世の中には、「貯金術」という言葉が存在する。そのため、「きちんと貯金するにはなんらかのテクニックを使わなければならない」といった考えを持っている人もいるかもしれない。
しかし、貯金のためには「王道といえる手法をただ実行すればいい」というのは、YouTubeチャンネル登録者数51万人(2024年3月時点)を超える節約・投資系ユーチューバーである節約オタクふゆこ氏。株式会社圓窓代表取締役で、元日本マイクロソフト株式会社業務執行役員の澤円氏が、その王道を聞く。
まず取り組むのは、家計簿と固定費見直しから
【澤円】
『貯金はこれでつくれます 本当にお金が増える46のコツ』(アスコム)というご著書も出されているふゆこさんの本題ともいえる、「貯金」について伺います。単刀直入に、お金を貯めるにはなにからはじめればいいですか?
【節約オタクふゆこ】
家計簿をつけること、そして固定費の節約です。これらが最強の方法であり、まず取り組んだほうがいいことといえるでしょう。王道中の王道といえるものですから、ある意味つまらない結論なのですが……王道には王道たるゆえんがあり、やはり効果が大きいのです。
いまはクレジットカードや銀行口座などと自動連携してくれる家計簿アプリがありますから、家計簿をつけるのも以前よりずっと簡単です。そうして家計簿をつけると、なににどれくらいのお金を使っているのかというお金の流れが可視化でき、削減しなければならない費目もわかるようになります。しかも、そうして実際に削減をすると、面白くもなってきます。
【澤円】
「面白い」とは、例えばどういうことを指しますか?
【節約オタクふゆこ】
わたしは最初に電力会社の乗り換えをしたのですが、電気代がそれこそ面白いように下がります。その事実を家計簿アプリではっきりと確認できますから、ニヤニヤと数字を眺めて「もっと節約しよう」というように思えるようになるのです。
【澤円】
しかし、「固定というくらいだから、固定費を削減するのは難しいのでは?」と思う人もいそうですよね。
【節約オタクふゆこ】
手軽にできるのに多くの人が見落としがちなのが、スマホ代の見直しです。数年前に見直したという人も、その数年のあいだにお得なプランではなくなっていることだってあります。あらためて見直してみて、業者やプランを変更するだけで月に数千円の節約をできるようになりますし、ネット上で完結できますから時間だってかかりません。
また、他に見落としがちなところでいうと、自宅が賃貸物件だという人に限った話ですが、火災保険料も見直してほしい固定費のひとつです。火災保険については、大家さんや管理会社に指示されるまま契約してしまうことがほとんどですが、わたしの場合、自分で選んだ火災保険と契約して年間3万円以上も安くなりました。やることは、火災保険の比較サイトを見ていちばん割安なところを選び、大家さんや管理会社に希望を伝えるだけですから、15分もあればできます。
【澤円】
知っているか知らないか、実行するかしないかで大きな差が生まれますし、手軽にできるのならやらない手はないですね。
資産管理が苦手なら、人やツールを頼る
【節約オタクふゆこ】
ちなみに、澤さんご自身は貯金が得意なほうですか?
【澤円】
これが、恥ずかしながらまったく貯金できないタイプなのです。経済学部出身なのですが、そもそも数字が苦手で……。もし僕が会社の資産管理を任されたら、やたらと使途不明金が出たり、逆に異常に儲かっていることになったり、とにかく問題が多発するはずです(苦笑)。
ですから、僕が経営している会社の資産管理は、アウトソーシングして人に任せています。意識的に担当者に伝えているのは、「早めにアラートを出してもらう」ということ。なんらかの異常の兆候が少しでも見えたら、すぐに知らせてもらうわけです。問題が起きたなら、対処が早いに越したことはありません。
これは会社経営に関しての考えですが、個人の資産管理にもあてはめられることだと思います。
【節約オタクふゆこ】
確かにそうですね。わたしの場合、最初は紙の家計簿を使って何度も挫折した経験があります。でも、澤さんのいうアウトソーシングで人に任せるではないですが、その役割を家計簿アプリが担ってくれました。ある意味、これも外注化だと思います。
メタ認知ができないと、浪費する可能性は高まる
【澤円】
僕は自著である『メタ思考 「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)という本のなかで、人生に大きな変化を起こすために最初に変えたいのは「時間の使い方」だと書きました。時間はお金とも密接に結びついているものだと思います。
【節約オタクふゆこ】
同感です。浪費してしまっていた頃と比べてわたしが大きく変わったのは、「生産者としての時間」と「消費者としての時間」の割合です。生産者としての時間というのは、簡単にいえば仕事をしている時間です。
浪費していた頃のわたしにとっての生産者としての時間は、会社にいる労働時間のみでした。お昼休みはスマホを見て「これ、買っちゃおうかな」などと考えていましたし、帰宅すれば「今度このショッピングモールに行ってみよう」といったことばかり考えていました。つまり、生産者としての時間と比較して消費者としての時間が圧倒的に多く、それでは無駄遣いしてしまう可能性も高まって当然なのです。
【澤円】
自分のことをメタ認知できていないと、情報に振りまわされてしまう状態になります。そうして、浪費に向かって自ら突進してしまっていたというわけですね。
【節約オタクふゆこ】
