観光資源がメインとなる離島において、持続可能な発展を続けることは命題といえる。地勢的な問題はもちろん、あらゆる課題解決をしていくには様々なナレッジを活用し、地域を活性化していくことが大切だ。
東京都神津島村は東京都による「東京宝島 サステナブル・アイランド創造事業」を活用し、NTT東日本、ANA NEO、ANA X、テレビ朝日らと協調することで、「サステナブル観光ループ・神津島モデル」を実施すると発表した。その当日の発表会の模様をお伝えしよう。
持続可能な地域発展を目指す
「サステナブル観光ループ・神津島モデル」は、神津島特有の魅力をさらに広めるため、リアルなデジタルデータの利活用によって、離島という地理的な不利を克服し、「関係人口の創出・拡大」を図り、持続的・継続的な発展をめざすモデルケースとなる取り組みだ。
伊豆七島の中にある神津島。世界屈指といわれる美しい星空、透明度の高い海水が洗う砂浜、花の百名山にも選ばれている天上山、それらの山々から湧き出るきれいでおいしい水、豊富な海産物など、魅力が尽きない観光地でもある。
一方で、かつての離島ブームでは大きな集客があった神津島だが、近年は遠くの観光地へ出かける人が増え、インバウンドによる外国人も離島よりは本土を選ぶ傾向があることなどから、集客に課題があるのだという。
「来てもらえれば素晴らしい島だと感じていただけますが、神津島の存在を知らない方も多くいらっしゃいます。今回の取り組みを通じて、かつての活力を取り戻すことが私たちの使命だと考えています」と、神津島村長の前田弘氏は語る。
今回の取り組みの中で、全体のコーディネートを担当するNTT東日本。「神津島の持続可能な島づくりに向け、『誰もが健やかで、生き生きと活力のある島づくり』という基本理念が2021年3月、『神津島村第5次総合計画』で策定されました」と語るのは、NTT東日本 代表取締役副社長の熊谷敏昌氏だ。
観光振興、地域交通整備、産業活性化、横断的DX促進の4つを柱とし、中でも早急に取り組みたい事業として「観光振興」を取り上げた。
「そこで私たちは『サステナブル観光ループ』というアウトラインを考えました。知ってもらう、興味を抱く、行ってもらう、そこで素敵な体験をしてもらいます。そうやって島を好きになってもらうことで、その方は周りにも情報を発信してくれ、それを知った人が島に訪れ、発信した人も2度目の旅として来てくれる。その先には移住・定住してくれる人も現れるといった好循環を生みます。今回のビジネスモデルではこういったループを生み出したいと考えています」と熊谷氏は語る。
3つのプロダクトで取り組みを促進
その後、サステナブル観光ループ・神津島モデルを実現するための3つのプロダクトが紹介された。
最初に紹介されたのはANA NEOの「ANA GranWhale」だ。
「これまでの旅行に関する情報入手にはテレビや雑誌などの情報がメインでしたが、現在はスマートフォンを使います。さらにSNSの利用者も増え、情報発信も盛んです。つまりスマートフォンで非日常体験ができるアプリが求められているのです」と語るのはANA NEOの松尾英樹氏。
同社が開発した「ANA GranWhale」は旅行先のスポットや文化を仮想空間上に再現するバーチャル旅行プラットフォームアプリとなる。
ここでは、神津島を知るきっかけを作るためのベストスポット4か所をバーチャル上に再現。新中央航空で神津島空港に降り立ったところから、おすすめコースを体験することで、島の魅力を伝えてくれるアプリになっている。
「特に神津島を知らなかった方は、ぜひ本アプリでのバーチャル体験を通じ、神津島の魅力に触れていただきたいと思います」と松尾氏は語った。
続いて紹介されたのはANA Xの「ANA Pocket」だ。「すでに存在するプラットフォームを活用し、ゼロからのアプリ開発をするレベルでのコストをかけることなく、新しいユーザーへ神津島の魅力を発信できます」と語るANA Xの桐原智己氏。
航空移動だけでなく、徒歩、フェリーといった手段でもポイントが貯まり、ANAのマイルや様々な特典に交換できる「ANA Pocket」のプラットフォームに、サステナブル観光ループ・神津島モデルを組み込むことで、すでに登録済みの多数のユーザーにもアプローチできるという魅力がある。
「神津島の認知拡大、情報アクセス性と利便性が向上、移動する際の楽しみを拡大させます。これにより、関係人口の増加につながることを狙っています」と桐原氏は語った。
最後に紹介されたのはテレビ朝日の「星空ツナガルコミュニティ~星空きっかけでツナガル、星空の数ほど企画を生み出す~」だ。
「星空を好きな人なら、誰でも参加できるコミュニティで、自分のためだけでなく、誰かのために活動することもできるのが特長です。島に来る人、来ない人も星空ファンならつながることができます」と語るテレビ朝日の増澤晃氏。
「星空ツナガルコミュニティ」はデジタル上のコミュニティで、イベントへの参加、企画者としてイベントの開催、企画がおこなえるツールになる。これを利用することで神津島の島民や全国の団体と事業共創をおこなうことが可能だと言う。
