日産は2024年5月31日、パートナーとの取引に関するメディア説明会を開催した。
日産は2024年3月7日に割戻金の受領に関して下請法違反にあたるとして公正取引委員会から勧告を受けた。取引先の下請事業者に支払う下請代金から自社の原価低減を目的に割戻金として総額約30億2000万円を減額(2024年1月31日に減額した金額を支払済み)したというものである。
その後、2024年5月10日に、勧告後も違反行為を行っていた疑いがあるとする内容の報道が行われた。それを受けて、日産では報道の真偽を確認する目的で、長島・大野・常松法律事務所に対して外部調査を依頼。同事務所は客観的な立場から5人の弁護士から成る調査チームにより2024年5月11日から同月31日にかけて外部調査を実施した。
■プレス試作品製造A社の事案
<報道内容>
・下請先(A社)は日産が作成したフォーマットに従って作成した見積書を提出することになっている。
・フォーマットには、日産が指定する一定の減額率(「原価低減率●%」)が記載され、自動計算式が設定されている。
・A社が正規価格をフォーマットに入力すると「数%から数十%」の原価低減率相当額が控除された金額が自動表示され、価格が一方的に減額される。
・A社が日産に2024年4月●日付けで提出した見積書には、日産のフォーマットにより、「個別原低とは、弊社より依頼したもの」との記載が存在。「弊社」とはA社のことで、A社側が原価低減を依頼しているという見積書上の体裁を日産側が作出している。
<調査で確認された事実>
・報道されたような計算式と個別原低に関する記載が存在する見積書のフォーマットの利用が確認された。日産と取引関係のあるサプライヤーは2000社を超えるが、そのフォーマットを用いているのは試作品のプレス部品を製造する数社のサプライヤーのみに限定されていた。
・FY15(2015会計年度)に、一品一様のプレス試作品の価格レベルの妥当性・一貫性を担保する目的で、日産とサプライヤーは、原単位コストテーブルにより算出される単価の使用について合意した。
・FY16から19にかけて、日産と各サプライヤーは、上記の査定値を基準に、過去3年の傾向を踏まえて決定した毎年6%の原価低減の実施を合意し、フォーマット上に計算式(FY19時点:6%の4乗)を設定。FY19以降は、サプライヤーと協議するなかで、原価低減率の加算は行われなかったが、当該計算式が設定されたフォーマットを利用する運用は継続。FY24時点でも、FY15で合意した原単位コストテーブルに基づく査定値に、所定の原価低減を行うことで、見積金額が算出される仕組みだった。
・サプライヤーが試作品に係る見積書を提出する際、サプライヤーは自身の見積金額を入力するのではなく、FY15に合意した原価低減前の当該コストテーブルにより算出される査定値を入力する運用に。
・原単位コストテーブル及び個別の原価低減に関係する合意の交渉経緯に関し、資料の検討やヒヤリング調査では特に問題は確認されていない。
・フォーマットには、報道された「個別原低とは、弊社より依頼したもの。」との記載に続けて、報道されていない「御社で独自に取り組んだもの。等の原低内容です。」(原文ママ)との記載も存在し、記載全体からすると、日産とサプライヤーの双方が原価低減に取り組んでいるという内容になっている。
■自動車部品メーカーB社の事案
<報道内容>
・日産の担当者が下請先B社に、「当社の目標は●円以下」という内容のメールを送付するなどし、日産が納得する価格となるまで見積書の提出を複数回求めた。
・日産の担当者がB社に対して、「長い付き合いだからといって、いつまでも仕事をもらえると甘く見るなよ」などと発言。
・減額率はほぼ30%で、ひどいときは50%である。
<調査で確認された事実>
・設備手配案件の調達プロセスにおいて、日産の購買業務の委託先が「当社の目標」として金額などを示すメールを送付していた。いずれもB社あてのメールと同様の体裁であり、以下の共通の記載があった(いずれも原文ママ)。
■「御社の最終見積書をご提出お願いいただけますでしょうか」
■「御社のベストプライスで最終見積書を」
■「尚、ご参考ながら、当社の目標は●円でございます」
・上記メールは上記委託先が、日産の調達依頼部門による見積査定結果を踏まえ、一次見積を提出したサプライヤーに対して、業務手順書に基づいて送付するものであった。ここで示された目標金額は日産の調達依頼部門が、過去の案件を参考にしながら技術的な観点から査定したもので、一定の根拠をもって設定したものであった。
・メール中の記載のとおり、目標金額は参考であり、これを下回る提案がサプライヤーからなされなければ取引が成立しないという運用ではない。実際にメールの目標金額よりも最終的な契約金額が高額となっている取引事例が存在する。
・過去約8年間の上記委託先が関与する設備手配取引を確認したところ、減額率(一次見積金額と最終契約金額のかい離率)が30%を超える取引が多数であるという状況は確認されていない。
・こうした設備手配の案件では、日産および上記委託先が「長い付き合いだからといって、いつまでも仕事をもらえると甘く見るなよ」といった威圧的なコミュニケーションが行われているという事実は、資料の検討やヒヤリング調査で確認されていない。
以上のように、計算式が設定された見積書のフォーマットや、目標の金額を示したメールなど、報道に関する事実が確認された一方で、コストテーブルや原価低減に関して日産とサプライヤーが合意していた事実、また示されていた目標金額は一定の根拠を持つ参考値であることなど、必ずしも報道されているわけではない新しい事実が外部調査で確認された。日産からの一方的な行為は調査では確認されなかった。
■下請法違反勧告後の取り組み
日産では下請法違反の勧告後、割戻金精度を撤廃し、メーカーが取引先の現場でともにコスト競争力を高める取り組みを実施。開発費の別建て払いなど、台数の変動に伴う取引先の経済的負担を軽減する措置を拡充した。また、取引先の経済的負担を軽減する対応としてインフレなどによるコスト上昇に対する迅速な対策を実施している。
さらに、取引先からの相談・通報を受け付ける仕組み(取引先専用ホットライン)を社外に創設。20人ほどのメンバーのパートナーシップ改革推進室をCEO(最高経営責任者)直下に設置し、積極的に取引先の困りごとや要望を聞き、協議・対応を実施し、改善につなげていくとしている。
現在、日産は取引全体まで範囲を広げた追加点検を実施中。日産の内田 誠社長兼CEOは「各方面において取引先から不満の声があがっているのは事実であると思い、より厳しい目線で自らを振り返り、今後、適正な取引が実現できるよう取り組みを強化し、不満の声がなくなるよう努力していきたい」と語っている。
〈文=ドライバーWeb編集部〉