日本テレビは5月31日、昨年10月クールに放送されたドラマ『セクシー田中さん』の制作過程で起きたトラブルなどについて、調査報告書を公表した。
原作者「制作サイドから何を言われても信用できない」
この問題は、原作者の芦原妃名子さんが、ドラマの脚本作成において見解の相違が発生し、9話・10話の脚本を自ら執筆した経緯をSNSとブログで説明していたもの。芦原さんは後にこれを削除し、SNSで「攻撃したかったわけじゃなくて。ごめんなさい。」とつづり、急死した。
今回の調査では、ドラマ制作に関与した日本テレビ関係者13人、脚本家を含む社外の関係者3人に計18回のヒアリングを実施。原作の出版社である小学館の関係者4人には、書面によるヒアリングが行われた。
ここで明らかになったのは、制作者側と原作者側のミスコミュニケーションによる認識の相違により、原作者の制作サイドへの信頼が崩れていき、後のトラブルに発展していく経緯だ。脚本制作において、制作サイドと原作者による確認・修正の「ラリー」が行われていたが、制作サイドが映像化・番組化するにあたって改変した内容の意図が、十分に原作者に伝わっていないことが判明した。
それでもコミュニケーションの手法が改善されることなかったため、「原作者の視点からすれば、どうにも噛み合わないプロットや脚本のラリーが続けられることとなり、そのことに対する本件原作者の不満・不信感も解消されず、むしろ余計に蓄積していくことに繋がったと考えられる」(報告書)と指摘した。
その上、原作者がある撮影シーンについて問い合わせると、制作側が再撮影を恐れ、すでにそのシーンは撮影済みである旨返答したが、実際には5日後に予定されているものであり、その事実を原作者が知ることになるという出来事もあった。これにより、原作者は「制作サイドから何を言われても信用できない」という思いを抱くようになったという。
ドラマオリジナル脚本作成の“条件”認識に違い
この状況で、原作がないドラマオリジナル部分の制作に突入することになるのだが、それまで以上に、原作側の意向と制作側の提案が噛み合わず、結果として原作者が9話・10話(最終話)の脚本を自ら執筆することになる。
原作者はブログで、ドラマオリジナル部分について、「原作者があらすじからセリフまで」用意すること、「場合によっては原作者が脚本を執筆する可能性もあること」などを“条件”として日本テレビに何度も確認したと主張し、今回のヒアリングで小学館の担当者も同様の見解を示しているが、日本テレビの制作側にその認識はなく、当然脚本家にも伝わっていなかった。ほかに、ドラマ化が許諾された時期についても、日テレ側は昨年3月29日、小学館側は同年6月10日と認識しているなど、重要な部分での齟齬が明らかになっている。
こうして、原作者からの脚本家の降板要求、「脚本」クレジット表記のトラブル、脚本家のSNS投稿、それを受けた原作者のSNS投稿……といった流れが起きてしまった。一方で、報告書では「ドラマの内容それ自体については、本件原作者の意向を取り入れたものであったと思われ、本件原作者が本件ドラマの内容が自己の意向にそぐわないものだとの理由で不満を抱えていたという事実はなかったとみられる」としている。
日テレ社長「さらに厳しく取り組まなければならない点が見つかった」
今回の事態を受け、報告書では今後に向けた提言を出した。それは、映像化するに際しての全体構成案・演出などが書かれた「相談書」を作成し、原作サイドが映像化についてイメージを共感できるようにすること。制作担当者が原作者と直接面談すること。最終回までの構成案を原作側と合意の上で撮影に臨むこと。そして、スケジュールにゆとりを持たせるため、放送開始の1年半前、遅くとも1年前には企画を決定するように努める、といった内容だ。
さらに、早期の契約書の締結や、関係者のSNSの適切な利用の周知、プロデューサーなど人材育成やノウハウの継承を行う方法の検討、ドラマ制作組織としての業務フローのガイドライン化などを打ち出した。
今回の報告書の公表を受け、日本テレビの石澤顕社長は「ドラマ制作者側と原作者側のお互いの認識の違い、そこから生じているミスコミュニケーション、ドラマの制作スケジュールや制作体制、契約書の締結時期など、今後日本テレビとしてさらに厳しく取り組まなければならない点が見つかりました。日本テレビとしては、指摘された課題についてテレビドラマに関わる全ての方が、より安心して制作できるよう、責任をもって取り組んでまいります」と決意をコメント。
また、「改めて芦原さんがまさに心血を注いで原作『セクシー田中さん』を作り上げ、そして、ドラマ制作に向き合っていただいたことを実感いたしました。また脚本家の方は素晴らしいドラマを作るため、力を尽くしていただきました。このドラマの制作に携わっていただいた全ての方々に、心より感謝申し上げます。一方で、ドラマの制作に携わる関係者や視聴者の皆様を不安な気持ちにさせてしまったことについて、お詫び申し上げます」と謝罪した。