郷土料理は地元で愛されて当然。だが中には、県民の間でも賛否両論が飛び交うものもある。巨大なサケの頭を酒粕や野菜などを煮た、 栃木県の「しもつかれ」。食卓を囲む家族の中で、苦手な人が5人、好きな人が3人。苦手派が勝利している。誇るべき郷土の味が県民を分断してしまう。

そんな賛否を呼ぶ郷土料理が沖縄県にもあるという。それは、ヤギ汁。

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現地ではヒージャー汁とも呼ばれ、ヤギとヨモギだけというストイックなスープで、 琉球王国時代より食される伝統を誇る。それなのに県民からは、「沖縄県民でも食べられない。」との声が聞こえる。

沖縄へ飛び、県民の賛否を確認。ウチナーファミリーの女性たちに、沖縄で好き嫌いが分かれるものはと聞くと、すかさず「ヤギ」「絶対ヤギ」との否定的な言葉が返ってくる。他の女性たちも全員否定派。

だったら男性は?海辺にいた屈強な男性コンビに聞くと、「嫌い!」「自分も嫌いです!」と即答。

「飲み終わりに先輩に連れて行かれたことあります。」

「ヤギハラじゃないかな。」ヤギを食べさせるのはヤギハラスメントということか。

海辺のウチナーレディたちも「好き嫌い分かれる。獣臭が。」

もう一人のレディは「そうそう」と言いつつ、「私は大好き!」初めて発見、ヤギ汁好き派!「テレビで子ヤギが映ったら、おいしそうって思う。」ええー、なんか怖い!

あちこち聞いて回ると、7対3で苦手派優勢。

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ここで匂いのプロ、沖縄環境化学研究所の高柳圭吾さんの見解を聞いてみた。

「ヤギ汁の匂いは、脂肪酸の中でも1番匂いが強い。大人の男性が1週間お風呂に入らなかった時の匂いです。」うひゃあ、そりゃあ臭そうだ!

ヤギ汁を愛してやまないウチナンチュも多く、他県では珍しいヤギ料理店が70軒以上もある

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糸満市の「べえ〜べえ〜べえ〜食堂」にはヤギ好き派が集まっている。

テーブルに運ばれてきたヤギ汁は、ヨモギの下にヤギ肉がいっぱい!

まずは強烈な匂いをかぐと「ヒージャー(ヤギ)!」と嬉しいのか辛いのか不明な叫び。

スープをすすると「メエエエ!」とヤギの鳴き声。そしてヤギの肉に、臭いを気にする様子もなく、むさぼりついている。

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「ヤギが頭蓋骨以外全部入ってる!」と誇らしげに語るヤギ好き派。

どんな匂いですか?「足のニオイ」と言いながら自分の足をかがなくていいよ、お兄さん。

「この臭いあとに甘みがあるんですよ」だって、ホントかなあ。

苦手派が多いヤギ汁だが、新築祝いや上棟式など、お祝いの席につきものなのだそうだ。

そこで新築祝いにお邪魔すると、 ケータリング的な人が到着し、テラスの端っこに大きな鍋のヤギ汁を置く。

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家庭でいただく場合は、自宅で作らず精肉店などに大量発注するのがスタンダードなのだ。

祝いの席に揃った家族十数名にヤギ汁について聞くと、苦手派が9人、好き派が7人。まあ半々だ。

苦手派のお父さんはヤギ汁を受け取ると匂いをかいで「うえぇ!」と苦い顔をする。

一方好き派は「いい匂い!」

「最高最高!」と大喜びで食べる好き派の前で「あぁ」とうめきながら流し込む苦手派。

同じものを食べているとは思えない。

沖縄のヤギ汁はどう生まれたのか、沖縄山羊文化振興会の平川宗隆会長に聞いてみた。

「15世紀の琉球王国時代に、中国あるいは東南アジアから食用として伝播しました。」

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一昔前まで沖縄では一般の家庭や集落でヤギを飼うことも多く、 他県と比べヤギが非常に身近な存在だったのだ。

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ちょうど石垣島では「山羊まつり」が行われ、ヒージャーオーラセー(闘ヤギ)、ヤギの鳴き真似大会などで賑わっていた。もちろんヤギ汁も振る舞われ、行列ができている。

沖縄県民にとってヤギ汁は賛否両論あるけれど、暮らしにヤギが馴染んでいるんだね。あなたも今度沖縄に行ったら、食べてみれば?匂いをかいでみるだけでもいいかもね!