第83期A級順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は6月14日(金)に開幕。この日は佐藤天彦九段―永瀬拓矢九段の一戦が東京・将棋会館で行われました。対局の結果、角交換四間飛車を採用した佐藤九段が120手で勝利。終盤の逆転劇から抜け出して順位戦好スタートを切りました。
天彦流のシフトチェンジ
両者14局目の対決(永瀬九段の8勝5敗)となった本局は後手の佐藤九段が角交換四間飛車を採用してスタート。4月に行われた斎藤慎太郎八段戦(王位戦)ではダイレクト向かい飛車を用いるなど、佐藤九段からは角交換型振り飛車にも芸域を広げる傾向が見て取れます。
ともに駒組みを進めて盤上は持久戦へ。佐藤九段が守りの右銀を中央に押し上げたのは自陣への角の打ち込みを警戒してバランスよい陣形を敷く狙いですが、玉の堅さを手放すだけに思いきった指し方。対する先手の永瀬九段は銀冠の堅陣を築いて戦いの時を待ちました。
玉頭の厚みで勝負!
佐藤九段が珍しい金冠に構えたところで永瀬九段が仕掛けます。中央で歩を交換したのは振り飛車からの反発を誘う意味合いで、手に乗って飛車先突破を含みに反撃すれば自然と自玉の堅さが生きてくるという大局観。先手ペースのまま局面は終盤の入り口を迎えました。
黙っていては不満と見た佐藤九段が7筋に歩を合わせ、玉側でのねじり合いに打って出た局面がポイントとなりました。じっと敵陣に角を成ることで右辺からの反撃に期待した永瀬九段ですが、飛車を手にした数手後の局面で敵玉に詰めろがかからないのが大誤算でした。
終局時刻は翌15日(土)0時29分、敵玉の詰みなしを認めた永瀬九段が投了。投了図で先手玉は詰めろがかかっていて、受けても一手一手の局面でした。一局を振り返ると、右辺からのさばきに見切りをつけ玉側での勢力争いに力を発揮した佐藤九段の逆転譜となりました。
水留啓(将棋情報局)