パナソニックの薄型テレビ「ビエラ」シリーズに、アマゾンの「Fire TV」を搭載した新しい4Kテレビ 計6シリーズ13機種が6月21日から順次発売されます。人気シリーズのコラボレーションはどのような経緯で実現し、Fire TVが載ることでビエラはどう進化するのでしょうか。パナソニックの金澤貞善氏、大竹隆太郎氏と、アマゾンジャパンの西端明彦氏に詳しく聞きました。
ビエラとFire TVのめざす方向は同じ
パナソニックは2008年、当時は世界初となるインターネットに接続してYouTube再生が楽しめるビエラシリーズのテレビ「PZR900」を発売しました。それ以来、パナソニックは放送とインターネット動画の両方を快適に楽しめるテレビを探求し続けています。
ビエラがアマゾンのFire TVを搭載するというニュースは、2024年1月にラスベガスで開催されたエレクトロニクスショーの「CES」を舞台に発表されました。国内では4K高画質の上位モデルからFire TVへの対応が始まります。5月の国内発表以降、パナソニックに寄せられる反響について大竹氏に聞きました。
「パナソニックは自社のテレビ製品で、放送とインターネット動画の視聴体験を融合することに長く注力してきました。アマゾンも同じように放送とインターネット動画、両方を快適に楽しめるFire TVシリーズを展開しています。両社がめざす方向性が合致して、今回のコラボレーションが実現しました。ビエラによる高品位な画質・音質の体験価値は、既に多くの方々から信頼を獲得しています。Fire TVを搭載することにより、音声検索を含むさまざまな体験価値の向上を楽しみにされている方の声が聞こえています」(大竹氏)
大竹氏は、パナソニックがFire TVを新たなスマートテレビのプラットフォームに選んだ大きな理由がもうひとつあるといいます。
それは、パナソニックが従来からビエラの国内モデルでこだわってきた「お部屋ジャンプリンク」、「TVシェア」といった独自機能が、Fire TVをベースとするプラットフォームに引き継げたことです。
ビエラ 日本モデルだけの「便利機能」をそのまま継承
パナソニックは2024年からFire TV搭載のビエラを世界各地で展開しますが、「お部屋ジャンプリンク」や放送中・録画したテレビ番組をモバイルアプリで視聴できる「Media Access」などの機能は、日本市場に固有のものです。
放送とインターネット動画の融合という両社が共有するテーマの下、日本独自の機能を載せることに、アマゾンのFire TVの開発チームも粘り強く挑んできました。アマゾンの西端氏がその過程を振り返ります。
「テレビのカスタマーニーズは国や地域ごとに細かく違います。パナソニックが国内向けのテレビに搭載してきた重要な機能は、世界展開するグローバルモデルにもそのまま搭載されるわけではありません。アマゾンジャパンのチームがパナソニックと連携して、日本のお客様の声を海外の当社開発チームに伝えながら、ビエラ独自の機能をFire TVのプラットフォームに組み込んできました。Fire TV独自のサクサクとした操作感や、Alexaによる音声操作と合わせて、テレビによるエンターテインメント体験が豊かさを増していることが実感いただけると思います」(西端氏)
Fire TV搭載のビエラは、Alexaによる音声操作で宅内のスマートホーム機器をコントロールしたり、スマートホームダッシュボードから動作状況を確認する機能も搭載しています。パナソニックには現在、エアコンのエオリア、パルックLEDシーリングライト、ネットワークカメラなどさまざまなAlexa対応のスマート家電があります。
大竹氏は、Fire TVを搭載するビエラの「音声認識の精度」がとても高いことを繰り返し強調しています。特に、上位シリーズであるZ95AとZ90Aは専用のリモコンのほか、テレビ本体にもマイクを内蔵していて、ハンズフリーによる音声操作にも対応します。
さらに付け加えると、オプションの外付けカメラを接続することで「テレビでビデオ通話」ができることも、従来モデルにない特徴です。
Alexa対応は万全。将来の進化も期待できる
アマゾンが2023年10月に発売したストリーミングメディアプレーヤーの「Fire TV 4K Stick」は、生成AIの技術をベースにした機能拡張が図られています。
たとえば、自然な言い回しでAlexaと会話を交わすように動画配信サービスのコンテンツを検索したり、ユーザーがアマゾンのクラウドフォトストレージに保存した写真に生成AI技術に由来するエフェクトを付け、ホーム画面の壁紙画像として活用できる機能などがあります。アマゾンはこの機能を北米地域から導入開始しました。残念ながら同機能の日本地域への導入はまだこれからです。
パナソニックの新しいビエラも、やがては「生成AI対応のテレビ」になるのでしょうか。大竹氏の見解を聞きました。
大竹氏は「あらゆる方法で、ビエラの快適な使い勝手をさらに高めていくことに手間は惜しまない」としたうえで、今のところ生成AIの技術をテレビに搭載する具体的な計画はないと答えています。ただ、「今後もAIの進化に伴う提案をしたいと考えており、この部分ではアマゾンとのパートナーシップが強みとして活きるはず」と前向きにコメントしています。
アマゾンのFireTVシリーズは、これまでにもオンライン経由のソフトウェアアップデートにより新しい機能を追加してきました。Fire TVを搭載するビエラにも、今後は新しい機能をFire TVシリーズと同じタイミングで供給するのでしょうか。西端氏が次のように答えています。
