現在、若者や外国人を中心に人気が再沸騰中のマツダ「RX-8」。今回は、その原型となった貴重なコンセプトモデル「RX-EVOLV」を生で見る機会に恵まれました! どんな経緯で生まれた? こだわりのポイントは? 実際に開発に携わったデザイナーに話を聞きました。
「RX-EVOLV」ってどんなクルマ?
「RX-EVOLV」(RXエボルブ)はマツダの新しい世界観を体現するクルマとして、1999年の「東京モーターショー」で発表された4シーターのスポーツカーです。マツダが誇る特別な技術「ロータリーエンジン」を動力源として採用していることが、このクルマの大きな特徴となっています。のちに、そのコンセプトやデザインをほぼそのまま引き継いだ「RX-8」が発売となります。
今回はなんと、RX-EVOLVのデザインに携わったマツダ デザイン本部 アドバンスデザインスタジオ 部長 兼 チーフデザイナーの岩尾典史さんに貴重なお話を伺うことができました! 色々と丁寧に教えて頂いた内容がとても面白かったので、今回はインタビュー形式でその内容を皆さんにもご紹介したいと思います。
マツダのデザイナーに聞く!
――「RX-EVOLV」のコンセプトを教えてください。
岩尾さん:新しい表現というものを重視しました。新開発の「RENESIS」エンジン、新しい4ドアスタイル、そして、新しいスポーツカーとしての4シーター。これらをもって「新しいロータリーの復活」というメッセージにつなげようと思いました。
――「RX-EVOLV」のデザインについて、こだわりのポイントを教えてください。
岩尾さん:まず、一番にこのクルマのユニークな特徴といえるのが「フリースタイルドア」(観音開き形式のドア)だと思います。スポーツカーでありながら4ドアにしたい、けれども全長は短く、コンパクトなクルマにしたいという、一見すると矛盾した難題を解決するための手段が「フリースタイルドア」でした。
岩尾さん:ほかには、「プロミネントフェンダー」というものがあります。フェンダーの周りを見てみてください。丸く盛り上がっていますよね! これが「プロミネントフェンダー」で、タイヤや足回りのインパクトを与える効果を狙っています。やはり、この1台はスポーツカーであるということを強調しているわけです。
――他にもスポーツカーであることを意識したポイントはありますか?
岩尾さん:たくさんあります。例えば、このクルマのCピラー(屋根から車体後部にかけてのライン)は、かなり寝かせたデザインをとっています。ここもスポーツカーのエッセンスを取り入れている部分です。
――ヘッドライトの形がユニークですね!
岩尾さん:そうですね。もちろんデザイン性を意識した部分なんですが、機能性も重視しているんです。ヘッドライトを空気の抜けるグリルにマウントすることで、重いもの(ヘッドライト)をセンターによせることができ、重量配分の面での性能を向上させています。
岩尾さん:そのままボンネットに目を移してもらうと、とても短いことが分かりますよね。これは、マツダのこだわりであるロータリーエンジンを積んでいることを示しています。同じ理由で、フロントオーバーハング(フロントタイヤからボディ先端までの距離)も短く、グリルは黒く塗られています。どうしてもサイズが大きくなってしまうレシプロエンジンでは、このようなデザインは実現できませんからね。
――内装もおしゃれですね。随所にロータリーを連想させる三角形の意匠が見られます。
岩尾さん:外装と同様、内装でもロータリーを意識した三角形を随所にちりばめています。このあたりのこだわりはRX-8にもほぼそのまま引き継がれていますね。
――シートがネット状になっていて、通気性がよさそうです。
岩尾さん:いいと思います。実は、ネット化することでシート本体の軽量化にもつながっていて、スポーツカーとしての性能アップにもつながっています。
岩尾さん:性能アップという意味では、センターに大きなフレームが通っているのが分かりますよね。あれも車体剛性の強化につながっているんです。スポーツカーとして、色々な部分にこだわっています。
――屋根を見てみると、両端のふちが盛り上がっていますね。これはなぜですか?
岩尾さん:これには、いくつかの理由があります。まず、デザインとしては車高(屋根高)は低く抑えられたほうが望ましいんです。ただし、そのまま単純に屋根を低くしてしまうと、中に乗る人間が窮屈感を感じてしまいます。そのため頭が当たる部分、つまり両端(運転席と助手席の上部)を高く盛り上げておくことで、中に乗る人の頭上の余裕を増やしているわけです。また、このデザインにすることで空力的にも優れたラインとなりました。
――「RX-8」として市販化するにあたり、何か変えた部分はありますか?
岩尾さん:あります。特に大きな点でいえば、ボディサイズですね。やはり、市販化するにあたってボディは大きくなってしまいました。また、ヘッドライト周りの形状なども、市販化にあたって変更しています。ただし、大きなコンセプトやこだわりは、そのまま市販車の「RX-8」に引き継がれていると言って間違いないと思います。
岩尾さんはいかにもクルマ好きといった感じの雰囲気で、どんな質問にも丁寧に答えてくださいました。「RX-EVOLV」に注ぎ込んだ並々ならぬ情熱、そしてこだわりを感じることができました。最後になりますが、取材に快く応じてくださった岩尾さん、そしてマツダの皆様、本当にありがとうございました!