今夏のフジロック出演を控える韓国出身のDJ/プロデューサー、ペギー・グー(Peggy Gou)が待望のデビューアルバム『I Hear You』を発表。長い下積み時代を経て、今スターダムを急速に駆け上がろうとしている彼女の最新インタビュー。
ペギー・グーは曲を書くとき、あることを常に意識している。「私の曲には絶対にセクシーさが必要なの」。韓国で生まれ、現在はベルリンを拠点にしているDJ/シンガー/プロデューサーでソングライターでもある彼女は、今日のクラブシーンで最も注目を集める存在だ。彼女は長い下積みを経て、スターダムを急速に駆け上がろうとしている。
読者の中には、1991年生まれのグーが気ままだが真剣にミキサーをいじる去年のInstagramストーリーズ動画を、流行に敏感な友達がシェアしていたのをきっかけに彼女のことを知ったという人もいるだろう。あるいは、ノスタルジックであると同時に近未来的でもある大ヒット曲「(It Goes Like) Nanana」をTikTokで耳にした人もいるかもしれない。様々なリファレンスがパッチワークのように散りばめられた彼女の音楽は極めてポストモダン的だが、それは楽天家でありながら内省的、戦略家でありながら直感的、自然体でいながらクール、レイドバックしつつも計算高いという、彼女のパーソナリティをダイレクトに反映している。
2018年のアンセム「It Makes You Forget (Itgehane)」や、2019年のミックスアルバム『DJ-Kicks』等、過去数年にわたって世界各地のパーティーシーンを賑わしてきた彼女だが、去年の夏にTikTokを発端として人気に火がついた。モロッコで沈みゆく夕陽をバックに、彼女が当時未発表だった「(It Goes Like) Nanana」をスピンする動画は、同プラットフォームで短期間のうちに何十万回も再生された(現在は700万回再生を突破)。「私自身はTikTokをやってない」と彼女は話す。「まさかこんなことになるなんて、夢にも思わなかった」。
夕陽の美しさによって助長されたその奇跡的瞬間が多くの人の心をとらえた要因のひとつは、グーの音楽におけるノスタルジアとモダンさの絶妙なバランスだ。昨年11月にリリースされたレニー・クラヴィッツとの共作曲「I Believe in Love Again」でのシンセのリフと打ち込みのビート、ジャジーなパワーコードはまさに90年代的だが、磨き抜かれたプロダクションと洗練された自己認識、そしてカジュアルな歌詞のアプローチははっきりと今を感じさせる。「音楽とファッションには共通点がある」と彼女は話す。「流行のサイクルが繰り返されるという点においてね」。
圧倒的なライブセットから緻密に作り込まれたフロアキラーまで、彼女はオーディエンスを楽しませることにおいて決して妥協しない。「自分はプロだという自覚を持ってやってる」と彼女は話す。「2時間であれ1時間半であれ、めくるめくような体験を提供するために、一瞬たりとも集中力を切らさないようにしている。BPMは関係ない。オーディエンスに忘れられない経験をしてもらうこと、それが私の役目」。取材の前半で、彼女はこうも語っていた。「以前の私は良質な音楽をプレイすることに集中していた。でも今は、オーディエンスがどう感じているかがはっきりとわかる」。
「Nanana」のクリップのバイラルヒット以降、彼女は今最も人気のあるDJのひとりとして世界中を飛び回るようになった。「こんな状況になるなんて思いもしなかった」と彼女は話す。「夢を見ているみたいだった。音楽はもちろん、すごい人たちともたくさん知り合った」。昨年12月のある週には、彼女はドバイからマイアミへ飛び、数日後にはドバイにとんぼ返りした。「でもあんな無茶なスケジュールはもう避けたいな」。彼女はまんざらでもなさそうにそう話す。
作品に徹底的にこだわる姿勢
確かなのは、彼女が今後もその確かなセンスを武器に、誇りと謙虚さ、そして厳しさをもって挑戦し続けるだろうということだ。「常に何かから学ぼうとしている」と彼女は話す。「私は自分に厳しすぎるところがある。でもそのおかげで、自分が本当に好きなものを把握できている」。大きな関心を集めているデビューアルバム『I Hear You』(今年6月リリース)については、彼女は多くを語ろうとしない。「聴いてくれた人の記憶に残るような曲を書きたいと思っている。でも現時点では、曲についてあまり口にしないようにしている。先のことを迂闊に話すべきじゃないって、私は経験から学んだから。韓国では、世間は1日に12回心変わりするって言われてるの」(彼女はアルバムの全曲が「90年代のサウンド」に影響されていることは強調していた)。
作品に徹底的にこだわる姿勢は、彼女が自分の仕事をいかに愛しているかを物語っている。「安っぽく聞こえるかもしれないけど、音楽は他人どうしを結びつけることができるもののひとつだと思う」。彼女はそう話す。「そういう体験は、30年後や60年後でもどこかで話題に上るはず。あの頃のこと覚えてる? この曲覚えてる? あのコンサートに一緒に行ったよね、あのフェスでハジけたよね、そんなふうに。音楽は思い出と紐づいているの」。
またそれは、彼女が自分の名前を冠したものすべてを厳密にコントロールしている理由でもある。「楽曲はもちろん、アートワークの方向性やファッションについても、私は挑戦することを恐れないし、失敗から学ぶ覚悟ができている」と彼女は話す。「誰かの真似をするのは私のやり方じゃないから」。
ペギー・グー
『I Hear You』
発売中
※CD + Tシャツセットも販売
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14015
FUJI ROCK FESTIVAL'24
2024年7月26日(金)27日(土)28日(日)新潟県 湯沢町 苗場スキー場
※ペギー・グーは7月26日(金)出演
フジロック公式サイト:https://www.fujirockfestival.com/