藤井聡太叡王に伊藤匠七段が挑戦する第9期叡王戦五番勝負(主催:株式会社不二家)は、両者2勝2敗で迎えた最終第5局が6月20日(木)に山梨県甲府市の「常磐ホテル」で行われました。対局の結果、角換わり右玉対穴熊のねじり合いから抜け出した伊藤七段が156手で勝利。大一番を制して自身初となるタイトルを獲得しました。
運命の最終局は藤井先手
再度振り駒が行われた最終局は先手番を得た藤井叡王が得意の角換わり腰掛け銀を採用。対する後手の伊藤七段は右玉の待機策を採ります。先後逆で戦われた本シリーズ第4局と同一の戦型ながら、左銀を低い位置に据えた伊藤七段としては専守防衛の傾向が強まります。
藤井叡王は自玉を穴熊の堅陣に収めて準備万端。満を持して飛車先の歩交換に出ます。対する伊藤七段が敵陣に角を打ち込んだのも当然の反発。それまでの駒組みからは一転して盤上は本格的な戦いに突入します。先手は桂得を、後手は玉の広さを主張して戦いは一段落したかに思われました。
驚愕の銀捨てで藤井ペースに
受け切りを目指す伊藤七段が6筋の歩を前進させたとき、この歩の前に穴熊の銀をガツンとぶつけたのが藤井叡王渾身の鬼手。瞬間的に銀損に陥るものの、空いた空間に桂を打てば後手玉を一気に危険な形に追い込めます。これが奏功し中盤は藤井ペースで推移しました。
守備の網を食い破られた格好の伊藤七段も粘り強い指し回しで決め手を与えません。金銀3枚で築いた右辺の安全地帯に玉を逃げ込めばすぐには寄りがない形で、なんとか攻め合いに持ち込むことに成功。藤井叡王としては自陣の銀取りを手抜いての猛攻も有力でした。
伊藤七段が猛攻受け切る
苦境を脱した伊藤七段は豊富な持ち駒で穴熊攻略に乗り出します。2枚の桂を相次いで急所に据えたのが味よい手筋で先手先手の攻めが続く形に。両者一分将棋、受け切りが難しいと見た藤井叡王はしびれを切らして反撃に出ますが伊藤七段はこの瞬間を待っていました。
ベタっと金を打って先手玉に厳しい詰めろをかけたのが自玉の不詰みを読み切った一着。藤井叡王は最後のお願いとばかりに王手ラッシュに踏み切りますが、伊藤七段の着手は冷静でした。終局時刻は18時32分、最後は王手が途切れたところでついに藤井叡王が投了。
一局全体を振り返ると、藤井叡王の中盤の猛攻を全身全霊の読みで受け止めた伊藤七段が鋭い反撃でまとめ切った好局となりました。シリーズ3勝2敗で叡王を獲得した伊藤七段は「タイトルは子どものころからの夢だったのでとてもうれしい」と笑顔を見せました。
水留啓(将棋情報局)