自転車を選ぶとき、何を重視しますか? デザイン、価格、電動アシスト自転車ならばバッテリーの持ち具合や重量を気にする方もいるかもしれません。

ヤマハ発動機が3月に発売した電動アシスト自転車「PAS With SP」2024年モデルで刷新したポイントのひとつが、「サドル」です。

実はこの「サドル」、なんと日本人の97.5%の体型をカバーする設計で、こだわりが詰まっているそう。ヤマハ発動機で電動アシスト自転車の企画・開発に携わる担当者に話を伺いました。

  • 「PAS With SP」2024年モデル、今回は「サドル」に注目!

「プレミアムサドル」の特長は?

今回お話を伺ったのは、ヤマハ発動機 SPV事業部 商品企画グループの久保田唯さんと、SPV事業部 車両設計3Gの芳賀健太さん。

久保田さんはヤマハ発動機の電動アシスト自転車のなかでも、いわゆる"ママチャリ"と呼ばれる「軽快車」の商品企画を担当。ベーシックモデルの「PAS With」「PAS With DX」を手掛けてきたそう。芳賀さんは「PAS With」やエントリーモデル「PAS Cheer」の設計を担当、現在はマウンテンバイク系e-Bikeの開発に携わっています。

  • ヤマハ発動機 SPV事業部 商品企画グループ・久保田唯さん、SPV事業部 車両設計3G・芳賀健太さん

「PAS With SP(パス ウィズ スーパー)」は、シリーズ最高のアシストレベルや長距離を走れるバッテリーを搭載した「PAS」シリーズのプレミアムモデル。女性ユーザーが多い「PAS With」シリーズのなかでも50代以上のユーザーが多い傾向にあるモデルで、男性ユーザーの割合も高い製品です。

このハイスペックモデルに採用されたサドルが、人間工学に基づいて開発された新型の「プレミアムサドル」です。

――2024年モデルで新たに開発された「プレミアムサドル」、どのようなサドルなのでしょうか。

芳賀さん:「プレミアムサドル」は、人間工学に基づいて開発した長時間乗っても疲れにくいサドルです。日本人の骨盤の形状や広さなどのデータをもとに、97.5%の体型をカバーできる設計を行いました。

日本人の体型データ(※)を調べると、骨盤が寝たような形状の体型を持つ方が多いんです。骨盤に当たって感じるお尻を突き上げるような痛さや振動を抑えるため、サドルの上面は丸みを押さえてフラットに、またサドルにかかる圧力を計測してウレタンを20%増量することで、振動が体に伝わりづらい仕様にしました。振動が減ると疲れづらくなるんです。

※引用データ:産業技術総合研究所 AIST人体寸法データベース 1991-92

――かなり厚みがあるサドルですが、柔らかすぎず硬すぎず、しっかりホールドしてくれる感触ですね。

芳賀さん:クッションが柔らかすぎると漕ぎづらくなるので、ある程度コシがありつつ乗っていて気持ちの良い素材を採用しました。大きな座面とクッションでお尻を支える、乗りやすいサドルです。

――電動アシスト自転車「PAS」は毎年リニューアルを重ねていますが、今回なぜサドルをリニューアルしたのでしょうか。

久保田さん:自転車を購入時にサドルを重視するお客様こそ多くないものですが、自転車に乗る際、乗り手と自転車が最も大きく接する面がサドルです。快適なサドルがモデルに対する満足度に繋がっていくのではないかと考え、リニューアルを行いました。

実際に「PAS With/With SP」のお客様調査を行った際、「サドルが前滑りする」「乗っているとお尻が痛くなる」といった声も寄せられています。特に「PAS With SP」のお客様は長距離長時間乗るユーザーが多いためか、サドルの座り心地に対する不満も「PAS With」と比べて多い傾向がみられました。そのような声を受け、昨年の2023年モデル、そして今年(2024年)の2024年モデルと、2年連続でサドルをリニューアルしているんです。

ーー2年連続でリニューアルしているんですか!?

