ホンダの軽EV(電気自動車の軽自動車)がついに発売となる。いまや軽自動車界の雄となったホンダが満を持して発売する軽商用EV「N-VAN e:」は、どんな特徴を持つクルマなのか。価格や仕様は? ライバルはどのクルマ? 実車を見て詳細を確認してきた。

  • ホンダ「N-VAN e:」

    ホンダが2024年10月に発売する軽商用EV「N-VAN e:」

1人乗り仕様も選べる!

ホンダは新型軽商用EV「N-VAN e:」を2024年10月10日に発売する。

「N-VAN e:」は車名からもわかる通り、軽商用車「N-VAN」をベースに開発されたEVだ。ホンダは2022年12月にプロトタイプを発表し、2024年春の発売を予告。2023年にはヤマト運輸の協力のもと、N-VAN e:の活躍の場のひとつとして期待される集配業務において実用性の検証も行っていたのだが、発売は遅れていた。一部部品の量産に向けた生産体制の整備の遅れが理由だったという。

  • ホンダ「N-VAN e:」

    「N-VAN e:」の開発コンセプトは「e:CONTAINER 移動蓄電コンテナ」。環境に優しく自在に使える軽EV商用車を目指し、N-VAN同等の積載能力を備えつつ、はたらくクルマとしてEVであることの強みをいかせるクルマに仕上げたそうだ

外観でN-VANと大きく違うのはフロントマスクだ。充電口とEVシステム用の冷却機能を取り付けるため、専用のフロントバンパーとフロントパネルを装着している。左右のヘッドライトに挟まれたフロントパネルには、運転席側に普通充電口、助手席側に「CHAdeMO」式の急速充電口が備わる。N:VANの左側後方側面にある給油リッドは廃止されている。

  • ホンダ「N-VAN e:」

    フロントパネルに充電口が2口

  • ホンダ「N-VAN e:」

    荷室へのアクセスに重要なドア構造はベース車と同じ。助手席側にBピラーレスの大開口を備えている

室内空間もN-VAN同等を確保。運転席以外を格納し、床面をフルフラット化できる4人乗り仕様に加え、運転席の後ろにのみ折り畳み式後席を備えるタンデムタイプの2人乗り、座席を運転席のみとしてさらなる床面の低床化を図った1人乗り仕様を設定する。

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    床面をフルフラット化できる4人乗り仕様

  • ホンダ「N-VAN e:」

    インテリアパネルにはコンテナの外観から発想した縦のビードデザインを採用している

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  • ホンダ「N-VAN e:」
  • フロントパネルや内装パネルの一部にリサイクル素材を使うなど環境にも配慮。EV化に合わせて、運転席周りに電動シフトやデジタル液晶メーターパネルなどを採用しているところも「N:VAN」との違いだ

機能面では最新の先進運転支援機能「ホンダセンシング」に加え、軽商用バン初となるサイドカーテンエアバックとサイドエアバック、軽自動車初の衝突後ブレーキシステムを標準化し、安全性能を高めている。さらに、全車で外部給電機能を標準化。リモート充電・給電などが行えるコネクテッド機能「ホンダコネクト」にも対応している。

  • ホンダ「N-VAN e:」

    外部給電機能は全車で標準装備

EVとしての能力は? 重量増にも対応!

29.6kWhのリチウムイオン電池はフロア下に搭載。航続距離245km(WLTCモード)は、軽EVとして見れば優秀といえる。

  • ホンダ「N-VAN e:」

    モーターはフロントのエンジンルーム内に収めた。駆動方式は前輪駆動だ

普通充電は最大で6kWの出力に対応。満充電までに要する時間は約4.5時間(6kW時)だ。急速充電は最大50kWに対応し、約80%まで回復させるのに約30分(50kW時)とされている。

  • ホンダ「N-VAN e:」

    業務終了後に普通充電を始めれば、翌日にはバッテリーが満タンになっているはずだ(写真は急速充電の様子)

EV化するとどうしても車両重量が増加するが、対策は十分だ。例えば重くなったクルマを減速させるためのブレーキについては、性能を高めるべく容量を増やした。最大積載量の低下に対しては、1人乗りや2人乗りの仕様を設定することで対応している。タイヤはブレーキの大型化で、N-VAN比1インチアップの13インチに変更。これにより、乗り心地も向上したという。

価格は高め? ライバルはけっこう多そう!

