HIYADAMが語る、ダンスミュージックとヒップホップが交わる先で見つけた新境地

15歳の頃にラップを始め、オールドスクールなヒップホップスタイルを経て、テクノやハウスのようなダンスミュージックにラップを乗せる独特なラップスタイルに転向。モデルとしてパリコレにも出演するなど異色のキャリアを築いているHIYADAMが、実に5年ぶりのアルバム『Capture Land』をリリースした。Elle TeresaやJUBEE、Ralphなど、初コラボを含む客演が全ての曲に参加し、全曲Yohji Igarashiがプロデュース。2人の世界観に引き込まれたゲストラッパーたちの新鮮な魅力を引き出したエッジの効いた本作はどのような生活から生まれたのだろう。そこには、感じ方、表現、音、全てにおいて型にはまらない、自由自在なアーティストとしてのスタンスがあった。

【動画を見る】HIYADAM - 2nd Album "Capture Land" Showcase

ー最近はどのように過ごされてるんですか?

拠点は日本だけではなくて、いろんなところを転々としよう思ってます。自分は北海道出身なので札幌と、あと東京に住んだことしかなくて。でもここに住む理由もないよなと去年思いついて。いろんなところを見てから、住む場所を決めてみようかなって。あとは最近はよく海に行ってます。散歩がてら朝起きて行って。結構そこで仕事のこととか、これから何しようかなとか、考える時間が作れてます。

ー音楽はどんなものをよく聴いてるんですか?

前からレゲエを聴くことが多いです。レゲエが好きだから四つ打ちも好きみたいなところが結構あります。僕のビート作ってくれてるYohji Igarashiとかもよく言うんですけど、レゲエとハウスは一緒だって。BPMが半分ぐらいで、乗り方が似てるんです。

ーハウスやテクノはあまり聴かないんですか?

聴きますよ。でもヒップホップとかレゲエの方が割合は実際多いかもしれないです。でも時期によります。気分ですね。

ー音楽制作のインスピレーションはどこから湧いてくることが多いんですか?

日常の中からしかないですね。インプットのために他の作品を見たり聴いたりすることも少なくて。これがかっこいいとかこれがかっこよくないとか、そう言う基準を自分の外に置かないようにしてます。一言で言うと何かを見てリリックを書くことはないって感じですかね。なるべく自分の中にあるものを出せる状態に自分を持っていってる。リリックが素直に出てくるような生活をするみたいな。だからインスピレーション源は自分の生活でしかないんです。だからインスピレーションは、入ってくるっていうよりかは、自分の中から湧いてくる状態にしています。

ーすごくオーガニックな状態で制作されているんですね。「自分の中」といえば、例えば愛だったり不安や怒りだったり、エモーショナルな部分はどうでしょうか。

それで言うと、感情の面は常に曲の中で半分半分にしようと思って曲を作ってます。メロディラインも、楽しいメロディとネガティブなメロディとか、そういうことを意識しようとしてます。僕の声も、歌い方を意識してそういうふうに歌っていて。自分の声の中のネガティブとポジティブの周波数みたいなものが混在してたら一番おもしろく聴こえるんじゃないかなと。作品の捉え方って、人によって違っていいと思うんですよ。だから僕の音楽は頭で考えて聴かないで、体験としてただ感じてほしい。でも僕のタイプとしては、結構”悲しさ”からリリックが来ます。ネガティブな感情がめちゃくちゃあって、それをどうリリックにするかっていう感じです。

「2nd Album "Capture Land" Showcase」より

Yohji Igarashiとの化学反応

ーなるほど、それは新視点でおもしろいです。リリックの話も出ましたが、HIYADAMさんは元々はオールドスクールなヒップホップをされていたと思うんですけど、途中からテクノやハウスなど、ダンスミュージック系のビートでラップをし始めましたよね。

ヒップホップは常にいろんなものを掛け合わせて新しいものに昇華してくカルチャーだと思ってるんで、自分の好きなハウスとヒップホップを掛け合わせたら絶対おもしろいと思ってずっとやってみたかったんです。そんな時にたまたまYohji Igarashiと出会って、そういう方向に進んで行きました。

ーご自身のやっている音楽のことを”ニューヒップハウス”だとおっしゃってますね。2019年とかの段階だと結構日本では新しいことをやっていたんじゃないかと思うんですけど、ガラッと音楽性を変えた時は不安などはなかったですか?

