NTTおよびNTTドコモは6月3日、両社の宇宙関連事業の取り組みについての説明会を開催した。説明会は2部制で、第一部ではNTTの宇宙ビジネス分野における事業戦略を同社代表取締役社長の島田明氏が説明。第二部では、その事業戦略に基づく施策のひとつとして、HAPSの早期商用化を目指し、NTTドコモおよびSpace CompassがAALTO/エアバスとの資本業務提携を行うことが発表された。

  • NTTの島田明社長

    宇宙ビジネス分野におけるブランド「NTT C89」を発表するNTTの島田明社長

宇宙ビジネスにおける新ブランド「NTT C89」

島田氏はまず、NTTグループの宇宙ビジネスにおけるブランドとして「NTT C89」(エヌ・ティ・ティ シー・エイティ・ナイン)を設立することを発表。「C89」の「C」は「Constellation」を意味しており、NTTグループが全天88星座に続く89番目の星座となり、進むべき道を教える道標として、日本の宇宙産業に促進に貢献していくという想いを表現している。

  • NTT C89

    新ブランド「NTT C89」

  • 「NTT C89」の意味

    「NTT C89」の意味

NTTグループはこのブランドのもと、同グループが手掛けるさまざまな宇宙関連事業を有機的に結合・展開していく。

その主な事業領域は4つに分けられる。ひとつめの領域は上空36,000km付近の静止軌道上の衛星を利用するGEO衛星。ふたつめは上空1,000kmまでの低軌道の衛星を利用する観測LEO永瀬と、その観測データのプラットフォーム事業。みっつめは、上空20~50kmの成層圏を飛行する高高度プラットフォーム(HAPS)を活用する通信/リモートセンシングサービス。ここまでの3つの事業についてはNTTグループの技術的な強みを活かして自前化を目指す領域とする。

そしてよっつめの事業領域は、低軌道の通信衛星を利用する通信LEO衛星で、この領域は自前の技術ではなく、Amazonの「Kuiper」やStarlink Businessとの連携でサービス化の加速を目指すとしている。

  • 4つの事業領域

    4つの事業領域

このほか、今年1月の能登半島地震における被災地支援において、観測衛星データの活用や衛星通信による通信サービスの復旧などを行ったように、さまざまな課題解決に努めていきたいとしている。

  • 4つの事業領域のほかに、被災地支援などでの活用も想定する

    4つの事業領域のほかに、被災地支援などでの活用も想定する

この「NTT C89」およびNTTグループの宇宙ビジネス事業戦略については、以下のような質疑応答があった。

Amazon Project Kuiperとの協業の今後の具体的なスケジュールは。
日程はいえないが、日本向けに2基の衛星を打ち上げて実験からはじめていきたい。今年中のサービス提供開始は難しいが、できたら来年にはと思っている。実証実験は今年中に開始する予定。

Starlinkなどのサービスが広がる中、HAPSの可能性をどう考えるか。
HAPSには期待をしており、今年度中に実験を行いたい。緯度が高い場所での太陽エネルギー吸収などに技術的な課題はあるが、解決しながら前進していく。できれば2026年にサービスを開始したい。

新ブランドを設立するにあたり、売上目標などは設定しているか。
現在は10億円ていどの売上だが、10年後(2033年度単年)に1,000億円程度の売上を目指している。

自前化を図るとしている3つの事業領域は、既存スタートアップも事業に取り組んでいるところで、そういったスタートアップとの連携も図ってほしいと思うが、そのあたりについての考えは。
今はLEOの衛星を借りて利用しているわけですが、いずれ自前化しなければならない、高度化のためには自ら取り組んでいかないといけないと考えている。いずれNTTデータから説明する機会を設ける予定。

通信LEO衛星領域において、Starlinkが独占的という現状だが、後発のAmazon Project Kuiperがシェアをとるにあたっての見通しは。
それはKuiperのほうに聞いてもらったほうがよいかもしれません(笑)。われわれもStarlinkのサービスを提供している。ただ、Starlinkの市場は一定の仕様で決まっているので、それ以外もカバーできるようなものをKuiperには求めていきたい。