久保田さん:2023年モデルの「PAS With SP」では、座りやすく安定感のある「ハートサドル」を開発しました。このサドルは「PAS With」のスタンダードモデルに向けて開発を行っていたのですが、より快適なサドルに対するヒントが得られたため、次のステップとして「PAS With SP」用としてより長時間乗れる「プレミアムサドル」につながりました。

  • 2023年モデルに採用された「ハートサドル」

――開発の際、こだわったポイントを教えてもらえますか?

芳賀さん:「乗っていて嫌にならないこと」にこだわりました。上り坂や路面の状況に合わせて座面の位置を変えやすく、こぎやすい広さに仕上げています。前年に「ハートサドル」を開発していますが、そもそも快適なサドルの形状はどんなものなのか、真四角なウレタンを削っていくところから始まりました。削って乗って削って乗ってを繰り返しましたね。前の出っ張りをなくてもいいんじゃないか? とか自由な発想で作っています。

久保田さん:誰もが座りやすくて違和感なく乗れるよう、性別や体型が異なる社内のメンバーで何度も試乗して妥協せずにつきつめました。普段は社内で試乗していましたが、完成して長距離を走ったら気づく違和感もありましたね。ミリ単位で乗り心地が変わるので、乗りながら気になる所を削ったりもしました。

芳賀さん:開発をスタートした当初は、「新しい自転車じゃなくて、サドルの開発かあ…」と思っていたのですが(笑)、実際はとても奥が深くてのめり込みました。

――「ハートサドル」に比べると、凹凸がまったくないフラットな座面ですね。

芳賀さん:ユーザーから聞いた不満の声を見ていくと、「サドルの座面が盛り上がっている部分に突き上げられる感じがする」という声もあったんです。お尻のかたちはひとりひとり異なるので盛り上がった形状のほうが合う方もいますが、より多くの人が乗りやすい座面を追求した結果、フラットなサドルになりました。

久保田さん:「PAS」シリーズのユーザーは女性が多いですが、上位機種の「PAS With SP」は、"誰が乗っても良いと感じる電動アシスト自転車だ"と自信をもってオススメできるモデルにしたいという思いもありました。

――フラットなサドルのメリットは?

久保田さん:痛くなりにくいことや前滑りしづらいことはもちろん、路面の状況に合わせて乗る位置を選べる点ですね。坂を登る時は前の方に座ったり、位置を変えやすいのもフラットな座面の利点です。

――これまで電動アシスト自転車を購入する際、デザインやバッテリーの持ち具合を気にしていましたが、サドルは乗り心地を大きく左右するんですね。

芳賀さん:形状はもちろんのこと、人によって心地よく走れるサドルの位置は異なります。もしも今乗っている自転車のサドルに違和感があったら、まずはサドルの裏側にあるシートポストのネジを緩めて角度を調整してみてください。前滑りする感じがあれば、サドルの角度をちょっと上げてみるだけで乗り心地がだいぶ変わるはず。今のサドルでも調整できることがあるか、販売店に相談してみても良いですね。

久保田さん:私たちヤマハ発動機は、電動アシスト自転車だけでなくバイクなどモーターサイクルを中心に展開しているので、乗り物メーカーのヤマハがこだわったサドルをお客様に提供したいという思いで「プレミアムサドル」を開発しました。実際にお客様が購入する際、バッテリーやアシスト、車体のデザインなどを重視されますが、サドルは実際に乗ってみるとかなり重要なポイントです。メーカー側としては、そのサドルを魅力にしていき、「プレミアムサドルが欲しい」と思ってもらえたら嬉しいですね。


「縁の下の力持ち」のように、自転車に乗る人のお尻を支え続けるサドル。ヤマハ発動機「PAS With SP」に搭載された「プレミアムサドル」の開発の裏側には、次に自転車を購入する際はサドルをじっくり見たくなるようなストーリーがありました。