少子化対策関連法案が衆議院本会議で可決されました。続く参議院での審議を経て、今国会で成立する見通しです。少子化対策関連法案は、児童手当の拡充や、所得制限の撤廃などが盛り込まれ、財源の確保のために、「子ども・子育て支援金」を創設します。「子ども・子育て支援金」は、公的医療保険に上乗せして徴収するものです。収入に応じて負担額が異なるため、年収ごとの負担額を一覧にしてご紹介します。また、この法案によって、子育て世帯の給付がどのくらい増えるのか、メリットにも着目してみたいと思います。

  • 「子ども・子育て支援金」で子育て世帯への給付はどのくらい増える?

    「子ども・子育て支援金」で子育て世帯への給付はどのくらい増える?

「子ども・子育て支援金」はなんのため?

子ども・子育て支援金制度は、2028年度までに実施する少子化対策の「加速化プラン」に必要とされる年間3兆6,000億円のうち、1兆円の財源を調達するための新たな仕組みとして作られました。2026年度から段階的に実施され、初年度は6,000億円、2027年度は8,000億円、2028年度以降は1兆円が徴収される予定です。

徴収方法は公的医療保険を通じて集めますが、医療保険の種類ごと、収入ごとに支援金額が異なります。年収別の負担額は次項で確認できます。

子ども・子育て支援金の目的である、こども未来戦略 「加速化プラン」の内容をみてみましょう。

こども未来戦略 「加速化プラン」 施策

1.児童手当の拡充(2024 年12 月から初回支給開始)

  • 所得制限の撤廃
  • 高校生まで支給期間延長
  • 第3子以降の支給額増額(3万円)

2.出産・子育て応援交付金(2025年度から制度化)

妊娠・出産時の10万円相当の給付金

3.育児期間の国民年金保険料の免除(2026 年度に施行予定)

国民年金第1号被保険者の育児期間中(子どもが1歳になるまで)の保険料免除

4.出生後休業支援給付(2025年度から実施予定)

両親が共に 14 日以上の育児休業を取得した場合、最長28 日間は手取り収入が減らないように育児休業給付を引き上げる

5.育児時短就業給付(2025年度から実施予定)

育児期(2歳未満)に時短勤務を行った場合、時短勤務時の賃金の 10%を支給する

6.こども誰でも通園制度(2026 年度から実施予定)

親が働いていなくても、3歳未満の子どもを保育園などに預けることができる

政府は、こうした子育て支援制度を実現させるためには、子育て世帯を全世代、全経済主体が支え、応援していくことが重要としています。そのため、「子ども・子育て支援金」は、高齢者を含むすべての世代、企業を含む経済全体で支援する仕組みとなっています。

「子ども・子育て支援金」の負担額

では、実際にどのくらいの負担になるのか、こども家庭庁が試算した医療保険ごとの年収別の負担額(2028年度)をみてみましょう。

  • 年収別の負担額 出所: こども家庭庁試算(各報道機関による情報をもとに筆者作成)

<国民健康保険>
年収200万円: 250円/月
年収400万円: 550円/月
年収600万円: 800円/月
年収800万円: 1100円/月

<被用者保険>
年収200万円: 350円/月
年収400万円: 650円/月
年収600万円: 1000円/月
年収800万円: 1350円/月
年収1000万円: 1650円/月

75歳以上の高齢者が加入する後期高齢者医療制度からも徴収し、一人あたり平均で月350円の負担となる見込みです。

会社員や公務員が加入する被用者保険(健康保険組合、協会けんぽ、共済組合)の場合、労使折半となるので、同じ額を事業主も支払います。

子育て世帯が受ける恩恵

「子ども・子育て支援金」によって、子育て世帯は支援を受けられます。子ども1人あたりの給付がどのくらい増えるのか、こども家庭庁が試算しています。

  • 子ども1人あたり給付がどのくらい増えるのか 出所: こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度における給付と拠出の試算について」

試算によると、支援金が充当される事業(児童手当の拡充分、妊婦のための支援給付、こども誰でも通園制度、共働き・共育てを推進するための経済支援)によって、子どもが18歳までに受けられる給付は1人あたり平均で146万円増えるとしています。現在支給されている児童手当とあわせると、1人あたり平均で約352万円が給付されることになります。

これに対して、「子ども・子育て支援金」として徴収される金額は、1人あたり月450円としていますが、これは支援金を支払わない子どもも含めて計算した金額です。給与所得者の平均年収は458万円(国税庁「令和4年分 民間給与実態統計調査」より)なので、平均的な給料をもらっている人は月700円程度の支払いとなります。

これをもとに単純計算してみると、19年間の徴収額の合計は約16万円になります。

子育て世帯にとっては、16万円の拠出に対して、146万円の給付が見込めるので、支援金制度がメリットであることは間違いないでしょう。

「子ども・子育て支援金」の問題点

子育て世帯にとっては恩恵となる「子ども・子育て支援金」ですが、当初から反対意見が多く出ています。その一つが、少子化対策が目的であるのに、少子化対策になっていないという意見です。少子化の大きな要因である「非婚化・未婚化」は、価値観の変化や経済的理由によって、結婚しない、できない若者が増えたことにあります。

日本の平均年収は過去30年間400万円台で推移し、ほとんど変わっていません。その一方で、国民負担率(税金と社会保険料の国民所得に対する負担率)は上がり続けています。

  • 国民負担率(税金と社会保険料の国民所得に対する負担率) 出所: 財務省「負担率に関する資料」

つまり手取りは30年かけて徐々に減ってきているということです。この上、今回の支援金制度によって、さらに社会保険料の負担率が上がるわけですから、むしろ少子化を加速させてしまうのではという懸念があります。

一方で、子育て支援が必要であることは間違いないので、財源を確保する方法が間違っていると言えるのかもしれません。

政府の説明では「実質負担ゼロ」

政府の説明によると、こども未来戦略 「加速化プラン」を支える財源について、「歳出改革と賃上げによって実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で支援金制度を構築することにより、実質的な負担は生じない」としています。平たく言えば、保険料の負担は歳出改革でできるだけ抑えた上で、賃上げによって国民の所得が増えれば、社会保険料の負担率は抑えられ、抑えられた範囲内で支援金を出してもらうので、負担は生じないということです。

実際は、歳出改革は医療や介護の分野にしわ寄せがくることが考えられ、賃金が上がるかは人それぞれです。また、物価上昇を上回る賃上げでないと効果がなく、2023年は賃金上昇が物価上昇に追い付いていません。今後上がったとしても、数字での負担率と実際の負担感には大きな隔たりができそうです。

まとめ

少子化対策の財源として、2026年度から徴収が始まる「子ども・子育て支援金」。平均的な年収で月に数百円が公的医療保険の保険料に上乗せされて徴収されます。子育て世帯には恩恵がある制度ですが、そもそもこの制度が作られた目的である取り組みが、少子化対策になっていないと疑問視する声が多く上がっています。支援金制度についての政府の説明がわかりにくいため、さまざまな議論を呼んでいますが、その前に、少子化対策の内容の議論を深めることが重要ではないでしょうか。