HAPSの早期商用化を目的とする資本業務提携

第2部では、NTTドコモと、NTTとスカパーJSATの合弁会社であるSpace Compassが、エアバス・ディフェンス&スペース(エアバス)およびその子会社としてHAPS「Zephyr」の製造・運用を行うAALTO HAPS Limited(AALTO)との間で資本業務提携に合意したことが発表され、その目的などについての説明が行われた。

  • HAPSの現状

    基地局を搭載した無人飛行機に成層圏を長期間飛行させ、通信サービスを提供する「HAPS」

  • HAPSによる国土強靭化のイメージ

    HAPSによる国土強靭化のイメージ

今回の資本業務提携では、HAPSの早期商用化を目的とし、NTTドコモ/Space CompassがAALTOに対して最大1億ドルの出資を行う。これにあわせ、今後数年間にわたる日本/アジアでの商用パートナーシップ契約を締結し、AALTOの商用ロードマップの実現と日本における2026年のHAPSサービス提供開始およびグローバル展開を目指すという。

  • 発表後のフォトセッション

    発表後のフォトセッションにて。左から、Space Compass 代表取締役 Co-CEOの堀茂弘氏、AALTO HAPS Limited CEOのSamer Halawi氏、NTTドコモ 執行役員 ネットワーク部長の引馬章裕氏、Space Compass 代表取締役 Co-CEOの松藤浩一郎氏。この日はエアバスからの登壇者はなかった

この資本業務提携では、第1部で示された4つの事業領域のうちの3つめにおける動き。AALTOのZephyrは2022年に無人飛行機として世界最長となる64日間の対空飛行を実現するなど、高度な航空技術を有している。これにNTTドコモの持つ地上ネットワークの知識、エアバスの高度な観測ソリューションを組み合わせることで、HAPSベースの非地上ネットワークにおいて日本が主導的な地位を握ることができるとしている。

  • Zephyrの模型

    説明会会場にはZephyrの模型もあった

この資本業務提携については、以下のような質疑応答があった。

2026年時点でどれくらいのカバー範囲を目指しているか。
2026年時点では、日本の南半分でHAPSが飛んでいる状況。2030年には北海道まで含め、通年でHAPSの飛行を行う予定。

ソフトバンクもHAPSには力を入れているが。
それは承知している。まだ市場ができていない状況なので、ソフトバンクとも切磋琢磨して、HAPSの市場を作っていきたい。

提携におけるエアバスの役割は。
エアバス子会社のAALTOがHAPSを飛ばすことになるが、システムはエアバスのものを利用する。エアバスが開発したZephyrを世界に届けるのがAALTO、という分担。

2026年のサービス開始までの運用ルール整備や型式認証などのステップはどうなるか。制度上の問題は。
英国・アメリカで認証/型式証明取得に取り組んでおり、日本での対応はSpace Compassが担当している。制度面では、電波法は、HAPS用電波について、総務省で標準化の作業を行っている。そこで割り当てを受けるというのがひとつ。航空法は、日本と海外で細かいところが違うので、きちんと免許をもらえるのかというのがある。

日本での飛行実証について、ソフトバンクは緯度が高いから太陽光発電が難しいといっているが。
2022年に6カ月飛行したのはアリゾナからフロリダまで。日本の南半分と緯度は同じくらいなので、日本は緯度が高いから飛ばせないということはない。ただ、日本の北半分に飛ばすにはもう少しバッテリーの性能を向上させる必要がある。自動飛行のシステム開発も順調。

Zephyrはソフトバンクの「Sunglider」よりもペイロードが小さく、以前の実験では基地局ではなくリピーターを搭載していたようだが、そういった形でのサービスインとなるのか。
ZephyrはSungliderより小型で、それぞれ違ったものになる。Zephyrは成層圏に長い間とどまれるのが強み。北海道まで基地局規模になるのは2030年と考えている。

HAPSは導入すると利益につながるのか。
けっして安いものではない。モバイルは現在、人口カバー率が99%超で、残るところはそれほど多くはない。地上の手段はやりつくしているので、ではHAPSでカバーできないか、衛星ではどうだろうかという状況。チャレンジがあっても取り組む価値はある。

2026年に日本でHAPSが実用化されれば、それは世界で初めてということになるのか。
現時点で世界でも実用に至っている会社はない。世界に先駆けてのサービス提供を目指している。