藤井聡太王座への挑戦権を争う第72期王座戦(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は挑戦者決定トーナメントが大詰め。6月5日(水)には準々決勝の豊島将之九段―広瀬章人九段戦が東京・将棋会館で行われました。対局の結果、相掛かりのねじり合いから抜け出した広瀬九段が147手で勝利。豊島九段の工夫をかいくぐってベスト4進出を決めています。
豊島九段の新スタイル
振り駒で後手となった豊島九段が序盤早々に工夫を見せます。相掛かり調の出だしからスルスルと右銀を繰り出したのは角頭の歩をかすめ取る手を見せたゆさぶり。昨年末ごろからの豊島九段の後手番戦略は、最新の研究勝負を外して力勝負に持ち込む傾向が見られます。
感想戦で実戦の進行を「自信がなかった」と振り返った広瀬九段ですが、辛抱の飛車浮きで歩を守って崩れません。続いて懸案の銀に自らの左銀をぶつけ交換に持ち込んだのは実戦的な打開策。対する豊島九段も局後「指し方がわからなかった」と素直に打ち明けました。
広瀬九段の端攻めが奏功
一手一手の価値が重い中盤戦に両者少考が続きます。広瀬九段が右辺の端攻めに出たのは待っていても攻められるだけと見た勝負手でしたが、結果的にこれが奏功。左辺に飛び火した戦いが一段落した局面は、大きな駒の損得こそないものの、先手にだけ竜を作る権利が残ります。
攻め合いの形を作りたい豊島九段も角打ちから暴れますが、広瀬九段の指し手は冷静でした。力強い玉引きでこの角を捕まえたのが読み切りの受け。この角を捕獲して戦いが落ち着けば、駒得が物を言うのを見越しています。終局時刻は21時45分、最後は豊島九段が自玉の詰みを認め投了。
勝った広瀬九段はこれでベスト4に進出、次戦で挑戦者決定戦入りを懸けて羽生善治九段―糸谷哲郎八段戦の勝者と対戦します。工夫実らず黒星となった豊島九段ですが、SNS上にはファンからの「また応援します」の後押しの声が溢れました。
水留啓(将棋情報局)