伊藤沙莉主演の連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合 毎週月~土曜8:00~ほか ※土曜は1週間の振り返り)の第9週で、伊藤演じる主人公・佐田寅子が戦争で家族を失うなか、昨日放送の第45回では、寅子が新しい日本国憲法が公布されたことを新聞で知るという第1回のファーストシーンが伏線回収され、話題を呼んだ。主人公の子役時代や出産シーン、玉音放送のシーンが描かれないという従来の朝ドラの文法とは異なる点も話題に。その理由や今後の見どころを制作統括の尾崎裕和氏に話を聞いた。

  • 『虎に翼』佐田寅子役の伊藤沙莉

本作は、日本初の女性弁護士で、後に裁判官となった三淵嘉子さんをモデルとする主人公・佐田(猪爪)寅子とその仲間たちが、困難な時代に道なき道を切り開き、迷える子供や追いつめられた女性たちを救っていく物語。尾崎氏は「伊藤さんはいつも自然体ですが、常に座長として、周りの役者さんの雰囲気を感じて動いている気がします」と伊藤の人となりを称える。

「待ち時間もわいわい楽しく役者さんと話していますが、誰でも一人で集中したいタイミングはあると思うので、そういう時はすっと静かにされています。もちろん、主役として言うべき時にはちゃんと自分の意見を言われますが、いつもこちらが気を遣わなくていい感じでいてくださるのでとてもありがたいです。今回は幼少期も描かれず、伊藤さんは出ずっぱりで大変だと思いますが、現場ではそういうところも一切見せません」

寅子の子役時代が描かれなかった理由については「プロデューサーとして、1週目から伊藤さんを見たいという思いもありましたが、寅子の人生において最初の重要なタイミングが、女学校を出て法学の道に入るかどうかのところだったので、そうなりました。もしも幼少期が重要であれば、そこを描くべきですが、今回はそうではなかったので、本役の伊藤さんからスタートしました」と語った。

寅子の「はて?」という台詞がバズリ、今年の流行語候補となりそうだが、その台詞は吉田脚本の初稿の段階で入っていたと尾崎氏は明かす。

「吉田さんとしては、ドラマのキーワードみたいな形で入れられたと思いますが、そこからどんどん膨らんでいきました。ドラマ的な台詞でもあり、自然なお芝居に落とし込むのは難易度が高いと思いますが、伊藤さんはすごくナチュラルに言われます。いろんな『はて?』の言い方で、視聴者も共感していけるのが素晴らしいです」

また、寅子の生理が重いという設定が描かれる一方で、出産シーンは登場しなかったが、それについて尾崎氏は「吉田さんの中での取捨選択だと思いますが、女性の人生やキャリアを描く上で、生理というものが描かれるのは自然なことだと思える脚本に。出産シーンについても、主人公の出産を描くことは、この物語の流れにおいて、必要なかったということ」と捉えている。

玉音放送シーンもなし「戦争が個々人にどういう影響を与えたかを描く形に」

今週の放送回では、寅子が兄・猪爪直道(上川周作)や、父の猪爪直言(岡部たかし)、そして最愛の夫、優三(仲野太賀)を立て続けに亡くすという悲しい展開となったが、昨日のタイトル回収のシーンで、寅子が涙するシーンも視聴者から大いに反響があった。

同シーンについて尾崎氏は「寅子のモデルとなった三淵嘉子さんが、インタビューで、新しい日本国憲法が公布されたことが自身のターニングポイントだったと語っています。三淵さんが、その日本国憲法を読んだ時、『私の人生はここから変わるんだ』と思い、涙が出たとおっしゃっています。そこから裁判官になる道が開けたので、寅子の人生において最も重要なポイントとしてドラマを作っていきました。第9週では様々なことが起こったので、寅子が流した涙はそれらが混然一体になった上でのものでした」と解説。

第41回で終戦を迎えたが、朝ドラでよく描かれる玉音放送のシーンは一切なかった。尾崎氏によると「物語をどう描くかを検討する中で、結果的にこのドラマでは、戦争が個々人にどういう影響を与えたかを描く形になりました」と言う。

「寅子や花江(森田望智)、父の直言についても言えることですが、残された人たちのドラマを描いていこうと。だからラジオの玉音放送をみんなで聞くよりは、それぞれに知らせ(訃報)が届くところにフォーカスを当て、ああいう形になりました」

また、寅子と優三が、社会的信用を得るために結婚するという設定は史実と異なり、吉田脚本ならではのアレンジが効いている。その意図について尾崎氏に聞くと「史実として三淵さんには様々なエピソードが残っていますが、結婚が社会的にどういう意味を持つか、 当時はもちろん現代にも通ずる部分にフォーカスして登場人物の気持ちの流れに当てはめた設定になりました。史実をベースにしながら、この物語を生きてきたキャラクターたちをどう動いていくかということを考えました。寅子が優三を利用したかのように見えたかもしれませんが、それが本当に良かったのかどうかを考えさせられる物語になっています」と語った。

尾崎氏は、寅子と優三が河原で語り合うシーンが非常に心に残っていると言う。

「多摩川の河川敷で撮影した河原でのシーンは何度も登場します。特に寅子と優三のシーンは、伊藤さんと仲野さんのマネージャーさんが2人ともモニターを見ながら泣いていたのが印象に残っています。伊藤さんと仲野さんは別のドラマ(『拾われた男』)でも夫婦役で共演されているので、お互いの信頼関係があって、それを本当に出し切ったシーンになっているなと思いました」