でもその時は、どうせ全然評価されないでしょって思ってました。ネガティブな感じですけど。スタイルを変えて、今までのファンや聴いてくれた方はもう好きじゃないって言うかもしれないと思ったし、また一からって感じだと思ってたので、思ったより受け入れてくれたなって感じました。こういうことをヒップホップの中でやってたら、人によっては「あんなのヒップホップじゃない」って思われると思ってたんですけど、意外とみんないいねって思ってくれた感じがしました。

ーYohji Igarashiさんとは最初、どうやって出会ったんですか?

オカモトレイジくんに「コストコ行こうよ」って誘われて、「ちょっと友達連れてくね」って連れてこられたのがYohji Igarashだったっていう感じです。だから全然知らない人と俺はコストコに行って。その車の中でYohjiくんが作ってたビートを聴かせてもらって、「めっちゃいいっすね、曲作りましょう」って話になりました。僕はダンスミュージックのビートを作る人をずっと探してたんです。世には出てないんすけど、タイプビートを使って自分でラップを乗せた曲もあって。それくらい自分の周りにトラックメーカーがいないんだよなっていう状態だったんです。

ーダンスミュージックのトラックを作っている人は他にもいるとは思うんですけど、HIYADAMさんはYohjiさんのトラックのどんなところを魅力に思ったんでしょう?

めちゃくちゃサイケデリックなビートだと思って。ベースラインとかが特に。でも何がっていうよりも感覚的に好きです。曲も半分彼が作ってますし、本当に彼がいなかったら何も始まらないので、僕の半分のような存在です。彼がいて、自分の発想が広がる。

ーアルバムはYohji Igarashiさんが全曲プロデュースされていますね。2人でアルバムを作ることになった経緯を教えてください。

元々、1曲ずつシングルカットできる曲を作っていて。アルバムにすることも考えずに、1曲ずつ良い曲を作っていこうみたいな流れから、結構曲もたまってきたし、アルバムにしようかなっていうぐらいの感じですかね。自然な流れでした。でも去年1年間くらいはアルバムを作ってるっていう感覚だったかもしれないです。事前にアルバムのテーマとかは全然決めてなくて。でも最終的に曲も揃って、今自分が考えてることってなんだろうって思った時に、このアルバムのテーマを思いつきました。

ーそれはこのアルバムのタイトルになっている「Capture Land」のことでしょうか? レゲエの作品で同じタイトルのものもありますよね。それは関係してるんでしょうか。

そうです。それもちょっと関係してます。でもちょっと色々調べてみてほしいですね。

ージャケットのアートワークも気になりまして、HIYADAMさんが地球儀を持ってシャンデリアからぶら下がってるじゃないですか。それも色々意味がありそうだなと思いました。

割と想像にお任せしたいって感じではあるんですけど、あれは部屋じゃないですか。部屋っていうのが僕的にはキーワードになっていて、自分の落ち着ける部屋というか、自分の家でもいいんですけど、そこから全てが発信されてるよっていう意味合いがあります。部屋というよりは子供部屋って感じですかね。僕の部屋とかも子供部屋みたいにフィギュアとかを置きまくってたりしてるんで。その子供部屋から全てが生まれてるよっていう。でも地球儀持ってるんですよ。しかも俺ぶら下がってるから全部逆さまなんですよ……って感じですね。想像して勝手に考えて、「これこういう意味でしょ」って考察してもらえるのが一番いいかなと思います。

