トヨタ、マツダ、スバルが「それぞれ」新エンジンを開発…「今さら?」なんて言わせない理由

■内燃エンジンは廃れていく技術ではない

クルマ好きにとっては、間違いなくうれしいニュースだろう。5月28日、トヨタ、マツダ、スバルの3社は共同でマルチパスウェイワークショップと題されたイベントを開催して、それぞれがカーボンニュートラルを実現するための手段のひとつとしての、未来の内燃エンジンのあり方を提示したのだ。

覚えている方も多いはず。東京オートサロン2024でトヨタ自動車の豊田章男会長は「敵は炭素でありエンジンではない。カーボンニュートラルに向けた現実的な手段として、エンジンにはまだまだ役割がある」と言い、実際に次世代エンジン開発のための新規プロジェクト立ち上げを宣言した。

カーボンニュートラル実現の手段はBEVには限らず、少なくとも当面は内燃エンジンと電気モーターを組み合わせたHEVが大きな役割を担うことになる。さらに言えば、e-フューエルと呼ばれる合成燃料、あるいは水素をエネルギーとして使えば、内燃エンジンだけでもCO2排出量を限りなく低減できる。そう考えると、内燃エンジンは廃れていく技術ではなく、むしろ未来に向けて重要な役割を果たす存在になるというわけである。

今回はそのトヨタに加えて、内燃エンジンの未来を信じているという意味で同じ志を持つもつマツダ、スバルの3社が、それぞれの技術の方向性を明らかにした。おもしろいのは、これは共同研究のプロジェクトでもなければ、共通化の話でもないということ。それぞれのメーカーが、もちろん情報共有などは行いつつも、それぞれの視点で求める未来のエンジンの開発を宣言したということだ。

実際にトヨタは小型化された直列4気筒エンジンを、マツダはPHEVと組み合わせる2ローターのロータリーエンジンを、そしてスバルはHEV、PHEVに使われる新開発ボクサーエンジンを、それぞれお披露目した。

マツダ、スバルについても当然、皆さんは興味津々だと思うが、これらについてはドライバー本誌の次号(2024年8月号・6月20日売り)に譲り、ここではトヨタをフィーチャーしたい。なぜかって? じつはトヨタは、このワークショップに先立って新型エンジンを搭載した試作車両に乗る機会を設けてくれたのだ。オートサロンから約4カ月。すでに、プロジェクトは進められていたのである!

■トヨタの新エンジンは2リッターターボで「400馬力」

そのコンセプトはBEVを起点にPHEV、HEVを考えた際に必要な内燃エンジンだ。昨年のJAPAN MOBILITY SHOWでお披露目されたレクサスLF-ZCのように、BEV最適設計を推し進めればクルマはパッケージの自由度が高まり、フードが低くスタイリッシュなクルマを作りやすくなる。BEVにとって重要な空力の面でも、やはり低全高化が進められるのは間違いない。

トヨタが考えているのは、このBEVプラットフォームを使ったPHEVやHEVである。今までのように内燃エンジン車を起点に電動車を考えるのではなく、その逆。BEVの弱点である航続距離や充電インフラ不足を補いながら、BEVの特徴を最大限に生かせるクルマだ。そのためには、BEVプラットフォームに搭載可能な、電動ユニットとの組み合わせを前提とした小型エンジンが必要という判断である。

もちろんエンジン単体で使うことも考えていい。将来、エネルギーが電気と水素に収斂したならば、電気はBEVに使い、水素はそのまま燃焼させて、もしくはCO2と結合させてe-フューエルにして、内燃エンジンに使えばカーボンニュートラルへの道が容易になる。新車の20倍とも言われる現保有車の存在を考えれば、この道も重要だ。

そんな背景から開発されているエンジンは1.5リッターの自然吸気とターボ、そして2リッターターボの3種類。いずれも連桿比(コンロッド長とクランク半径の比)を小さくするなどしてコンパクト化を実現するという。

今回はそのうちの直列4気筒2リッターターボエンジンを載せた2台の車両を試した。1台はISの車体に搭載された、最高出力400馬力、最大トルク500Nm級のスペックのもので、こちらはATとの組み合わせ。もう1台は同300馬力、400Nm級で、高トルク対応の新型6速MTを組み合わせたピックアップである。

■パワフルでフィーリングも良好

まず走らせた前者は、とにかくパワフルでツキがよく、しかも高回転域までよく伸びるのが印象的だった。実際、レブリミットは7100回転と高い。この新型エンジン、コンパクト化のため連桿比は小さくなっているという。一般的に連桿比は大きくした方が高回転向きなだけに、うれしい驚きだったと言えるだろう。

現在、トヨタは2.4リッターターボエンジンを使っているが、こちらは当然それよりコンパクト。つまり容易にダウンサイジングが可能になる。しかも現行ユニットで気になる音量、音質も、剛性のもたせ方など設計の新しさ、そして一層突き詰められた燃焼などのおかげで、とても静かで滑らかになっていた。

そして後者はレブリミットを6200回転に抑えた仕様で、特性も車体に合わせてトルク重視に。実際、低回転域から粘りのある特性で非常に扱いやすかった。しかも6速MTが望外の好フィーリングだったのだ。こちらは現在、ディーゼルが主力の地域での展開を見越した仕様と言っていいだろう。

短時間の試乗だったので言えることは多くないが、まず感心させられたのは、もうここまで出来ていたという事実だ。しかも、乗ったフィーリングがよかった。これも大事なところで、せっかくこれからの時代に内燃エンジン車に乗るならば、それにふさわしい快感がなければ意味がない。まだ開発途上で、決して性能を突き詰めた状態ではないからこそ、余裕があったのかもしれない。だが、できればそうしたフィーリング、あるいは個性、艶っぽさなどとも言い換えられる要素も、大事にしていってほしい。 

ちなみにガレージには、RC Fの車体にこのエンジンを載せたテスト車も置かれていた。開発陣としては、80スープラに搭載されていたJZ系エンジンのことも意識している様子。つまりチューニングやモータースポーツでの展開なども、十分に考慮しているということで、その辺りは誰より開発陣がよく理解していることかもしれない。

まずは駆け足で第一報をお伝えした。ともかく言えるのは、この先も我々は内燃エンジンを楽しめそうだということ。しかも誰にも遠慮することなく、非常に小さな環境負荷で、そんな未来が実現されそうだということである。

〈文=島下泰久〉