日本での研修を終えた医師たちが感じたこと
ケニア最高峰の総合病院であるケニヤッタ国立病院には、大小さまざまな疾患を抱える患者が集まる。そのため今回来日した医師たちは、内視鏡を用いた専門的な治療を行いながらも、それ以外の治療を必要とするさまざまな患者の診療を行っているという。1人の医師は、「できることならば、内視鏡などの専門的な技術を必要とする難しい症例に集中したい」とのこと。しかしながら、総合病院としての役割や医療機器の不足から、さまざまな症例に対応せざるを得ない状況に陥っていると話す。
また、ケニアでのがん治療の課題としては、国内の1次診療・2次診療体制が十分でないことも大きいといい、その背景には2つの理由があるという。1つ目には、がんの診断に至るまでに長い時間を要することを挙げ、最初の診療から設備の充実した病院に至るまでの間に病気が進行してしまうため、治療が間に合わないことが多いとする。また、医師の不足や技術レベルの低さも課題で、早期のがんを見落としてしまうケースも少なくないとのことだ。
そうした状況を打破するため、2013年からは内視鏡技術に関するフェローシッププログラムを国内で開始したという。しかしそれでも年間3~5人ほどを育成するにとどまっており、がんの早期発見を実現する医療体制の構築に向けて、医師数の増加が求められる状況に変わりはない。
日本医療の特徴は「明確なプロセス」と「チームワーク」
では、九大病院での研修を経て医師たちは何を感じたのだろうか。ある医師は研修で印象的だったこととして、「患者のスクリーニングプロセスが順序だてられていた」ことを挙げた。「ベーシックな症例から、より高度な治療が必要な症例まで、さまざまな症例が並んでいるのは日本もケニアも一緒。しかし日本では、明確なプロセスに沿って効率よく対処しているのが印象的だった」と語った。
また、日本では病理の医師が診療に関わっている点も目に留まったとのこと。ケニアではその役割を外部に委ねているために、判断に時間を要したりコミュニケーションの不都合が生じる場合があるのに対し、日本ではチームが一体となって動いているため、リアルタイムでのフィードバックが治療に反映できていると感じたという。
両国間の平均寿命に生じた20年の差を埋めるために
では彼らは、ケニアに何を持ち帰るのか。ある医師は、「日本では内視鏡など最先端の機器が充実していた」とする一方で、「ケニアでも日本と同じくオリンパスの機材を使用している」と話す。そのためより重要なのは「内視鏡をいかにして使いこなすか、どのような方法でがんを見るのか」だとするとともに、「日本では医療現場におけるチームワークに関して多くの学びがあったので、ケニアにも持ち帰って実現したい」とした。
「ケニアと日本では、平均寿命におよそ20年の差がある。ケニアに戻ってからは、今回重要だと感じた早期発見について追求していくとともに、内視鏡を使った医療技術としてESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)を学んだので、引き続き学んでケニアでも患者に施術できるよう、さらに高めていきたい。」
最先端の医療現場で治療にあたるとともに、母国の次世代医療を担う人材を育てることが求められる5名の医師たちにとって、日本での約1か月間は大きな分岐点になっているかもしれない。がんの早期発見に不可欠な内視鏡技術をオリンパスが伝えることで、これから多くの命が守られることだろう。