「そのようになると思います。Fire TVのプラットフォームに加わる新機能やユーザーインタフェースの改善は、基本的にはアマゾンのFire TVシリーズだけでなく、パナソニックなどパートナーの皆様によるFire TV搭載スマートテレビにも同じタイミングで追加される予定です」(西端氏)
パナソニックのビエラは外付けのUSBハードディスクに2番組同時録画もできるスマートテレビです。Fire TVのコンテンツ検索機能は、ビエラに録画した番組もネット動画と一緒に検索の対象としてくれるのでしょうか。
西端氏によると、「ユーザーが過去に見た番組、直前に選択したチャンネルなどの視聴履歴に基づくコンテンツ検索のアルゴリズムは高い完成度を誇る」そうですが、録画済みコンテンツを解析するアルゴリズムは現時点で含まれていないといいます。ただ、西端氏は「ニーズがあることは把握している」として、今後もカスタマーニーズを見ながら「求められる機能を実現する」ことに注力すると答えています。
Fire TV搭載のビエラはどこまで拡大するのか
パナソニックの金澤氏は、コロナ禍の間にビエラをインターネットにつないで動画コンテンツを楽しむユーザーが増えて、現在はインターネット動画の活用が定着した感触を得ているといいます。
「ビエラのインターネット接続率はコロナ禍の前が60%程度でした。コロナ禍後には80%を超える勢いで伸びています。パナソニックには国内の地域に根ざした『街のでんきやさん』(パナソニックショップ)のネットワークがあります。こちらのお客様の中には、従来あまりテレビのインターネット機能を使っていなかったという高齢の方もいらっしゃいます。ところがコロナ禍を経て、YouTubeなどさまざまなインターネットを使い始めたという方の声も届いています」
Fire TVを搭載するビエラは当初、有機ELのZシリーズと液晶のWシリーズからスタートしますが、今後はパナソニックの他のテレビ製品にも広がるのでしょうか。
金澤氏は「ZシリーズとWシリーズの反響を見ながら、順次拡充を検討したい」と答えています。パナソニックには壁掛け設置の自由度が高い「ウォールフィットテレビ」やキャスター付きのスタンドにより、設置場所の移動が簡単にできる「レイアウトフリーテレビ」などを含む「くらしスタイル」シリーズのスマートテレビがあります。4Kレコーダー機能を内蔵するビエラの「MR770」シリーズや、防水対応のコンパクトな「プライベートビエラ」もFire TVとの相性がとても良さそうです。
まもなくパナソニック初のFire TV搭載ビエラが発売日を迎えます。金澤氏は「新しいビエラで、テレビのネット動画視聴をより上質な体験に高めたい」と意気込みを語っています。
「今までテレビでネット動画をあまり見なかったという方の声を聞くと、その理由のひとつに、緩慢な操作感への不満を指摘する方が多くいました。特にスマホやPCを使いこなす若い方にも、Fire TVを搭載してサクサクと動くユーザーインタフェースを体感いただいて、『大画面でネット動画を見ること』の本当の価値を見つけてもらいたい」と金澤氏は呼びかけます。
アマゾンのコンテンツサービスが高画質&高音質
Fire TVを搭載する計6シリーズ13機種のビエラは、最新世代の映像エンジンである「新世代 AI高画質エンジン」を搭載しています。筆者も65型のZ95Aを視聴しましたが、独自のAI超解像処理により、放送の映像もさることながらYouTubeの動画の精細感が向上しています。映像の平坦な部分に現れがちな階調ノイズは、まるで霧が晴れるようにすっきりと解消され、映像の真実味が高まります。被写体は輪郭がグッと引き締まって立体的に浮かび上がります。従来のビエラシリーズを愛用していた方は、即座に“実力の違い”がわかるはずです。
Amazonプライム・ビデオで配信されているULTRA HD画質の映画やドラマなどの映像をコンテンツを、よりクリエイターの意図に近づけて再現する「FILMMAKER MODE」(フィルムメーカー・モード)という映像モードも加わりました。音声はDolby Atmos(ドルビーアトモス)対応です。
Amazon Music Unlimitedが配信する空間オーディオの音楽コンテンツとも好相性でした。特に上位モデルのZ95AとZ90Aは、テクニクスがサウンドを監修した立体サウンドシステムを内蔵しているので、サウンドバーを買い足さなくても没入感あふれる音楽や映画コンテンツの鑑賞が楽しめます。ステレオ制作のコンテンツのサウンドを立体化する機能も搭載しているので、特に音楽配信系のコンテンツは新しいビエラで楽しむと、発見できることが多々ありそうです。
もうひとつ付け加えると、アマゾンのモバイルアプリ「Fire TV」を入れたiPhoneやAndroidスマホをリモコン代わりにして、Fire TV搭載ビエラをコントロールできます。付属のリモコンと、Alexaによる音声操作に加わる第3の操作方法として覚えておいて損はありません。
アマゾンの西端氏は、パナソニックのビエラが「FireTVのスマートテレビとしては画質もトップクラス。独自の便利機能も、今後のFire TVを搭載するスマートテレビのリファレンスになり得る」として、まさしく両社のビジョンが結実したプロダクトであることを強調しています。アマゾンのコンテンツサービスとの相性もバツグンに良い、Fire TV搭載のビエラは体験する価値が大いにあります。