「星空好きは全国たくさんいらっしゃいます。100年続く持続可能な発展につなげたいと思います」と増澤氏は語った。
楽しいトークショーも
続いては航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏によるトークセッションだ。「今回のプロダクトによって、旅はどう変わるか」をテーマに鳥海氏は今後を分析。
「先ほど紹介された3つのプロダクトにもありましたが、神津島を知ってもらうことがもっとも重要になると思います。行きたいと思う選択肢にまずは上げてもらうことが必要です」と鳥海氏。
同氏は神津島までのアクセスについて、調布飛行場からの空路、竹芝桟橋からのフェリーまたは高速船での海路のふたつがあることを説明。
「実はANAは飛んでいないのですが、その辺は後ほど伺いましょう」と会場を賑わせた。
「旅というのは非日常であって、いつもと違う場所にいることで心身がリフレッシュできるところが魅力です」と鳥海氏。
つい最近、ロサンゼルスのドジャース本拠地へ行き、大谷選手を応援してきたエピソードを披露。その中で、一番行ってみて体感したのは大谷選手の打球の速さだったという。
「テレビではこの凄さが伝わりません。実際に目で見ることが大切なのです。これは神津島にも同じことが当てはまります。やっぱり、リアルが大事なんです」と鳥海氏。
「サステナブル観光をテーマにしているので、やはり神津島の自然をそのまま残すための環境に関する教育や、島の交通問題なども考えて欲しいと思います。島の方から伺うと、神津島の良いところを見て回るのに2泊はして欲しいとのことです。ゆったりとした予定で過ごしていただきたいなと思います」と鳥海氏は語った。
その後、鳥海氏はそのままファシリテーターとして残り、松尾氏、桐原氏、増澤氏らが再び登場。クロストークも行われた。
未来への期待が膨らむ「サステナブル観光ループ」
イベントの最後は、プロダクト事業者代表らが揃ってのあいさつとなった。
「ANAはグループを挙げて地域創生に取り組んでおり、我々ANA NEOもその一翼を担っています。様々な場所へ、みなさまをご案内していますが、その中に神津島が追加されました。私たちの『ANA GranWhale』をご利用いただき、ぜひ現地へ足を運んでいただきたいと思います」とANA NEO株式会社 代表取締役CEO 冨田光欧氏。
「ANA Xはエアライングループの会社で、航空移動でのサービスを最大化する中で、お客様の豊かな体験価値の向上を目指しています。今回発表させていただいた『ANA Pocket』を活用することで、神津島に行ってみたい方、行った方はその体験を人に伝えたくなるような体験を広げていただきたいと考えています」とANA X株式会社 取締役副社長 徳田智昭氏。
「私たちテレビ朝日はコンサートなどのイベントを通じてお客様とのコミュニケーションを大切にしてきました。近年のデジタル化によりコミュニケーションの取り方は変わってきましたが、今回の『星空ツナガルコミュニティ」でコミュニケーションの新しい価値を見出していただければと思います』と、株式会社テレビ朝日 取締役 ビジネスソリューション本部インターネット・オブ・テレビジョン局長 大場洋士氏は語った。
これで発表イベントは終了。「素晴らしい資源を持っていても、なかなか情報発信ができていませんでしたが、今回の取り組みを通じて、少しでも多くのみなさまに神津島を覚えていただき、なるべくたくさんの人に島に来ていただければと期待しています」と最後に神津島村長の前田氏は語ってくれた。
フォトセッション後に少しだけインタビューができたので紹介しておきたいと思う。
特別インタビュー
――「サステナブル観光ループ・神津島モデル」が正式に決定し、リリースされるまでに発生した課題や検討事項、その解消に関して具体的なエピソードを交えてご紹介ください。
NTT東日本 東京西支店 坂尾氏
今回のプロジェクトは、神津島村を中心にし、異なる背景、異なる業態を持つ各社が集結しました。「サステナブル観光ループ・神津島モデル」策定にあたり、忌憚のない意見が交わされていく中で、神津島村の持つ、魅力や価値、また今回のプロジェクトの意義をビジネスパーソンのみならず、一般の消費者の方々へ、最大限に「伝える」キーワードとして「サステナブル観光ループ・神津島モデル」が誕生しました。従来からある「旅マエ」「旅ナカ」「旅アト」といった一方向での旅の概念に留まらず、すべての体験をループ化し、サステナブルにつながることをイメージしてこの言葉が生まれました。
――「サステナブル観光ループ・神津島モデル」はバーチャル空間とリアル空間の「つなぎ」が特徴です。過去に似た取り組みはありましたか。また初めてのケースとすると、構築で苦心した点についてお聞かせください。
NTT東日本 東京西支店 坂尾氏