ーアルバムの制作はどうやって進めていったんですか? ビートはどれくらいの頻度でもらっていたんでしょう。

いきなり2曲とかパンって送ってくるときもあるし、「なんかビートないですか?」みたいなやりとりをしていて、「ボツにしたビートしかないんだよね」って言われたけど一応もらったビートが結構アルバムに入ったりしてます。Yohji Igarashiのボツビートには最強のビートが残ってるんです。俺的にはなんでその曲をボツにしたのか分からないほど。

ーそれは本当にボツにならなくてよかったです。制作は遠隔で進めていったんですか?

そうですね。あんまり会って一緒に作るとかは、今のところしてないです。大体ビートが送られてきて、それに対してラップをして、別にお互いこうした方がいいとかいうアドバイスも一切なく。

ーなるほど。ではYohjiさんがプロデューサー視点で何か指摘してくることはなかったんですね。

ないっすね。お互い言うことがあんまりないっていう感じ。もちろん自分で録りなおしたりはしますよ。Igarashiくんの方でもボーカルが乗った後にビートをいじってくれるんで。だから最初に録ったものからは結構変わるんですけど、それはお互いの感覚で何も言わずともやってる感じなんです。感覚的にかなり近い存在ですよね。

YouTube【Official Audio】より

全曲客演を入れた理由

ー相当ヴァイブスが合うんですね。あとはこのアルバム、全ての曲に客演を迎えていると思うんですけど、それは何か意図があったのでしょうか。自分一人でラップする曲をあえて入れていない?

そうですね。あえて入れてなくて。最初にアルバムを作ろうってなったときに全曲客演を入れることを決めて。自分とYohji Igarashiで何年間か仲を深めていって、今なら自分の世界観の中に人を入れても崩されないんじゃないかって思って。崩されないっていうか、純粋なプラスになってくっていうか。自分たちの想像つかなかったラップが入ってくるわけなんで、その曲の空間が広がるというか、さらに壮大な曲になるはずだと思って。例えば四つ打ちのトラックでラップしているのを聴いたことなかった客演の方もいたので、その方からすげえかっこいいバースが届いたときには、これで世界がさらに広がった曲になったと思いましたね。

ー確かに。このアルバムでしか聴けないようなトラックの組み合わせをされてるアーティストの方も目立ちました。客演はどういう基準で選びましたか?

自分がかっこいいと思って、すごい刺激を受けてるアーティストの方々ですね。みんな多分想像ついてないけど、俺らだったら爆発起こせるんじゃない?っていう人。

ー特にElle Teresaさんとかはこういうビートでラップしてるのが新鮮でした。

どういうふうになるのかは想像つかなかったけど、これは絶対にいいものになるに違いないっていう確証はありました。

ー彼女が参加した「Small World」はHIYADAMさんのめちゃくちゃ高音の部分が特徴的だなと思って。

家でRECしてたんですけど、ビートを聴きながらいろんなメロディーをはめれないか試してて、でもずっと自分の今までの型にはまってたっていうか。もっとハチャメチャなことをしてる曲が作りたかったんですよ。ただクールにラップするんじゃなくて、自分のいろんな声を使ってみたくて。だから自分を壊してくっていう気持ちがサビの高音部分に入っちゃったんじゃないですかね。僕もこの曲はいい曲なのか悪い曲なのか分かんないんです。

ーでも癖になる曲ですよね。

かっこいいとか悪いとかそういう概念でこれは捉えてない。みんながかっこよくやろうって思って作ってる中で、ここまでストッパーを外して作ってる曲は中々ないから、これはこれでおもしろい曲だと思います。アルバムでも最後の方にできた曲なんですけど、絶対に入れようって思いましたね。

ーあと気になったのが「I RAVE U」のRemix。原曲もいいですが、KAMIYAさんを迎えているのもアツいです。

そうですね。まだお会いしたことはないんですけど気になってて。この曲に新しい風を吹かせてくれるんじゃないかと思いました。KAMIYAさんが作る曲はヴァイブスが高くて魅力的ですよね。これは去年の年末くらいに録りました。

