オルタナティブR&Bの次世代スター、オマー・アポロが語る最高傑作の裏側、SZAとの交流

今夏のフジロック出演が決定しているアメリカ・インディアナ州出身のシンガーソングライター/プロデューサー、オマー・アポロ(Omar Apollo)。7月25日には東京・KANDA SQUARE HALLにて単独公演も開催決定。進境著しいオルタナティブR&Bのネクスト・スターが、6月28日リリースの最新アルバム『God Said No』やSZAとのエピソードなどについて語った。

オマー・アポロは買ったばかりのベージュ色のシェルパジャケットを着た自分の姿をビデオ通話アプリの画面で見ながら「よくない? これ」と尋ねた。

そんなの良いに決まっているではないか。そもそも、アメリカのインディアナ州が生んだオルタナティブR&Bの新星にケチをつける人なんているのだろうか。2022年4月にはデビューアルバム『Ivory』をリリースし、同作に収録されているセンチメンタルなシングル「Evergreen」の大ブレイクとともに一躍注目を集めた。さらに2023年には、SZAのSOSツアーのオープニングアクトという大役も務め上げた。そんなアポロは、このところはファッションにハマっているようだ(ロサンゼルスのサンセット大通りには、ロエベの春夏コレクションに身を包んだアポロの巨大広告が掲げられている[訳注:アポロはロエベのグローバルブランドアンバサダーに起用されている])。

現在はロサンゼルスに滞在しているアポロ。今年の夏にリリースされる最新アルバム『God Said No』から、4月5日に先行シングル「Spite」がリリースされたばかりだ。通算2作目となる本作では、ジャズやハウスといったさまざまなジャンルを実験的に取り入れたと語る。

キャリア史上最高傑作ができた、とアポロは私に言った。それは決して大袈裟な表現ではない。

めざしたのは「クラブで楽しめる音楽」

—お元気ですか?

アポロ:おかげさまで。最近はずっとLAにいて、アルバムを仕上げているよ。いまはちょうどミキシングの段階で、ものすごくワクワクしてる。そちらは? 最近どう?

—メキシコのドゥランゴの実家から戻ったところです。

アポロ:ドゥランゴの出身なんだね! 名物ダンスを知っているよ。口の中に1セント硬貨が入っているような感じで踊るやつだよね。

—1セントというか……膝の動きが特徴的ですね。

アポロ:あ、膝だっけ? 昔、母親が教えてくれたな。子どもの頃はバイレ・フォルクロリコというフォークダンスを習っていたんだ。ザパテアード(訳注:靴で床を踏み鳴らしながら踊る、フラメンコの典型的な踊りのひとつ)のような踊りだね。女の子はみんなカスタネットを持ち、ゆったりとしたロングスカートを履いていた。男の子は、ソンブレロにマリアッチの楽団員が履くようなパンツといった格好だった。

—ニューアルバムは、どんなアルバムになりそうですか? フラストレーションをより強く表現した、と何かの記事で読んだのですが。

アポロ:確かにそうだね。シングル「Spite」は、まさにフラストレーションを歌った曲だから。でもいまは、昔の恋人を懐かしむような気分に戻ってきたというか、それを新たに解釈した感じかな。このアルバムには、テオ・ハルムがプロデューサーとして参加してくれたんだ。テオとは17歳の頃からずっと友達でね。ギター・センター(訳注:米国最大の楽器小売チェーン)でバイトしていた頃に出会ったんだ。

テオとは「Evergreen」のおかげでまた連絡を取り合うようになった。去年はふたりで2、3カ月ほどロンドンに滞在していて、休む間もなく仕事をしていた。僕たちにとって何よりも大切でつながりを感じられる音楽のことだけを考えていられたのは最高だったな。ニューアルバムは、いろんな曲の寄せ集めという感じはまったくしないんだ。それよりも、最初から最後まで続けて聴く、ひとつのシーケンスのような感じ。そこがすごく気に入っている。楽曲やソングライティング、ストーリーなど、どれをとっても僕の音楽的な成長を感じられる作品になっていると思うよ。