今回のモデルを構築するにあたり様々な先行事例なども調査しましたが、参照した特定の事例はございません。というのも、以前から各社が提供するプロダクトの個々の展開事例はありましたが、今回のモデルのように、それぞれのプロダクトを有機的につなぎ合わせることで、観光体験の価値向上や、関係人口の創出につながるような事例が見当たらず、どのようなモデル作りが最適なのかを各社のプロジェクトメンバーで虚心坦懐で話し合うなかで、解決の糸口を見つけました。日頃から、それぞれの分野で第一線を行くメンバーが集えたことによるシナジー効果が発揮されたと感じております。
――「ANA GranWhale」「ANA Pocket」「星空ツナガルコミュニティ」の3つの観光事業の概要・魅力についてお聞かせください。
ANA GranWhale
ANA NEO 松尾氏
スマートフォンひとつで世界中の旅先をバーチャルで体験できる事が魅力の一つです。その旅先の一つとして神津島が加わりました。バーチャルのガイドさんから神津島の魅力を聴きながら自分のアバターで島のおすすめスポットを巡る事ができます。東京都にありながら、天上山の素晴らしい自然や景色、名組湾の美しい夕焼け、ありま展望台から見るうっとりするほど満点の星空など、この小さな島にたっぷりの魅力が凝縮されていることを現地に行くまでは実際に私も知りませんでした。この魅力を神津島を知らない多くの方に伝えたい、そんな思いからANA GranWhaleにてバーチャル空間化し、神津島を知るきっかけを作り、旅の入り口体験 を実現しました。
ANA Pocket
ANA X 桐原氏
「全ての移動がポイントになる」という特性を活かし、神津島を訪れることに楽しさやワクワクを与えます。また、島の交通・宿泊・店舗情報などを一覧化したことで、島内観光の利便性も向上させ、ゲーム感覚で参加できる「チャレンジ」等により島内の回遊促進も図れるようになりました。
星空ツナガルコミュニティ
テレビ朝日 増澤氏
日本中の星空好きとツナガルことをめざし、まずは、ちょっとでも星空好きな人たちとリアルイベントやデジタル上での交流から取り組みます。星空が好きな人・全国の星空関連の事業者・新しい体験や観光に興味がある人たち・もちろん島民とコラボレーションを生み出す共創型のコミュニティを構築していきます。具体的には、(1)デジタル上のコミュニティに参加する (2)リアルにコミュニティイベントに参加する (3)企画者としてコミュニティイベントを開催・企画する、となります。
――「サステナブル観光ループ・神津島モデル」における今後の展望をお聞かせください。
今後、100年も200年もつづく島の継続的な未来のためのはじめの一歩と考えております。これを機に更なる観光振興を図っていきたい。神津島モデルが他の離島にも広がっていくことを期待したい。
(神津島村長 前田氏)
今回のモデルを、神津島村様を始めとして日本に400か所以上ある離島を念頭に、水平展開していくことが目標です。今回の観光分野のみならず、今後も新しいビジネスモデルを創出していくビジネスパートナーとして、NTT東日本にご期待ください。
(NTT東日本 坂尾氏)
ANA GranWhaleにて旅に行く前の情報収集だけに留まらず、現地でのより深い体験や、旅から帰った後も神津島のファンとなり、ユーザー同士が繋がりを持てるモデルを3社で連携し確立していきたいと考えております。日本にはまだまだ知られていない素晴らしいスポットが多くあります。このモデルが神津島をはじめ多くの地域を活性化していけたなら幸いです。4月現在で国内外合わせて67か所のスポットをバーチャルで体験できます。日本でのリリース以降、多くの自治体様や企業様よりV-TRIP構築に関してのご相談を頂いております。バーチャル体験を通じた新たな関係人口創出をご検討の方はお気軽にお問い合わせください。
(ANA NEO 松尾氏)
国内でも神津島村様と同様の課題を抱えられる自治体様があると思いますので、今回の取り組みを土台として水平展開し、ANA未就航地であっても更なる地域貢献をしていきたいと考えております。今回のANAグループ未就航地で展開した新事業は、我々にとって新しい風となりました。今後も積極的にチャレンジを続けますので、ANA Xにご注目ください。
(ANA X 桐原氏)
まずは、「星空ツナガルコミュニティ」を推進・拡大していきます。発表したように2026年春に、観光地最大級のLEDルームを構築予定となります。また、全国中の観光地にとっての魅力をデジタル技術×コミュニケーションの力で引き出し、最大限活用した取り組みを構築し、全国の系列局や全国の自治体・官公庁や企業等とのコラボレーションを広げていきたいと考えています。放送事業にとどまらず、様々な先端テクノロジーを活用したデジタル事業のノウハウや様々なコラボレーション実績を活用し「地方創生×コミュニケーション・先端デジタル活用」についても生活者や企業団体コラボレーションパートナーとの連携を推進・募集していきます。
(テレビ朝日 増澤氏)