現在放送中の大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)で、吉高由里子扮する主人公・まひろの弟・藤原惟規(高杉真宙)の乳母・いとを演じている信川清順。殿である藤原為時(岸谷五朗)は、真面目で堅物のため能力は高いものの官職を得られず、貧しい暮らしが続くなか、いとはムードメーカーとして一家を盛り上げる。SNS等でも言動が話題になっているいとを演じる信川にインタビューし、役作りや撮影現場について話を聞いた。

  • 『光る君へ』いと役の信川清順

いとは「純粋に為時さんの家が良くなることを願っている女性」

権力争いでドロドロとした宮中とは一線を画した雰囲気の為時家。そのなかでも、呑気な惟規を溺愛し、まひろの姫にふさわしくない行動にやきもきするいとの存在は、作品のなかで、一服の清涼剤となっている。

「いとは惟規さんの乳母なのですが、普通乳母にも生みの子供がいて、育ての子がどんどん出世すると、自分の息子も家来にしてもらうなど地位が上がっていくこともあるので、それを望んでいる人って多いと思うんです。でもいとは子供を亡くしているので、純粋に為時さんの家が良くなることを願っている女性。その意味で、しっかり仕事をして、為時さんの家が少しでも上にいけばいいんだという意識はあると思います」

そんないとが、為時家への思いが出たのが、第14回「星落ちてなお」で、段田安則演じる時の権力者・藤原兼家が逝去したという知らせを受けたいとはガッツポーズをしてみせた。

「いとは全く宮中のことはわからない人間。伝え聞くことだけで判断をしているので、為時さんにとって兼家さんが亡くなるのは良いことだと思って自然に出た仕草だと思います。『これで為時さんは職がもらえるかもしれない』ってね(笑)」

SNS等でも大きく話題になったシーンだが、裏側はどうだったのだろうか――。

「台本にしっかり『ガッツポーズする』と書いてありました。最初に読んだときは驚きました。どういうタイミングでどんなテンションでやったらいいのだろう……って。為時さんは複雑な表情でしたが、いとは本当にまったく知らない世界の人なので、やっぱり吉報だと素直に思ったんでしょうね(笑)」

お暇をお願いするシーンは「とても印象に残っています」

もう一つ、いとの行動が話題になったのが、同じく第14回で、為時家からお暇をもらおうと進言するシーン。いとは「私、食べなくても太ってしまう体でございますので……居場所がないというか」と為時に涙ながらに伝える。

「私もあのシーンはとても印象に残っています。長年勤めてきた為時家に対してお暇をお願いするというのは、いとにとっても決死の覚悟。でもまひろさんが炊事洗濯をし始めるし、空気吸うだけでも太ってしまう女なので、このままいても迷惑が掛かってしまう。でも皆さん優しいから自分から言い出すしかない。すごく切ないシーンでもありましたね」

いとの気持ちは痛いほどわかる為時。行く当てのないいとに「この家はお前の家である」と優しい言葉をかける。

「岸谷さんは撮影のとき『どうやってくれても受け止めるから』とおっしゃってくださって。本番で為時さんとの距離がリハーサルのときよりすごく近くて、やっぱりいとのことを大切に思ってくれているんだなということがすごく感じられるシーンでした」

主人と従者という関係性だが、実は為時といとには裏設定を設けているという。

「監督と、以前為時さんといとさんはデキていたんじゃないかという話をしていたんです。セリフにはないですが、結構為時さんの(妾の女性である)高倉の女をライバル視したり……(笑)。だからこそ、いとにとって為時さんのお部屋に出向くことはとても大事なことという認識を持って演じています。もちろん、いまはまったくそんな関係ではないのですが、そのことを意識することで微妙な距離感が生まれるのかな……と」

惟規役の高杉真宙は「とにかく格好いい(笑)」

乳母として溺愛している惟規。いとにとっては目に入れても痛くないほど大切な存在。演じるのは高杉だ。

「高杉さんはとにかく格好いい(笑)。顔も小さいです。話しかけたらいけないタイプの俳優さんかなと思っていたのですが、好きなゲームの話とかめちゃくちゃしてくれます (笑)」

一方で、吉高演じるまひろに対していとは「やや冷たい」という反響もある。

「惟規さんが生まれたときに為時家にやってきたのですが、そのとき、まひろさんは2歳で、いとにとっては惟規さんと同じように思っていた存在なんです。でもあの時代は男の子と女の子では扱いが違うし、やっぱり惟規さんに目がいってしまうんですよね。それでもまひろさんにもズバズバ物事を言えたり、まひろもぽろっといとに相談するような関係性なんです」

オファーを受けた際は「とてつもなくびっくりしました。平安時代にこんな太った女性っていたのかなと思ったんです」とおどけながら語った信川。それでも多くの反響をもらって「うれしい」と笑顔を見せ、「いとさんの立場上、結構宮中の話は客観的に観られるのですが、いま注目しているのは(黒木華演じる)源倫子さん。今後の展開に目が離せません」と注目点を語っていた。

■信川清順
1981年2月22日生まれ、埼玉県出身。数々のドラマや映画、舞台に出演。大河ドラマへの出演は、『どうする家康』に続き、『光る君へ』は2度目。

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