伊藤沙莉主演の連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合 毎週月~土曜8:00~ほか ※土曜は1週間の振り返り)で、主人公・寅子の盟友・山田よね役を演じ熱い視線を浴びている土居志央梨。すでに映画や舞台では知る人ぞ知る実力派女優だった土居だが、男装のよね役が当たり役となり、お茶の間でもブレイク。朝の情報番組『あさイチ』出演時には、明るくてよく笑う人柄とよね役とのギャップも話題となった。そんな土居のキャスティング秘話や魅力について、制作統括の尾崎裕和氏に話を聞いた。
伊藤演じるヒロイン寅子のモデルは、日本初の女性弁護士で、後に裁判官となった三淵嘉子。よねは、寅子の名律大学女子部の同期で、卒業後も寅子とともに法律事務所で働いていた同志だったが、寅子がよねに妊娠したことを伝えておらず、さらに寅子が法の道を断念するという流れになり激怒。よねが寅子に「こっちの道には二度と戻ってくんな」という捨て台詞を放ったことも記憶に新しい。第51回でよねと戦地から戻った轟太一(戸塚純貴)との再会シーンが描かれ、2人の生存確認ができたことで視聴者は安堵したが、56回で寅子とも再会が叶った。
京都造形芸術大学在学中に林海象監督の永瀬正敏主演映画『彌勒 MIROKU』(13)で鮮烈な映画デビューを果たした土居。さらに高橋伴明監督作『赤い玉、』(15)では主演の奥田瑛二相手に大胆な濡れ場に挑み、行定勲監督作『リバーズ・エッジ』(18)での体当たり演技でも強烈な印象を残す。すでに数多くのドラマ、映画、舞台などでは存在感を発揮してきた土居だが、朝ドラは『おちょやん』(20)に続く2作目の出演にて、山田よねという非常に重要な役柄を獲得した。
『おちょやん』では、しっかり者のお茶子頭・富士子役を演じていた土居だが、よね役のキャスティングについて尾崎氏は「『虎に翼』のチーフ演出の梛川善郎が『おちょやん』も担当していたのですが、その時の土居さんのお芝居がすごく良かったということで、脚本の吉田恵里香さんも交えて話したところ、山田よね役は土居さんにぴったりだし、彼女ならしっかり演じ切っていただけるだろうということでお願いすることになりました」と経緯を話す。
よね役は、寅子の同窓生のなかでも、長い時間を共有していくという大切な役どころで、土居のキャスティングはある種、大抜擢といえる。視聴率狙いでいえば、ネームバリューのある女優がよね役の候補となりそうだが、尾崎氏は「視聴率はもちろん大事ですが、それを取るために、物語や役者さんを選ぶということではなく、クオリティの高いものを作れば、きっと皆さんに観ていただけるだろうと信じて私たちは作品を作っています」とキッパリ語る。
「だから、極端な展開や狙ったようなキャスティングをするのではなく、『虎に翼』という物語を紡いでいくために必要な方、その役に合う方をキャスティングすることで、吉田さんの描きたいテーマをより膨らませていくという方向性でした」
実際に、よね役はかなりの反響を呼び、「あの女優は誰?」と回を追うごとに注目を浴びていき、ほぼ無名だった土居は、お茶の間でも市民権を得た。尾崎氏は土居の魅力について「よね役は、ある種の難しさがあるというか、とてもチャレンジングな役だと思いますが、その役を演じるにあたり、土居さんはしっかりとご自身でもいろいろと準備をされて作り込まれています。そういう点でも、すごく信頼できる役者さんだという印象を受けます」とその真摯なアプローチぶりを称える。
男装のキャラクターという点については「脚本ができる前の段階から、寅子の同窓生である女子部のキャラクターを考えていく時に、吉田さんから、山田よねという男装しているキャラクターのアイデアが出ていました。劇中の台詞にもありますが、男装の麗人として水の江瀧子がいて、当時そういう女性が社会で働いていたという事例もあったんです。いわゆる男社会での男装が、女性が戦うための武装、鎧的なものになるということで、アイデアが膨らんでいきました。だから男装は、よねのファイトスタイルというか、戦い方の象徴みたいなものです」と解説する。