「写真の日」を前にした5月31日、この1年間に発売されたカメラや交換レンズ、アクセサリーなどから優れた製品を選ぶ「カメラグランプリ2024」の贈呈式が開かれました。大賞をはじめとする各賞を受賞したメーカーの開発担当者らが出席し、受賞の喜びや製品の開発秘話を語ってくれました。
大賞:ソニー「α9 III」
カメラグランプリ2024で大賞に輝いたのは、ソニーのフルサイズミラーレス「α9 III」。α9 IIIは、ユーザー投票による「あなたが選ぶベストカメラ賞」にも選ばれ、ダブル受賞となりました。
ソニーのイメージング事業を統括する大島正昭さんは「2023年のカメラグランプリを受賞したα7R Vは、AIプロセッシングユニットと4軸マルチアングル液晶が評価されたが、今年のα9 IIIはそれらを備えたうえで、グローバルシャッターとモンスターみたいなイメージセンサーを盛り込んだ点が評価されてうれしく思う。賞をもらっても立ち止まることなく、新たな感動を提供できる製品作りをしていきたい」と語りました。
イメージセンサーの開発を担当したソニーセミコンダクタソリューションズの木村匡雄さんは「民生機器にグローバルシャッターを入れ込むのは難易度が高かったが、狙った一瞬を切り取る価値を提供したい、という強い思いでこのセンサーを作り上げた。単にグローバルシャッターを積むだけならば簡単だが、受け入れてもらえる画質を提供するのが難しかった」と振り返ります。
α9 IIIのプロジェクトリーダーを務めたソニーの齋藤靖好さんは「新時代の映像表現ができるカメラを目指して開発した。多くの人に“ゲームチェンジャーだ”と評価してもらえてうれしい。α9 IIIは革新的なイメージセンサーを搭載しているが、周辺のハードウエアやソフトウエアの磨き上げがあってこそ、120fpsのAE/AF連動高速連写が可能になった。関係する部門は多かったが、各チームで同じ認識を持って開発を進めたことで実現できた」とチームワークが製品に結実したと語ります。
レンズ賞:ニコン「NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena」
レンズ賞に輝いたのは、ニコンの大口径中望遠レンズ「NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena」。あなたが選ぶベストレンズ賞も獲得し、こちらもダブル受賞となりました。
ニコン光学本部長の恩田稔氏は「新しい映像表現を追求したい、ユーザーがワクワクするレンズを提供したい、と考えて作り上げたレンズ。大口径のZマウントの高いポテンシャルがあったからこそ挑戦できた。開放絞りでも丸いボケが楽しめ、高い解像力を持ち、背景は柔らかく自然に描いてくれる。主題の輝きと背景の美しいボケが調和した幻想的な表現が可能になった。何気ない日常が特別な瞬間に変わるのを、Plenaで体験してほしい」と語ります。
ニコン光学副本部長の石山敏朗氏は「企画の立ち上げ早々から、メンバーが意欲的にコンセプトを練り込んでいった。大口径のZマウントの特徴を生かすだけでなく、135mmの焦点距離で撮影するシーンを想定し、絵作りのポイントを分析してどうすれば新たな表現に到達できるかを議論していった。収差のバランス、特殊硝材、低反射コーティングなど、ニコンの光学技術を総動員して開発した。何気ない日常を非日常に変えるレンズ、被写体の一瞬を見事に輝かせてくれるレンズとして、多くの人に使ってもらいたい」とコメントしました。
カメラ記者クラブ賞:【企画賞】富士フイルム「INSTAX Pal」
カメラ記者クラブ賞の企画賞に輝いたのは、富士フイルムの新趣向カメラ「INSTAX Pal」。
富士フイルムでチェキ事業を統括する力丸陽太氏は「Instax Palは富士フイルムにとっては衝撃的な製品で、Instaxシリーズなのにチェキプリントが出てこない。当初、カメラを歩かせたり飛ばしたりしたら面白いだろうな…と検討したこともあった。超広角レンズの存在もあり、これまでにない体験ができるユニークなカメラに仕上がったと感じている」と語ります。
カメラ記者クラブ賞:【企画賞】DJI「Osmo Pocket 3」
カメラ記者クラブ賞の企画賞に輝いたのは、DJIのジンバル搭載カメラ「Osmo Pocket 3」。
DJI JAPAN代表取締役の本庄謙一氏は「Osmo Pocketシリーズは、ユーザーに新しい撮影スタイルを提供したい、というコンセプトで開発した製品。3世代目で1インチセンサーを搭載でき、暗い場所での画質が大幅に向上した。1インチセンサーの搭載で小型化するのが大変だったが、背面液晶を大型化しつつ回転機構を備えるなど、満足できる製品になった」と手応えを語りました。
カメラ記者クラブ賞:【技術賞】ニコンZ 8の「オートキャプチャー機能」
カメラ記者クラブ賞の技術賞に輝いたのは、ニコンのフルサイズミラーレス「Z 8」の「オートキャプチャー機能」。
ニコンの今藤和晴氏は「被写体の変化をとらえ、あらかじめ設定した撮影条件に合ったことをAIが検知すると自動で撮影する機能。撮影者の危険を回避したい、時間を削減したい、さまざまな撮影に挑戦したい、という開発者の思いで作り上げた。狙った撮影ができなかったり、突然撮影が始まったりと開発は苦労したが、プロのニーズに応えられる機能に仕上がったと感じる。ファームウエアのアップデートによる新機能の追加はニコンが重視しているポイントで、ユーザーからも支持されている。今後も、ユーザーの視点に立って新しい撮影体験を提供していきたい」と抱負を述べました。
カメラ記者クラブ賞:【功労賞】カメラザックメーカー「ラムダ」のカメラザック
カメラ記者クラブ賞の功労賞に輝いたのは、カメラザックメーカー「ラムダ」。過酷な山岳撮影向けに設計したカメラザックで評価を得てきましたが、2023年8月に事業を終了。その功績が認められての受賞となりました。
ラムダ社長の佐久間博氏は「事業を開始して、当初は3年持つか、5年持つかと五里霧中でやっていたが、カメラ記者クラブが縁でカメラ誌の新製品コーナーで紹介してもらえた。フィルムカメラ全盛期は、山や公園でラムダのカメラザックを使っている人を見ることが多く、うれしくて声をかけたりしたこともあった。40年間続けられたのは、多くの山岳写真家や写真愛好家に支えてもらったからだと感じている」と振り返ります。