まさしくそういう状態でした。いまはその経験から、「これにはお金を使ってもいいのか?」と、自分とお金について冷静に客観視できるようになっていると思います。
大きなメリットがある「新NISA」を使わない手はない
【澤円】
お金を増やすためには、貯金だけでなく「投資」も重要な手段だと思います。これから投資に挑戦する初心者に向けて、2024年からはじまった「新NISA」について解説をお願いします。
【節約オタクふゆこ】
そもそもNISAというのは、投資によって得られた利益に対して非課税になる制度です。本来、投資で得た利益に対しては約20%の税金が課されます。投資で20万円を儲けたら、約4万円の税金が徴収されるのです。
ところが、NISAを利用した投資で得られた利益に関しては、非課税となります。これが、NISAの最大のメリットです。そして、新NISAでは、その非課税枠が拡大された他、その枠内においては生涯にわたって非課税で資産運用できるようになりました。
【澤円】
そんな大きなメリットがあるのなら、「逆になにか裏があるのでは?」と考える人もいるかもしれません。
【節約オタクふゆこ】
金融庁の発表内容を見る限りでは、「国民に投資をしてほしい」「日本企業への投資をしてほしい」「自分自身で老後資金を用意してほしい」というメッセージを感じます。投資に積極的に取り組んでもらうことで国民が自分自身で資産を築けるように、大きなメリットがある制度を構築したのだと考えます。
【澤円】
ふゆこさんももちろん新NISAを使って投資をしていますよね? 手応えはいかがですか?
【節約オタクふゆこ】
新NISAは、基本的に長期投資を前提としたデザインになっています。わたしの場合、旧制度のNISAから投資をはじめましたが、投資期間はまだ4年ほどで、今年で5年目に入ったばかりです。そのため、現時点でプラスかマイナスかということにはあまり意味はありませんが、数字としては50%ほどのプラスとなっています。
【澤円】
50%! それはすごいですね。
【節約オタクふゆこ】
最近の株価が上がっているだけのことで、今後、プラスの数字が小さくなる可能性ももちろんあります。ですが、新NISAの「つみたて投資枠」にラインアップされているのは、長期投資向きの優良な投資信託のみですから、20年、30年といった長期で見た場合、ほぼ確実にプラスになると見ています。ですから、一喜一憂せずに淡々と投資を続けることがなにより大切です。
貯金を含め、すべての土台は健康にあり
【澤円】
最後にちょっとざっくりした質問になりますが、貯金のプロであるふゆこさんが、貯金をするにあたっていちばん気をつけていることは?
【節約オタクふゆこ】
それは、健康です。健康こそがすべての土台だと考えています。いま、ユーチューバーとして仕事をするなかで人生経験豊かな年上の方とお会いすることも増えているのですが、皆さんが口をそろえて「なによりも健康が大事」だというのです。
確かに、健康を損なって働くことができなくなってしまえば、お金を貯めるどころではありませんし、治療するにもお金がかかります。ですから、定期的に歯科検診や婦人科検診、人間ドックを受けるといったことは徹底しています。
【澤円】
じつは、僕も最近は筋トレにハマっています。かかったお金はダンベルの購入などわずかなものでした。それだけで健康に投資していることになるし、筋トレ自体が楽しくなっていきます。そして、筋トレに一定の時間をとられるようになると無駄なお金を使う暇もなくなるなど、まさにいいことずくめです。
【節約オタクふゆこ】
その感覚はよくわかります。わたしの場合は筋トレではなくボルダリングです。それも「健康のために」とはじめたのですが、いつの間にかすっかりハマって、いまやボルダリング自体が目的になりました。
【澤円】
ここまで貯金するための具体的方法や持つべき思考、投資についてのお考えをお聞きしてきましたが、最終的にはなによりも健康が大事だということですね。体を壊してしまっては、いくら大きな資産を築けたとしてもそれを使うこともできませんからね。
節約オタクふゆこ
1993年2月14日生まれ。自らを「節約オタク」と称する節約・投資系ユーチューバー。理系の大学院修了後に開発職として電子系メーカーに就職したものの、将来のお金に対する不安を拭えなかったことがきっかけでお金について学ぶ。その後、奨学金を返済しながら1カ月10万円で生活し、年間300万円、20代で1000万円の貯金に成功。現在は脱サラしてフリーランス。運営するYouTubeチャンネル「節約オタクふゆこ」は日常的な節約法のほか、投資についての動画も初心者向けに配信して人気を集め、チャンネル登録者数は51万人を超える(2024年3月時点)。著書に『貯金はこれでつくれます 本当にお金が増える46のコツ』(アスコム)がある。
澤円(さわ・まどか)
1969年生まれ、千葉県出身。株式会社圓窓代表取締役。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンターセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。主な著書に『メタ思考』(大和書房)、『「やめる」という選択』(日経BP)、『「疑う」からはじめる。』(アスコム)、『個人力』(プレジデント社)、『メタ思考 「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)などがある
※この記事はマイナビ健康経営が制作するYouTube番組「Bring.」で配信された動画の内容を抜粋し、再編集したものです。