KDDIは6月14日、5G(Sub6)エリアの拡大と通信品質向上についての説明会を開催しました。席上では、2024年5月末の時点で、関東地方のSub6エリアは2024年1月時点の2.8倍となり、全国では同じく1.5倍になっていることが発表されています。またSub6エリアでは、4G周波数帯の転用によって5Gサービスを提供しているエリアにくらべ、通信速度が約3倍に向上したことも報告されました。
5Gは普及期に入り、4G転用周波数からSub6へ移行
今回の説明会は、同社が2024年5月末までに実施した、Sub6(3.7GHz帯/4.0GHz帯)により5Gサービスを提供するエリアを拡大する計画の結果報告といったニュアンスのもの。その内容を理解するには、まず同社の5Gサービスの展開方針から話を始める必要があります。
KDDIに限った話ではありませんが、モバイル通信の5Gサービスが利用する周波数帯は、「4G転用周波数」「Sub6」「ミリ波」のいずれかになります。大雑把にいうと、エリア展開のしやすさでいえば「4G転用周波数」>「Sub6」>「ミリ波」という順で、通信速度に関していえば「ミリ波」>「Sub6」>「4G転用周波数」という順になります。このためKDDIでは、2023年度までの5G導入期においては4G転用周波数により5Gエリアの整備を優先してきました。そして2024年度からを5G普及期とし、Sub6により5Gサービスを提供するエリアを一気に拡大しようとしています。
こういった方針のもと、5G基地局整備を行って結果、KDDIは5G基地局を約9.4万局展開するに至り、このうちSub6による基地局は約3.9万局。いずれも国内4キャリアで最多となっています。このSub6基地局数の増加が、Sub6エリア拡大の1つの要因となっています。
衛星干渉条件の緩和でSub6エリアは一気に拡大
しかしSub6基地局の整備だけでは、「2.8倍」「1.5倍」というほどのエリア拡大にはなりません。今回これほどのエリア拡大が可能になったのには、「衛星干渉条件の緩和」という要因があります。
実は5Gサービスで利用するSub6の周波数帯は、人工衛星と地上の通信に利用する周波数帯と重複しています。このため、衛星通信に干渉することのないよう、衛星通信の地上設備の周辺のSub6基地局は出力を制限していたのです。
それが、衛星通信の地上設備の移転などの対策が進んだことにより、2024年3月末をもって広い範囲でこの出力制限が解除されました。その結果、Sub6基地局の出力を最大化することが可能となり、Sub6エリアは関東エリアで2倍になりました。
さらにもうひとつ、Sub6エリアでは前述の干渉防止のため、アンテナの角度もやや下向きに調整し、狭い範囲をカバーするように設定されていました。これも制限解除により、もっとも効率よく利用できる角度に最適化することができるようになります。この効果もあって、関東のSub6エリアは1月末比で2.8倍まで広がったわけです。ちなみにこの角度の制御はリモートで行えるそうです。
なお、今回の計画によるSub6エリアの拡大が「関東エリアで2.8倍」「全国で1.5倍」と一様でないのは、ひとつには衛星通信への干渉を避けるための出力制限を行っていたのが東京・大阪・名古屋などの都市部を中心としていたためとのこと。衛星通信の設備がない地域では従来より制限を行っておらず、関東では衛星干渉条件緩和の恩恵を大きく受けることになったそうです。また、Sub6エリア拡大には前述のように基地局の建設が進んだことも要因となっているため、この期間における基地局建設の多寡も影響しているそうです。。
衛星干渉条件の緩和の恩恵を受けるのはKDDIだけではなく、例えばソフトバンクもこれをアピールしています。それに対しては、前述のようにKDDIが業界最多の基地局を持っていることから、出力制限終了の恩恵をもっとも大きく受けられると話していました。
KDDIでは基地局整備にあたり、鉄道・商業地域など多くのユーザーの生活動線上にあるスポットを優先していますが、今回のSub6エリア拡大によってもそういったスポットが大きく恩恵を受けており、鉄道駅では5G対応している707駅のうち612駅がSub6化。商業地域でも5G対応が423スポットのうち363スポットがSub6化しているそうです。
