポートする仕事を選んだ陽子さんを見ていて母を思い出しながら映像を見ていました」

  • 車を運転する陽子さん (C)フジテレビ

故人の遺体を持ち上げるなど、慣れない体力仕事に汗を流し、思うようにできない自分の不甲斐なさに落ち込む陽子さん。それでも現場を重ね、徐々に自信をつけていく。そんな思いを、仕事終わりで車を運転しながら助手席のディレクターに吐露する横顔は、まさに生きがいが伝わってくるもので、「幸せというものは、お金とか自分のための楽しみじゃないところにちゃんとあるんだというのを、改めて感じました」と語った。