キリンホールディングスは5月20日、電気の力で減塩食品の「塩味」と「旨味」を増強する食器型デバイス『エレキソルト スプーン』を発表した。公式オンラインストアにおける価格は1万9,800円で、初回販売台数は200台。抽選販売となる見込みで、応募期間は同日より6月2日までとしている。
また6月中旬からはハンズ各店でも数量限定で販売予定。関係者は「塩分の摂り過ぎで悩んでいる人の食生活を豊かにできる商品です」とアピールする。
■エレキソルト スプーンとは?
『エレキソルト スプーン』は、スプーンから微弱な電流が食品に流れることで、塩味、旨味など食事の味わいを増強する効果を発揮する。スープ、カレー、ラーメン、みそ汁をはじめ、食事全般で利用できる。
担当者は「皆さんにとって”ちょうど良い”と思う味付けから、調味料などを30%ほど減らした薄味で料理したうえで、エレキソルト スプーンで食べてもらうことをオススメしています。ただ、こうやって使ってください、という商品でもないので、ご自身のアレンジでお楽しみいただけたら」と紹介する。
■キリン×明治大学が共同研究
キリンホールディングスの佐藤愛氏は「家族や友人との楽しい食卓に寄り添ってきた、キリンならではのアイデアで開発した商品です。ヘルスサイエンス事業部では『おいしい食事のある人生を、すべての人に』というコンセプトのもと、エレキソルトを通じて”食塩の摂り過ぎ”という社会課題に向き合っていきます」と語る。
もともとキリンの研究員だった佐藤氏。大学病院で研究を続けていたとき、医者からは「患者さんに減塩を続けてもらうことは難しい」、また患者からは「減塩の重要性は理解しているけれど、これまで食べてきたおいしい食事から離れられない」といった声をよく聞いていたと明かす。
そもそも日本人の塩分摂取量は、欧米各国のそれと比較しても多い傾向にある。WHOでは1日5g未満の塩分摂取を推奨しているが、日本人は平均で1日10.1gも摂取している。「食塩の過剰摂取は大きなリスク要因で、高血圧症などが発症する一因にもなっています」と佐藤氏。
キリンが2021年6月に実施したWebアンケート調査(首都圏在住の40~79歳の男女4,411名が対象)では、塩分を控えた食事を行っている / 行う意思がある人の約63%は「減塩食に不満を感じている」と回答。そのうち8割は「味に対する不満」を抱えていた。「健康課題がある一方で、お客様のニーズもあります。この2つを同時に解決できる手段がないだろうか――。そんな思いで模索していたところ、明治大学の宮下研究室に”電気味覚”の技術があることを知りました」と佐藤氏。両者の意向が合致し、2019年より共同研究がスタートした。
明治大学の宮下芳明氏は「十数年間にわたる私たちの研究成果がこのような形で商品となり、非常に感慨深い思いです。キリンさんとは、食品中の味成分の動きを微弱な電流でコントロールして味わいを増強する技術を共同開発しました」と紹介する。
ところで”電気味覚”の歴史は意外と古い。宮下氏によれば「電気刺激により味が変わる」という現象は、すでに18世紀頃から広く知られてきたとのこと。「現在は医療などの現場で、味覚の検査時に『電気味覚計』を用いることもあります。私たち宮下研究室では、食生活を豊かにするものとして電気味覚を研究してきました」(宮下氏)。
では、どうやって塩味を増強しているのだろうか? 宮下氏の説明を意訳すると、以下の通り。人間は、そもそも舌にある味覚の受容体に食べ物が触れることで味を認識している。しかし例えばラーメンのスープを口にするとき、スープに含まれる全ての塩分(ナトリウム)が舌に触れるわけではない。そこで電気味覚を使い(プラスの電気を帯びるナトリウムイオンを微弱な電流でコントロールし)、スープ中の塩分を舌に触れるようにしている。
ここで宮下氏は31名中29名が「塩味が増した」と回答した、エレキソルトの技術を用いた試験結果を紹介。「効果には個人差がありますが」と断ったうえで、たとえ減塩食でもエレキソルトを使えば一般食品を上回る塩味を感じてもらえる、と解説。
ちなみに電気味覚は、ナトリウム以外のイオンも移動させる。そのことで塩味が増強するだけでなく、味わいが濃くなる、コクが出る、といった効果も期待できるという。
■世界中の100万人に届ける
今後の展開について、再び佐藤氏が説明した。エレキソルトの公式オンラインストアは5月20日にオープン済み。前述の通り『エレキソルト スプーン』は200台限定の予約・抽選販売を同日より受付開始している。商品は抽選後、6月中旬頃には当選者のもとに届けられるという。また6月中旬よりハンズ新宿店・梅田店・博多店でも数量限定で『エレキソルト スプーン』の販売を予定。新宿店では先行体験会も実施される。
エレキソルトの事業としては、BtoC(一般生活者向け製品)、BtoB(企業の健康経営、施設などの支援)、BtoG(政府・自治体支援)の3領域に幅広く展開する。佐藤氏は「次の5年間で、世界中の累計100万人の方にエレキソルト体験を届けることを目標に活動していきます」と意気込んだ。