—収録曲のひとつでは、悲しみについて歌っています。以前に、悲しみは愛のもっとも強い形であるとおっしゃっていましたね。

アポロ:悲しみというのは、ものすごく複雑な感情なんだ。誰かが亡くなったことに悲しみを抱くこともあれば、失恋によって悲しみを感じることもある。いま挙げてくれた曲は、このアルバムの中でも特に気に入っている曲なんだ。この曲を作っているときは、時間をかけて映像や感情、温度、光をイメージできるように心がけた。書いているときも、ちょっとサイケデリックな気分だったよ。

—ハウスミュージックを取り入れた曲もあります。これはちょっと意外でしたね。

アポロ:ひとつのイメージを描きたかった。映画のように、ひとつのシーンを作り込んでみたくて。クラブで楽しめるような音楽を作ってみたかった。僕の音楽ってあまりクラブ向きじゃないから、「何かクラブ的な音楽が必要だ!」と思って。特にあの頃はロンドンにいて、パーティに行きまくっていたから、そんなふうに思ったんだ。

—インスパイアされたアーティストはいますか?

アポロ:ケイト・ブッシュとジョルジオ・モロダー、あとはラビ・シフレかな。プレイリストを見せてあげる。ダニエル・ジョンストンはマジでいい。ジェフ・バックリィとラナ・デル・レイも最高。ビヨンセのアルバムもずっと聴いていた。

—どのアルバムですか?

アポロ:『4』(2011年)。これはマジで最高。

SZAとのツアーを振り返る

—本誌の企画「Musicians on Musicians」では、リンジー・バッキンガムと対談しました。「音楽づくりに外の声を取り入れることは、決して悪いことではない。でも結局のところ、それが自分の推進力になるようではいけないんだ」という言葉に共感したようですね。

アポロ:誰かに「自分はこう思う」と言われると、僕は「自分はそうは思わない」と言って、反対する理由も伝えるんだ。テオは牡牛座だから僕のことをよくわかってくれているけど、意見が衝突することもたくさんある。でも、ひとりの人と長く時間を過ごすってことは、そういうことなんだ。僕はテオに全幅の信頼を寄せ、テオも僕にそうしてくれた。これが音楽づくりのあるべき姿なんじゃないかな。誰かの意見をあれこれ取り入れるようではいけないんだ。それでは自分のアートではなく、他人のアートになってしまうから。そうなると、奉仕としての行為になってしまうし、それはもはやアートではないと思う。アートとは、その人の魂と感情を映し出すものなんだ。

そういえば前に、会話をしていてイラッとしたことがあったんだ。そのときに「あなたが僕のことをどう思っていて、どんなイメージを持っているかなんてどうでもいい。大切なのは、朝起きて、みんなの前でパフォーマンスをしたり、新曲をリリースしたりすることにワクワクできることなんだ」と思った。いまでもそう思っているし、ここまで来るのに自分のすべてを出し切ってきたような気もする。僕は、そんな自分を誇りに思っている。大切なのは、そういうことなんだ。世間の声にムカつくことは多々あるし、だからこそ、あまり真剣に受け止めてはいけないんだと思う。

—誰かに意見を求めるとしたら、どのような聞き方をしますか?

アポロ:具体的なことを尋ねるよ。たとえば「いまから僕の曲を20曲演奏するから、気に入ったのを選んで」のように。その曲が好きな理由は言わなくていいから、どれが気に入ったのかだけを教えてほしい。思うに、創作プロセスというものはとても繊細で、どんなにささいなことでも、それに向き合おうとする自分のエネルギーに悪影響を与えかねない。だからこそ、他人の意見を取り入れすぎるのはよくないと思う。僕のとある友人なんて、アルバム制作中は何ひとつ聴かせてくれないし、何ひとつ見せてくれないんだ。ちなみに彼も、本作に参加しているよ。

—昨年10月にリリースしたEP『Live For Me』について話してください。

アポロ:『Live For Me』は、まさにすべてが発見だった。僕が目的地をめざしながら作っていた音楽そのものだったんだ。同時に、タイムカプセルのようでもあった。EPのジャケットのためにドロン・ランバーグという画家が僕の自画像を描いてくれたんだけど、気に入って両方買っちゃった。いまは自宅の壁に飾ってあって、見るたびに「僕は、自分にこんなに最高なことをやってあげたんだ!」って思う。頭の中にあったアイデアが具現化されて、現実世界のものとして見るのはすごくやりがいのあることで、今後もそれを追い続けると思う。特にこのアルバムに関しては、そう思っているよ。

