2024年に横浜・みなとみらい21中央地区で開業したばかりの「横浜シンフォステージ」。そのウエストタワー1~3階に、ヤマハが国内3拠点目となる「ヤマハミュージック 横浜みなとみらい」を6月6日オープンします。報道陣向けの内覧会でひと足先にのぞいてきました。
ヤマハとヤマハミュージックジャパンが新たに開業するのは、楽器経験や購入意向の有無にかかわらず、音楽や楽器の新たな楽しみ方を幅広く発見してもらうことを目的とした体験型ブランドショップ「ヤマハミュージック 横浜みなとみらい」、ヤマハとベーゼンドルファーのピアノを各10台以上展示する「ベーゼンドルファーショールーム」。さらに大人向けの音楽教室やサロンを含む「ミュージックアベニュー横浜みなとみらい」も併設します。
楽器未経験者向けのエリアを3フロア全体に広げ、楽器愛好家や、楽器を購入するために来場した人に向けた機能も充実。さらに“偶発的な発見の創出”のため、同じ空間内に売場、教室、イベント開催も可能なカフェなどを展開し、垣根のないシームレスなつながりで設計したことも大きな特徴です。
開業日の6月6日は、ヤマハ吹奏楽団メンバーの演奏によるグランドオープンセレモニーを開催。来場者のうち、先着100人には2階のライブ&カフェ優待チケット500円分をプレゼントするほか、店内で税込5,000円以上購入した人のうち先着1,500人にオリジナルメモ帳をプレゼントします。
さらに7月7日まで、多彩なアーティストや地域の演奏家による生演奏をカジュアルに楽しめるライブやトークイベントを、ライブ&カフェや横浜シンフォステージ内グランモールプラザなどで開催。施設内のスタンプクイズラリーなどオープン記念の特別企画も展開します。
ちなみに6月6日の「楽器の日」ですが、“芸事の稽古は6歳の6月6日に始めると上達が早い”という習わしにちなんで、全国楽器協会が1970年に制定したものです。
大型LEDディスプレイ×独自立体音響の没入体験。技術の裏側も聞いた
広々とした空間設計や、いたるところに配置された試奏用の楽器、ガラス張りの空間に飾られたヤマハの歴代AV製品など、店内は注目ポイントが目白押しなのですが、なかでも目を惹くのが1〜2階の吹き抜けに導入されている、エクスペリエンスゾーン「Music Canvas」(ミュージックキャンバス)。
開放的な空間の壁一面に、高さ10m×横幅14mという大型のLEDディスプレイを設置し、画面と連動するAI伴奏付きのピアノや、自動演奏する弦楽器、そしてヤマハ独自の立体音響技術「アクティブフィールドコントロール」(AFC)を組み合わせており、訪れた人に上質な音と映像に没入する感覚を体験してもらうエリアになっています。
ここでは1時間おきに「Music Canvas Show」(約5分間、毎時50分開始)という作品上映を行っており、大迫力のアート映像と立体音響のAFC、さらには同じゾーンにある楽器が自動で奏でる音によって、新鮮な音楽没入体験を全身で楽しめます。
今回の内覧会で筆者が体験できたのは、“音楽の視覚化”をコンセプトに、時間軸を持った彫刻のような造形作品がダイナミックに動く「Sound Waves」。もうひとつ、「Resonant Matter」と名付けた作品もあり、1時間おきに交互に流していくそうです。各上映タイミングの前にも、あわせて4種類の生成アート映像が流されます。
Music Canvasの技術的な側面について、映像と音響の担当者に話を聞いてさらに深掘りしました。
このLEDディスプレイはスクエア状パネルの集合体で、全体の解像度は3,584×2,688ドット。正方形に近い画面には、さまざまな映像アーティストがAIを駆使して生成した多彩なCG映像が流れます。
よく見るとただの平面ではなく、一部をL字に折り曲げた2つの面で構成されているのですが、担当者によると、あえてこのような配置にして立体的な映像表現を追求するねらいがあったとのこと。また、来場者がピアノを演奏しているところを記念撮影するとき、撮る角度によってはL字の部分を“見栄えのする背景”として活用できることもアピールしていました。
音響面については、スピーカーを前面に5台、場内の壁面前方に縦長のもの2台、壁面グリル内に12台、天井6台を配し、さらに場内左右のサブウーファー2台を含めた計27台を使用。AFCのプロセッシングを行う機材や、ヤマハ製シグナルプロセッサーのフラッグシップ機「DME7」、マルチトラックレコーダーなどを組み合わせて最大54chの音場再現を行っているとのこと。
ぱっと見は広々としたきれいな吹き抜けですが、来場者に新感覚の没入体験を提供するために、裏側ではさまざまな機材を活用したシステムを構築しているわけです。屋内施設としてはかなり大きな画面を備えていて、立派な音響設備もそろえているので、個人的にはアーティスティックなCG映像だけでなく、たとえばミュージシャンのライブ映像なども流せば多くの人に楽しんでもらえるのでは……と感じました。