仕様は1人乗りの「e:G」、2人乗りの「e:L2」、4人乗りの標準車「e:L4」、アイボリー内装で外観はツートンカラーも選べる「e:FUN」の全4タイプ。EVとしての走行性は全て同等だが、「e:FUN」以外には急速充電機能を除いた仕様も用意する。主力は法人向けとしながらも、ビジネスからホビーまで幅広く使える上級タイプ「e:FUN」までそろえるのは、こだわりの強い個人事業主や趣味でEV軽バンを使いたい個人を狙うためだ。

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    遊びのためのクルマとして「N-VAN e:」を買うのももちろんアリだ

注目の価格だが、シリーズ全体では243.98万円~291.94万円と200万円台に収めた。とはいえ、ベースのN-VAN(136.51万円~201.63万円)と比べるとかなり高価だ。ただ、黒ナンバーの「軽貨物運送事業用車両」ならば事業者用補助金(LEVO補助金)が適用となり、約100万円の補助が受けられるので、車両価格は全グレード200万円を切る設定になるという。また、「一般使用補助金」(CEV補助金)でも軽自動車の最大補助額である55万円が適用されるというから大きい。

車種こそ少ないが、ライバルもしっかりと存在する。最大のライバルは三菱自動車工業が先行投入していた「ミニキャブEV」だ。こちらは2023年11月の大幅改良で航続距離が180km向上。割り切った仕様でもあるため、価格は240万円台に抑えられている。同モデルには姉妹車として日産自動車版「クリッパーEV」もある。日産の販売力を考えると、侮れない存在といえるだろう。

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    三菱自動車の「ミニキャブEV」

日本のファブレスEVメーカー「AFS」が手掛ける「AFS 2.0」は、その実力は未知数ながらも、航続距離は243km(JARI測定値)とN-VAN:e同等で価格帯も近い。さらに、発売が延期されているが、ダイハツ工業、スズキ、トヨタ自動車の協業による軽商用EVもいずれ登場する。

現時点で、トータル性能はN-VANが最強だ。しかし、軽商用EVで難しいのは、購入者が必ずしも使用者とは限らないことだろう。

N-VANは上級車路線の軽乗用車「Nシリーズ」と基本を共有するため、全方位でポテンシャルが高い。特に先進機能を含め、安全面では抜きん出ている。ただその分、コスト面では不利だ。事業者からすれば、利益を上げるためには車両価格を抑えたいというのが本音だからだ。そのため、N-VAN e:では、急速充電なし仕様を用意するなど価格を重視した設定も行っている。

一般ユーザー目線だと、245kmの航続距離は物足りなく感じる。ただ、N-VAN e:は、気候が暑くても寒くても1日100kmはしっかりと走れる性能を確保することにこだわった。一般的に、配送事業者の1日の移動距離は70~80kmとされるため、十分にカバーできるというわけだ。ヤマト運輸とのテストでのフィードバックとして、加減速時の荷物の落下を防ぐため、アクセルと回生ブレーキを少し穏やかにするための専用チューニングも行っているというから、作り込みも期待できる。

カーボンニュートラルの実現が社会課題となる今、身近な商用車である軽商用EVのニーズは今後、拡大していくだろう。簡素なモデルが多い商用車の中で、N-VAN e:は先進的かつ機能的で、ちょっと特別なクルマに仕上がっている。その分、価格競争では厳しい面もありそうだが、その魅力をいかに企業に売り込めるかが勝負となりそうだ。