ーHIYADAMさんとの組み合わせは新鮮でしたが、確かに彼女がRemixに参加されることによって一段とヴァイブスが高まった感じがしますね。RemixでいうとYohji IgarashiさんとDaokoさんの曲「MAD」のRemixも収録されてますね。

そもそも「なんで僕にこのビートをくれなかったの、俺が使いたかったんですけど」っていう感じで。まずこの原曲が超かっこいいと思ってて、Daokoさんやばくて。最初はライブだけのためでもいいからリミックスしたいなって思ってたんすけど、出しちゃいました。

ーずっと狙ってた曲だったんですね。あとは個人的に好きなのがゆるふわギャングを迎えた「Yabba Dabba Doo!」で。結構前にリリースされた曲ではありますが、ミュージックビデオも強烈でしたよね。撮影の時のことは覚えてますか?

覚えてますよ。病院のシーンはドラマとかでも使うような病院のスタジオも借りて、銭湯のシーンは普通に営業してる銭湯を借りて撮影しました。だから朝風呂の前の営業してない時間に撮影したので、朝はめっちゃ早かったんじゃないかな。ゆるふわのお二方にはかなり長時間の撮影をしていただいて、感謝してます。

ーあの2人もだいぶパンチのあるビジュアルでかっこよかったですよね。映画に出てきそうでした。

すごいっすよね。俺、なんか大丈夫かなみたいな。みんなで並んだらインパクトめっちゃ弱くないかなって思ってました(笑)。

ー今回のアルバムリリースに合わせては、MVではなくオフィシャルオーディオを公開されてますよね。

これはなんか曲だけYouTubeに載せるのも味気ないなと思って。せっかくだからちょっとビジュアルイザーみたいなものを、曲ごとにちょっとずつ変えて作ろうかという感じで作りました。テレビとかPCのスリープモードで流れてくるみたいな映像みたいなラフな感じの中に俺がいるっていう。曲が激しすぎるから、映像はちょっとゆるくしました。

ー確かに。いいバランスですね。最後に、HIYADAMさんがこれから挑戦してみたい音楽のスタイルがあれば教えてください。

もっと自分の中の感情を吐き出すような音楽を作りたいと思ってて。そういうときに、ラップがいいのか歌がいいのかっていうのは、そのときにまた考えたいなって。今ももうそういう曲を作ってはいるんですけど。今のスタイルでも曲によって伝えたいことは込めてて、サラッと聴けるけど意外とヴァイブスが高いみたいな感じで。そういう「行くぞ! やるぞ!」みたいなヴァイブスの高い曲もみんな楽しいと思うけど、また違うやり方でもっと感情を込めまくった曲を出すのも響くんじゃないかなと思ったんで、今までやってない分、これからやってみたいですね。なので、またガラッとスタイルとかも変わったりとかも全然あり得るって感じですかね。

<INFORMATION>

Album『Capture Land』

HIYADAM

Label:AOTL

Tracklist:

01. Opera feat. SALU, DexusOgawa

02. Small World feat. Elle Teresa

03. Come! feat. Only U

04. Yabba DabbaDoo! feat. ゆるふわギャング

05. E:motion feat. (sic)boy, RyugoIshida & Kenya Fujita

06. Sp33d★s feat. JUBEE

07. Bet feat. ralph

08. Dishhh! feat. MonyHorse

09. 寝起feat. VILLSHANA

10. I RAVE U (Remix) feat. KAMIYA

11. Dirty feat. JinDogg

12. PUMPPP feat. kZm

13. MAD (Remix) -feat. Daoko

14. Honey feat. Yo-Sea

15. Champ feat. Vividboooy

配信リンク

https://aotl.lnk.to/HIYADAM_CaptureLand

HIYADAM

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