ちなみにAFCの効果については、メディア向け内覧会の中で開催されたnaomi & goroによるミニライブでよりわかりやすい実演デモが行われました。ミニライブでは2階の隅にあるカフェエリアを演奏ステージとして使い、『イパネマの娘』などを聞かせてくれましたが、さほど広くない空間でもAFCプロセッシングとPA機器を通すことで、音の響き方や定位感がグッと変化。実際のアーティストとの距離はわずか数mしか離れていないのに、屋内コンサートのような広い空間で歌われているかのような感覚を味わいました。
演奏後、naomi & goroの2人も「リハーサルでも聞きましたが、奥行きがあって遠くまで鳴っているような、不思議な体験でした」「大きなホールで演奏しているような気持ちになるんですが、ステージ的にはコンパクトですよね。ホールにいるような演奏がさまざまな場所でできたら、可能性が広がりそうです」とサウンド効果や演出に驚きつつ、今後の活用への期待感をにじませていました。
お手軽楽器体験から“魅せる楽器庫”、3,500万円超えの高級ピアノまで
2階のメインは楽器エリア。250点を超える多彩な楽器をガラス張りの空間にディスプレイし、“魅せる楽器庫”として演出する「MUSIC SHOWCASE」(ミュージックショーケース)が見るものを圧倒しますが、各所に「楽器体感コーナー」を設けて、初心者でもとっつきやすくしているところに注目です。
半開放のブースには、実際に触れる楽器とタブレットを設置しており、プロによる演奏解説の動画を観ながら、さまざまな楽器を自分のペースで試奏できます。用意されている楽器はギターやサクソフォン、ヴァイオリンなど10種類以上にのぼります。
奥のスペースには、横浜エリア最大級となる25,000冊以上の品ぞろえとなる楽譜・書籍エリアを併設。音楽関連の小物や雑貨などもここで購入できます。また、オリジナルメニューを味わいながら音楽イベントを楽しめる「ライブ&カフェ」もあり、ここではコーヒー鑑定士が厳選した豆を用いるブレンドコーヒー、静岡県最大の茶園を所有する佐々木製茶の茶葉を使った抹茶・ほうじ茶ラテなどを提供しています。
このカフェでは、ヤマハの企業ミュージアム「イノベーションロード」(静岡県浜松市)で展示している、シロクマ親子のフィギュアをモチーフにした商品の姿も。店舗限定のラテアートや、パッケージにシロクマ親子を描いた「シロクマビール」、オリジナルデザインの「シロクマもなか」なども販売しています。
3階の「ミュージックアベニュー横浜みなとみらい」では、大人向けの音楽教室「ヤマハミュージックスクール」を開設。初心者向けコースのほか、近隣オフィスで働く人が仕事の前に練習できる“朝活レッスン”なども用意します。フロアには楽器や人数などに合わせて全17のレッスン室があり、教室がない部屋を練習で利用できるようレンタルにも対応。ほかにも、40席のスペースを確保したサロンで講座や体験会などのイベントを実施する予定です。
ベーゼンドルファーとヤマハのグランドピアノを各10台以上展示し、実際に触れられるショールームは1階に設営されています。通常はホールを借りないと触れられない、ヤマハのコンサートグランドピアノ「CFX」(2,310万円)が8月までの期間限定で試弾できるので、興味を持っている人は問い合わせてみるとよさそうです。
ベーゼンドルファーのショールームについては国内最大規模をうたっており、非売品ながら歴史的に貴重なピアノから現行製品まで、豊富にラインナップ。興味深いのは今回初披露となる、オーストリアの芸術家グスタフ・クリムトの絵画「Tree of Life」(生命の樹)を精巧な複写技術で屋根の内側に転写した同名ピアノです。全世界限定25台、3,520万円という超高額製品ですが、こちらも実際に触れて音色を確かめることができます。
“ヤマハとの親和性高い”エリアに開業、グループの拠点集約・連携強化
ヤマハの山浦敦社長は、既に体験型ブランドショップとしてリニューアルオープンした銀座店と名古屋店に続き、横浜みなとみらいに3拠点目を開業することについて、「ブランドの世界観を伝えるための重要な顧客接点」になるとコメント。さらに2024年夏には、東京・渋谷に新たな拠点をオープン予定であることも改めてアピールしました。ちなみに海外でも、2023年に欧州の旗艦店としてイギリスに「Yamaha Music London」を開業しており、今後も国内外でリアル接点におけるブランド発信の強化を進める方針とのこと。
新拠点をオープンした横浜みなとみらい21中央地区については、「多種多様な音楽関連施設が集積しているエリアで、ヤマハとの親和性は高い」とし、「首都圏に点在するヤマハグループの拠点をここに集約し、店舗と教室、営業や開発といったグループ内の連携をさらに強め、新たな価値の創造を加速。この地区の魅力向上にも貢献できると考えています」と強調しました。
「誰もが音楽や楽器の新たな楽しみを発見できる、体験型の拠点」を横浜の新拠点のコンセプトとして紹介した山浦社長は、あいさつの最後で「この場所での体験を通じて、幅広いお客様に音楽や楽器の新たな楽しみを発見してほしい」と呼びかけていました。