現在、若者や外国人を中心に人気が再沸騰中のマツダ「RX-8」。今回は、その原型となった貴重なコンセプトモデル「RX-EVOLV」を生で見る機会に恵まれました! どんな経緯で生まれた? こだわりのポイントは? 実際に開発に携わったデザイナーに話を聞きました。

  • マツダ「RX-EVOLV」

    マツダ「RX-EVOLV」に遭遇!(オートモビルカウンシル2024で撮影)

「RX-EVOLV」ってどんなクルマ?

「RX-EVOLV」(RXエボルブ)はマツダの新しい世界観を体現するクルマとして、1999年の「東京モーターショー」で発表された4シーターのスポーツカーです。マツダが誇る特別な技術「ロータリーエンジン」を動力源として採用していることが、このクルマの大きな特徴となっています。のちに、そのコンセプトやデザインをほぼそのまま引き継いだ「RX-8」が発売となります。

  • マツダ「RX-EVOLV」
  • マツダ「RX-8」
  • 左が「RX-EVOLV」、右が「RX-8」

今回はなんと、RX-EVOLVのデザインに携わったマツダ デザイン本部 アドバンスデザインスタジオ 部長 兼 チーフデザイナーの岩尾典史さんに貴重なお話を伺うことができました! 色々と丁寧に教えて頂いた内容がとても面白かったので、今回はインタビュー形式でその内容を皆さんにもご紹介したいと思います。

マツダのデザイナーに聞く!

――「RX-EVOLV」のコンセプトを教えてください。

岩尾さん:新しい表現というものを重視しました。新開発の「RENESIS」エンジン、新しい4ドアスタイル、そして、新しいスポーツカーとしての4シーター。これらをもって「新しいロータリーの復活」というメッセージにつなげようと思いました。

――「RX-EVOLV」のデザインについて、こだわりのポイントを教えてください。

岩尾さん:まず、一番にこのクルマのユニークな特徴といえるのが「フリースタイルドア」(観音開き形式のドア)だと思います。スポーツカーでありながら4ドアにしたい、けれども全長は短く、コンパクトなクルマにしたいという、一見すると矛盾した難題を解決するための手段が「フリースタイルドア」でした。

  • マツダ「RX-EVOLV」

    「RX-EVOLV」は観音開きのフリースタイルドアを採用しています

  • マツダ「MX-30」「RX-8」

    左は販売中の「MX-30」(ロータリーエンジン搭載車)、右は「RX-8」。これらのクルマがフリースタイルドアの伝統を引き継いでいます

岩尾さん:ほかには、「プロミネントフェンダー」というものがあります。フェンダーの周りを見てみてください。丸く盛り上がっていますよね! これが「プロミネントフェンダー」で、タイヤや足回りのインパクトを与える効果を狙っています。やはり、この1台はスポーツカーであるということを強調しているわけです。

  • マツダ「RX-EVOLV」
  • マツダ「RX-EVOLV」
  • 「プロミネントフェンダー」がスポーツカーらしさを引き立てています

――他にもスポーツカーであることを意識したポイントはありますか?

岩尾さん:たくさんあります。例えば、このクルマのCピラー(屋根から車体後部にかけてのライン)は、かなり寝かせたデザインをとっています。ここもスポーツカーのエッセンスを取り入れている部分です。

  • マツダ「RX-EVOLV」

    寝かせたCピラーがスポーツカーの証です

――ヘッドライトの形がユニークですね!

岩尾さん:そうですね。もちろんデザイン性を意識した部分なんですが、機能性も重視しているんです。ヘッドライトを空気の抜けるグリルにマウントすることで、重いもの(ヘッドライト)をセンターによせることができ、重量配分の面での性能を向上させています。

  • マツダ「RX-EVOLV」

    ヘッドライトがどこにあるかわかりますか? 実は、黒い穴の中にあるんです! フェンダーの前に付いている白い灯体はターンランプとのことでした

  • マツダ「RX-EVOLV」

    穴をのぞきこむとヘッドライトが見えました

岩尾さん:そのままボンネットに目を移してもらうと、とても短いことが分かりますよね。これは、マツダのこだわりであるロータリーエンジンを積んでいることを示しています。同じ理由で、フロントオーバーハング(フロントタイヤからボディ先端までの距離)も短く、グリルは黒く塗られています。どうしてもサイズが大きくなってしまうレシプロエンジンでは、このようなデザインは実現できませんからね。

  • マツダ「RX-EVOLV」

    小さく作れるロータリーエンジンのおかげでこうしたスタイリングが可能になったわけですね

――内装もおしゃれですね。随所にロータリーを連想させる三角形の意匠が見られます。

岩尾さん:外装と同様、内装でもロータリーを意識した三角形を随所にちりばめています。このあたりのこだわりはRX-8にもほぼそのまま引き継がれていますね。

  • マツダ「RX-EVOLV」
  • マツダ「RX-EVOLV」
  • 三角形の意匠が随所にみられるインテリア

――シートがネット状になっていて、通気性がよさそうです。

岩尾さん:いいと思います。実は、ネット化することでシート本体の軽量化にもつながっていて、スポーツカーとしての性能アップにもつながっています。

  • マツダ「RX-EVOLV」

    シートはネット状になっています

岩尾さん:性能アップという意味では、センターに大きなフレームが通っているのが分かりますよね。あれも車体剛性の強化につながっているんです。スポーツカーとして、色々な部分にこだわっています。

――屋根を見てみると、両端のふちが盛り上がっていますね。これはなぜですか?

岩尾さん:これには、いくつかの理由があります。まず、デザインとしては車高(屋根高)は低く抑えられたほうが望ましいんです。ただし、そのまま単純に屋根を低くしてしまうと、中に乗る人間が窮屈感を感じてしまいます。そのため頭が当たる部分、つまり両端(運転席と助手席の上部)を高く盛り上げておくことで、中に乗る人の頭上の余裕を増やしているわけです。また、このデザインにすることで空力的にも優れたラインとなりました。

――「RX-8」として市販化するにあたり、何か変えた部分はありますか?

岩尾さん:あります。特に大きな点でいえば、ボディサイズですね。やはり、市販化するにあたってボディは大きくなってしまいました。また、ヘッドライト周りの形状なども、市販化にあたって変更しています。ただし、大きなコンセプトやこだわりは、そのまま市販車の「RX-8」に引き継がれていると言って間違いないと思います。

  • マツダ「RX-EVOLV」

    「RX-EVOLV」はこだわりの詰まった1台でした!

岩尾さんはいかにもクルマ好きといった感じの雰囲気で、どんな質問にも丁寧に答えてくださいました。「RX-EVOLV」に注ぎ込んだ並々ならぬ情熱、そしてこだわりを感じることができました。最後になりますが、取材に快く応じてくださった岩尾さん、そしてマツダの皆様、本当にありがとうございました!