このSub6エリア拡大においては、単に「カバーする」というだけでなく、「十分な電波強度でカバーする」ということも意識しているようです。それをあらわすのが次のスライドで、濃いオレンジであらわされているのが-100dBm以上の電波強度になっており、車内や屋内でもSub6を利用しやすいとするエリア。ベージュで示されている、Sub6ではあるが電波強度が-100dBmに及ばないエリアも多いですが、他社と比較してオレンジのエリアが広くなっているというデータです。
なお、5Gサービスが開始された際に「弱い電波の5Gにつながってしまったせいで4Gよりもむしろ遅い」という現象がありましたが、4G転用5GとSub6の間でも同様なことはおこるようです。このあたりは、Sub6の電波がかろうじて届いていても無理にSub6で接続するのではなく4G転用5Gに接続する、というようなチューニングを行っているとのことで、運用の腕の見せ所という感もあります。
4G転用からSub6への移行で、通信速度は約3倍に
ユーザーとして気になるのは、このSub6への移行により、どれくらい通信速度がアップするのかということです。
前田氏の説明によれば、4G転用による5Gでは実効速度が70~100Mbpsのところ、Sub6ではその約3倍の300Mbps超の実効速度が出せるといいます。この速度の違いは、動画視聴を例にとると、70~100Mbpsだと再生開始時に数秒の読み込み待ちがあってから動画がスタートするのに対し、300Mbpsならば画面をタップするとすぐに再生が開始されるという感じだそうです。また70~100Mbpsでは途中で一瞬止まってしまうようなこともありますが、300Mbpsではそういったこともなくスムーズに再生されます。
もうひとつSub6で改善されるのがレイテンシ(通信応答時間)。多くのオンラインゲームで推奨される30ms以下のレイテンシを維持できる率は1月時点でも92%となっており、この6月の時点でも92%で変わらないようですが、さらに快適な20ms以下のレイテンシとなる率が68%から75%に改善されているといいます。
出力アップを行った瞬間、電波強度が上昇。通信速度も大幅に向上
説明会の後半では屋外に移動して、基地局の出力アップにより、どれくらいのスピードアップにつながるかを見せるデモンストレーションも行われました。
実際に計測した出力アップ前の状態の通信速度は、ダウンロードが72.6Mbps、アップロードが6.10Mbps。電波強度は-110dBm前後で推移しており、先の説明にあった-100dBmという電波強度に届かない状況でした。
それが、コントロールセンターと中継をつないで出力向上を行うと、電波強度は-85~-90dBmと、-100dBmを超えるようになります。その状態で通信速度を計測すると、ダウンロードが307Mbps、アップロードが11.7Mbpsとなり、見事に速度向上が果たされました。
2030年まではミリ波不要? 今後の5G整備ではインフラシェアや仮想化も活用
KDDIはこれまで、5G導入期としてインフラ投資を積極的に行ってきました。5Gの投資はピークを越えて巡航フェーズに入り、整備した基地局の品質向上や高度化、キャパシティ・スループットの向上などに注力していく考えです。
今後のインフラ整備の方針としては、2030年までは「ミリ波がなければキャパシティが不足する」という状況にはならないという認識に基づき、当面はSub6の拡充を行い、その後にミリ波の環境を整えるという順番になります。ミリ波の普及にあたってはインフラだけでなく端末側の対応、価格低廉化が必要になるため、メーカーとともに業界を挙げて取り組んでいきたいといいます。
インフラ整備にあたっては、ソフトバンクとのインフラシェアによる効率化、仮想化へのシフトなども活用し、コスト低減を図りたいといいます。同社は4G基地局整備にあたり、10年をかけて20万局強を設置しましたが、5Gにおいても同等以上に整備すると語っていました。