サンダーバード? 個性的なフォルムが話題に

2023年12月、省力化を追求した多機能型農業ロボット「雷鳥2号」の開発を発表したテムザック。発表後、ネットなどで「サンダーバード2号が降臨?」といった声が上がった。注目されたのはそのフォルムだ。元祖特撮SF人形劇「サンダーバード」に登場する飛行機によく似たマシンが田んぼで動き回るYouTube動画も公開され、そのシュールな光景はとてもインパクトのあるものだった。

田んぼの中を自由自在に走行する雷鳥2号。英語で雷がサンダー、鳥がバードであることから、その形状とともにサンダーバードを想起させる

もちろん、同社は単なるウケ狙いの会社ではない。代表取締役議長である高本陽一(たかもと・よういち)さんが2000年に創業したサービスロボットの専業メーカーで、さまざまな産業の課題をロボットで解決してきた実績を持つ。受付案内を代行するコミュニケーションロボット、歯科医師が手技を練習するための患者ロボット、電動車いすを進化させた次世代モビリティー、下水道管の点検ロボットなど、その分野は多岐にわたる。台湾の子会社を含めて社員数は50人ほど。少数精鋭で最先端のロボットを生み出し続ける技術者集団だ。

そんな企業が、なぜ農業に関心を持ったのか。同社の常務取締役・瀬戸口純一さんは、「創業者の高本が総務省の研究会に参加した時からお付き合いがある方が延岡市の副市長に就任
され、『一度遊びに来て』と声を掛けられたのがきっかけです」と話す。

その後高本さんは延岡市にロボットの開発拠点を作らないかと熱心に誘われた。しかし、普通のロボットを開発するために新たに拠点は作れない。そこで「全く違う分野、例えば農業だったら何か取り組めるかもしれませんね」と話したところ、これを聞いた延岡市長が、地元の農業公社に掛け合い、全面協力する話にまで一気に発展したのだ。「そこまでされたら、さすがにもう断れない(笑)。そこで本腰を入れることになったのです」と瀬戸口さんは話す。

中山間地の農業を救う「雷鳥シリーズ」

農業従事者の高齢化が進み、全国で耕作放棄地が増加する日本。その対応策として、農地の集約化・大規模化による効率性向上、有機栽培による付加価値の向上などが図られ、機械化やIT化も進んでいる。ただ、大規模化が難しい中山間地の田畑はそうした動きからは取り残されがちであり、同社はそこに着目した。

「棚田のように一つ一つが小さく、大型の農機具が入れない場所の農業を何とかしたい。条件が不利な農地でも稲作が続けられるロボットができないかと考えました」(瀬戸口さん)。多機能型の小さなロボットを開発し、田んぼの面積や条件に応じて、台数を変えながら活用する。さらに、ロボットのアタッチメントを変えていろんな作業ができるようにすれば、中山間地の耕作放棄地の増加を食い止められるのではないか。そこで同社が開発し始めたのが、省力化農業を実現する農業ワークロイド「雷鳥シリーズ」である。
2023年5月には、水田を群れで動きながら雑草を抑制する「雷鳥1号」を発表し、宮崎県延岡市にある実証用の水田に投入。また、ドローンによる播種(はしゅ)作業や水管理システムの運用もスタートさせた。

脚をバタバタさせて水を濁らせ、雑草を抑制する雷鳥1号

その後、アタッチメントの交換により収穫と耕起が可能となる多機能型農業用ロボット「雷鳥2号」、さらには、夜間に圃場(ほじょう)へ侵入した害獣を検知し、対象物に高圧の放水を行う害獣対策ロボット「雷鳥3号」を開発するなど、続々と新たなロボットをリリースしている。

高圧の放水で害獣を追い払う雷鳥3号

「今年4月17日には、新型の『雷鳥1号』を発表しました。昨年はドローンで播種を行ったのですが、操縦には専用の資格が要りますし、お金もかかる。そこで、合鴨農法の要領で雑草を抑制する雷鳥1号に、自動で種まきが行える機能を追加したのです」

自動種まき機能を追加した新型の雷鳥1号

直播(ちょくはん)栽培で稲作、米粉に加工して販売

同社が描くのは、雷鳥シリーズなどの農業ワークロイドで省力化を行い、直播栽培で米を生産。さらにそれを米粉に加工し、ロボット耕作米からできた米粉「雷粉(らいこ)」のブランドで流通まで手掛ける未来だ。昨年から米粉用の品種を選んで稲作を実践しているが、本社のある京都からスマホで水管理などを行い、現地に月1回程度足を運ぶだけで収穫までこぎつけた。手間を惜しまず作業するのに比べて収量は落ちるものの、時間単価を考えれば圧倒的に高効率だという。

「雷粉」というブランドで米粉の販売も自社で手がける

「ロシア・ウクライナの問題が長期化し、円安も進行しています。今後は以前のように簡単に小麦粉が手に入らなくなる可能性もあるなかで、米粉を生産する重要性はさらに増していくはずです」と瀬戸口さんは口にする。
2024年は、雷鳥シリーズが出そろい、ほぼフルラインアップで収穫までロボット稲作を行う予定だ。瀬戸口さんは「まずは私たちのロボットでどれくらいの収量が確保できるのか。それを実証したうえで、来年以降は少しずつ全国へと取り組みを広げていきたい」と今後のビジョンを語る。

雷鳥シリーズを用いたロボット稲作の全体像

農業プラットフォームの構築を目指す

2023年10月、宮崎県延岡市では、移住希望者を対象に「ロボット稲作」の体験会が実施された。「移住者の皆さんが市内の工場で働きながら、昼休みにスマホで田んぼを確認し、ロボットを動かす。本業をしながら副業としてお米を作るような世界観を実現したいですね」と瀬戸口さん。

2023年10月に行われたロボット稲作体験会の様子

条件が不利な農地にロボットを導入しても、農業で儲けるのは難しい。そこで同社では、ロボットを使った稲作を新たなサービスとして提供する形を模索している。「当社のプラットフォームに参加し、サービス料金を払ってもらえば、ロボットを買わずに使える。また、近隣の農家や住民をつなぐコミュニティーを作り、ロボットでは難しい作業を手伝ってもらえる仕組みを作りたいです。そして、米粉の流通まで当社が手掛けることで、美しい棚田がどんどんとソーラーパネルに置き換わっていくのを食い止められるんじゃないかな、と思っています」(瀬戸口さん)

異業種ならではの柔軟な発想が、中山間地の農業が抱える課題を解決する糸口になるかもしれない。