クルマの販売台数で世界No.1のトヨタ自動車が、なぜか仮眠用のシートを開発している。自動車メーカーが睡眠を研究し、専用の商品まで作ってしまった理由とは? 「人とくるまのテクノロジー展 2024」で実物を確認しつつ、担当者に話を聞いてきた。

  • トヨタの仮眠用シート「TOTONE」

    トヨタが「仮眠用シート」を作っていたとは…

どんな商品?

この製品は「TOTONE」(トトネ)という名前。トヨタのミニバン「アルファード」の2列目シートとほぼ同じサイズのシートがあって、頭と足の部分に「トンネル」と呼ばれるものが付いている。カーテンで仕切ればカプセルのような状態になるので、プライバシーの確保もばっちりだ。

  • トヨタの仮眠用シート「TOTONE」

    製品名は「TOTONE」

TOTONEはちょっとした睡眠(15~30分)で脳の疲れをとり、すっきりとした気分を取り戻すための製品だ。短時間睡眠で判断力・集中力・創造力・作業効率などの向上を目指す「パワーナップ」という考え方に基づいて開発した。お昼ご飯を食べた後、授業を受けたり事務作業をしたりしていると、ふいにカクンと落ちるような形で眠りに落ちてしまうことがある。あんな感じの睡眠を時間を決めて意識的にとって、頭をシャキッとさせようというのがTOTONEのコンセプトだ。

シートはアルファードのものとほぼ同じ。クルマが搭載しているシートよりもリクライニングの幅は大きい。体圧分散に優れたシートで、仰向けの姿勢で座れば「ゼログラビティーな感じ」(トヨタの説明員)が体験できるそうだ。シートヒーター完備で寒い日に寝るのも気持ちがよさそう。背中にはエアーが入るようになっていて、入眠の際には「ゆりかご」のような動きを再現してくれるし、起床の際には肩甲骨を下から押し上げて自然な目覚めに導いてくれるとのことだ。

  • トヨタの仮眠用シート「TOTONE」

    人が寝るとこんな感じ。開発ではトヨタが培ってきた空間設計技術やシート設計技術、居眠り運転防止技術などを活用した。シートの素材を「ファブリック」「レザー」「スエード」「キルト」から選べるなど、カスタマイズの幅は広い

「自動運転」を見越して

トヨタではこうしたシートを自動運転が普及する未来を見越して開発している。そんな中で、シートだけを切り出して商品化し、リースで提供しているのがTOTONEだ。リース料金は標準タイプ(期間5年)で月額4.73万円。すでに約20社から引き合いがあり、問い合わせも増えているらしい。健康経営の観点から休憩スペースに設置する企業もあるし、短時間睡眠で業務の精度向上を図りたいという企業もあるとのことだった。これまでに飛行機の整備業、税理士、コンサルタント、編集・制作業務、レクサスの販売店といった顧客からTOTONEを受注しているという。

  • トヨタの仮眠用シート「TOTONE」

    自動運転のクルマにTOTONEのようなシートが付いていれば、寝ている間に目的地に到着という夢のような移動空間が実現するかもしれない

TOTONEには対応するアプリがあって、設定した時間で自動的に体を起こして目覚めを促してくれる。これなら、気持ちよくて業務に復帰できないとか、休憩時間が終わっても仕事に戻れないといったこともなさそうだ。

このシート、高速道路のサービスエリアで導入が進めば、居眠り運転の防止に効果を発揮しそうだ。そのあたりについてトヨタの説明員は、「前向きにディスカッションを進めているところです」と話していた。