クラシックカーのBEV化レストモッド|エヴァラッティにメルセデスSLが追加

生粋のクラシックカー好きからしたら、”もったいない”という感想しか出ないかもしれない。しかし、メカニカルトラブルを抱えた旧車のレストモッドとしては、面白い選択肢のひとつとも言えよう。クラシックカー好きがロードプライシングを気にするとも思えないが、例えばイギリス・ロンドンであれば排出ガスがゼロであれば優遇されもする。そして、エヴァラッティ最大の特徴は、BEV化してもオリジナルに戻すことが難しくないことにある。

【画像】美しくエレガントなメルセデス・ベンツSLがBEV化!(写真22点)

イギリス南東部のオックスフォードシャー州、ビスターに本拠地を構えるエヴァラッティは、2019年に「アイオニック・オートモーティブ」として産声をあげた。イギリスにおける電気自動車(BEV)への需要の高まりを見越してジャスティン・ラニー氏とニック・ウィリアムズ氏が立ち上げた会社で、現在の名称になったのは2021年からである。

エヴァラッティはひと昔前の”アイコニック”な車をBEV化するレストモッドを手掛けるブランドとして名を馳せている。ポルシェ911(964型)、ランドローバー・シリーズIIA、レンジローバークラシック、ランドローバー・ディフェンダー、スーパフォーマンスが手掛けるフォードGT40のレプリカ、そして新たにM・ベンツSLクラス(W113型)がランナップに加わった。もちろん「ビスポーク」として、どんな車にも対応できる体制は整えているが、人気のクラシックモデルは”カタログラインナップ”として短期間でのコンバージョンを実現させている。

1963年の登場以来、メルセデス・ベンツSL”パゴダ”(W113型)は、時代を超越したエレガントでスタイリッシュなコレクターズカーとして、数え切れないほどのセレブリティに愛されてきた。ジョン・レノンやティナ・ターナーといった伝説的なミュージシャンから、オードリー・ヘプバーンやチャールトン・ヘストンといった俳優、そしてデビッド・クルサードやハリー・スタイルズといった現代のスターに至るまで、W113型は幅広く愛されてきた。

W113型のBEV化メニューは2つ用意され、”スタンダード”は54kWhのバッテリーを、”ツーリング”は68kWhのバッテリーを搭載している。搭載する電気モーターはいずれも最高出力300bhp。スタンダードの航続距離は160マイル、0-60mph加速は8秒以下、となっている。対してツーリングは航続距離200マイル、0-60mph加速は7.0秒と差別化が図られている。リミテッド・スリップ・ディファレンシャルと回生ブレーキにより、「ワン・ペダル」走行も可能だという。また、ACおよびDC急速充電も装備されており、急速充電にも対応している。

気になるのは、オリジナルとの違いだろう。例えばW113型のSL280を比較対象とすると、航続距離248マイル、0-60mph加速は8.8秒である。最高速はBEV化されたいずれのモデルも、オリジナルも124mphとなっている。バッテリーの重さは否定できないが、オリジナルの車両重量が1406㎏なのに対して、スタンダードは1430㎏、ツーリングは1500㎏と驚くほど重たくなってはいない。

スペックを見ているだけでも、BEV化された113型がシームレスに加速し、それほど重くなっていないにせよ床下に配されたバッテリーによる低重心化、重量バランスの最適化が快適な走りをもたらしてくれるであろうことが想像できる。クラシックカーでありながら、スムーズな走りは現代の車となんら遜色ないだろう。つまりはBEV化であって、レストモッドの一種でもあるのだ。そして、走行時に排出するガスは皆無である。

スタンダードへのBEV化は33万ポンド(日本円換算約6,500万円)~で、ベースとなる車両をエヴァラッティに持ち込む必要がある。クラシックカーをBEV化する、という精神的ハードルもさることながら、経済的にもなかなかハードルが高いことは否めない。差別化の世界は奥が深い。

文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)