—アポロさんがプロデュースしたホットソース「Disha Hot」とタコベルのコラボが実現しました。

アポロ:ホットソースのレシピは、もともと母親が考案したものなんだ。前からこのソースを復活させたいと思っていたんだけど、『Ivory』の制作に追われてなかなかできずにいたんだ。だから「とにかくいまは、音楽に集中しないと!」と温めていた。Disha Hotは、ミニサイズのパウチとして、アメリカ中のタコベルのショップで復活する。母親がメキシコからアメリカに移住してレストランを開いたことを考えると、すごく嬉しいよ。でも僕が生まれてからは、忙しすぎて店を閉めなければならなかった。Disha Hotは、母親がレストランで実際に使っていたホットソースなんだ。だから僕としては「ママごめん、僕のせいでレストランを閉めることになって。だから、お詫びにソースを復活させたよ」みたいな。

—お母様は、ほかにどんな料理を作ってくれましたか?

アポロ:トルタ・アオガーダ(ソースたっぷりのメキシコ風サンドイッチ)やチレ・レジェーノ(大きな唐辛子にひき肉を詰めて焼き、サルサをかけて食べるメキシコ料理)、アグアチレ(唐辛子を使った酸味のあるソースに魚介を漬け込んだメキシコ料理)とか、いろんなものを作ってくれた。これだけは言っておくけど、ママは本当に料理上手なんだ。思い出しただけで、よだれが出てきちゃった!

—初めてお会いしたのが2年前、「Evergreen」の大ヒットの前でしたね。一躍時の人として注目を浴びたことに、どのように対処していますか?

アポロ:最初は不思議な気分だった。ネット上で言ったことが記事になったりもした。そのたびに「全然大したことじゃないのに、世間はこんなことまで覚えているんだ」と驚いたよ。「Evergreen」がヒットした頃には、アーティストとして維持するべきインフラのようなものはできていたから、「やばい、これからどうしよう?」みたいなことにはならなかった。ワールドツアーも8回こなしていたし、ライブのチケットも完売していた。でも、会場の規模は、「Evergreen」後は次元が違ったね。

—ここLAでも、シュライン・オーディトリアムからザ・フォーラムへとステップアップされましたね。ザ・フォーラムでは、SZAのオープニングアクトを務めました。

アポロ:シュライン・オーディトリアムでライブをしたときは、「Evergreen」がヒットする前だった。5000人くらいのオーディエンスを前に、「すごい、大成功だ」って思ったよ。でもその後は、「この3倍の規模の会場でライブがしたい」と思うようになった。するとSZAのオープニングアクトが決まって、「マジでやばい」って思ったね。僕のことを知らない大勢の観客の前で、とにかく演奏に集中しなければいけなかった。怖かったよ。でもアリーナツアーを終えて、自分の音楽づくりの方向性も見えてくると、「アリーナで演奏できるような音楽が作りたい」という目標も見えてきた。

—ツアー中、SZAとは仲良くなりましたか?

アポロ:もちろん。ツアー中はとにかく忙しかったけど、SZAはめちゃくちゃいい人だった。2カ月前に一緒にご飯に行って、その後、ドレイクのライブでも会ったよ。僕はあの日、かなり酔っ払っていて(笑)。SZAは、いつも愛情を示してくれるんだ。

From Rolling Stone US.

オマー・アポロ

『GOD SAID NO』

2024年6月28日(金)リリース

予約:https://japan.lnk.to/OMGodSaidNo

FUJI ROCK FESTIVAL'24

2024年7月26日(金)27日(土)28日(日)新潟県 湯沢町 苗場スキー場

※オマー・アポロは7月26日(金)出演

フジロック公式サイト:https://www.fujirockfestival.com/

"FUJI ROCK SPECIAL" OMAR APOLLO(単独公演)

2024年7月25日(木)東京・KANDA SQUARE HALL

公演詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=4195

オフィシャル先行予約:5月27日(月)10:00〜5月29日(水)23:59

チケット一般発売:6月1日(土)午前10時より

受付URL:https://eplus.jp/omar-apollo/