新生活が始まる季節は期待に胸弾む一方で、体調を崩しやすい時季でもあります。なぜ季節の変わり目に体調不良をおこすのでしょうか? 東京大学で免疫学を研究し、産業医としても活躍する関谷 剛さんに原因と対策をお聞きしました。

■季節の変わり目の体調不良は免疫のバランスが崩れているサイン!?

ーーなぜ、新生活時に体調不良をおこしやすくなるのでしょうか?

関谷 剛さん:新生活が始まる4月~5月は、環境変化の多い時季。4月から新入社員になった人も多いでしょう。新しい環境での緊張によるストレスや、目まぐるしい気候変化が、体調を崩しやすい要因となっています。

なぜ体調不良がおきるかというと、環境や気候などの変化により自律神経が乱れてしまうからです。自律神経とは、汗をかいたり心臓の脈圧を調整したりと生命体を維持している神経のこと。自律神経が正常に働かなくなることで、生物にとって重要な免疫力も乱れてしまい、あらゆる体の不調を感じるようになります。

免疫力は上がり過ぎても下がり過ぎても体に異常をきたします。つまり免疫のバランスを整えることが重要なのです。免疫が弱過ぎるとあらゆる病気になりやすく、強過ぎると、花粉症などのアレルギーをおこす可能性があります。ただ、現代人が“免疫を上げる”ことにばかり着目するのは、習慣的に免疫を下げる行動をとってしまうからです。

■日常に潜む、自律神経や免疫バランスを狂わす行動

ーー具体的にはどんなことが自律神経や免疫力の乱れにつながるのでしょうか?

関谷 剛さん:人間にはボディーゾーンというものがあり、満員電車でぎゅうぎゅう詰めになり互いの距離が保てなくなると自律神経が乱れてしまうのです。自律神経が著しく乱れると、免疫系や神経系、内分泌系、代謝系といった体の機能のバランスがすべて崩れていきます。

ーーそのとき体にはどんな不調があらわれるのでしょうか?

関谷 剛さん:例えば疲れやすくなったり風邪をひきやすくなったり、胃炎になることもあるでしょう。女性の場合は生理不順をきたす場合もあります。

ただ入社したばかりの気が張っているときは意外と不調を感じにくい人もいます。免疫力とは関係がありませんが、ある程度のストレスは体を強くしてくれるのです。ただGWの連休で休むと一気に気が緩み、いきなり「会社に行きたくない」と5月病の症状があらわれてしまう人もいます。

■免疫のバランスを整えるには運動・食事・ストレス解消が大事

ーーでは、このような体調不良を予防するにはどうすればいいのでしょうか?

関谷 剛さん:日頃から免疫のバランスを整える行動を習慣づけましょう。ポイントは3つ。運動・食事・ストレス解消です。

まず重要なのが運動です。咀嚼と呼吸、そして歩行を意識してください。

咀嚼とはものを噛むこと。ほとんどの生命体は、咀嚼できなくなると食事が摂れなくなり死に至ります。咀嚼力は実はすごく大事なのです。最近では咀嚼による唾液分泌が発癌性物質を減らすという研究結果も出ています。咀嚼することによって、脳をはじめ全身の 血流も良くなりますし、美容にも良いと思います。とても大事なのですが、ないがしろにもされがちなので、きちんとよく噛んで食べる習慣をつけましょう。

呼吸も意識しなければいけません。現代人はテレワークの普及などで運動量が減り、酸素を多く必要としないので呼吸が疎かになっています。呼吸をするときに、肺や胸がしっかり動いていない人が多いのです。体に酸素を入れないと脳が活性化せず、頭の働きも悪くなりかねません。

しっかりと呼吸をするためには日頃からの練習が必要。1日朝・昼・晩と3回ずつ(計9回)肺まで酸素を入れるように深呼吸をしましょう。横隔膜を広げるように深呼吸し、お腹と胸を両方動かすように行うのがポイントです。

また歩行にもコツがあります。普段から歩いているという人も多いと思いますが、負荷をかけなければいけません。少しドキドキするぐらい、軽く汗をかくぐらいの歩行速度がいいですね。階段を登るのもいいでしょう。理想をいうと20分以上歩くのがおすすめです。

ーー食事に関してはどうでしょうか?

関谷 剛さん:食事は個人差がすごく大きいので、原理原則からいうと色々な食材をバランスよく食べてくださいというアドバイスになります。人間は肉食でも草食でもない生物。しかも多くの動物と違い、体内でビタミンCが合成できません。野菜だけでは食物繊維を消化できず栄養が足りず、肉だけではビタミンC不足になってしまう。そのためバランスよく食べる必要があります。

一概にこれを食べるといいとはいえませんが、僕がいつも推奨しているのは、1番長生きしている血縁関係者の家の冷蔵庫を開けてみて参考にすること。遺伝子が近い、血縁者たちがよく食べているものに健康の秘訣があるかもしれません。

ーーストレス解消はどうしたらいいのでしょうか?

関谷 剛さん:ストレス解消の中で1番効果的なのが睡眠です。睡眠は質がすごく大事。近年では深い睡眠をきちんと取ることが重要視されるようになりました。今は筋力の低下や肥満などが原因で若者にも睡眠時無呼吸症候群が増えています。気になる人は検査もできますし、今は睡眠に関するスマホのアプリもたくさんあるので活用するのもいいでしょう。

良い睡眠を取るためには眠る環境にも注意が必要です。生物は安心しないと寝られません。眠るには暗くて安心でき、音が少ない生命の安全が確保されている場所が最適です。高いベッドを買う必要はなく、安心できる環境づくりが重要なのです。人間は人生の3分の1ほどを睡眠に使うといわれています。なるべく自分の睡眠の質を高めていきましょう。

特に若者には「寝なくても大丈夫」「食べなくても大丈夫」という人がいますが、そんなことはありません。私たち人間もか弱い生命体です。だからこそ自分を大切に扱ってください。若い頃は無理ができますが、50を過ぎた途端に一気にガタッとくる人も多いです。今のうちから良い生活習慣を身につければ、季節の変わり目の体調不良はもちろん、長い人生も健康的に過ごせると思います。