映画『湖の女たち』(公開中)の公開記念舞台挨拶が19日に都内で行われ、福士蒼汰、松本まりか、三田佳子、浅野忠信、大森立嗣監督が登壇した。
同作は、吉田修一氏の同名小説の実写化作。琶湖近くの介護施設で100歳の老人が不可解な死を遂げた。老人を延命させていた人工呼吸器の誤作動による事故か、それとも何者かによる殺人か。謎を追う刑事たちと介護士の女、そして過去の事件を探る記者の行方は、深淵なる湖に沈んだ恐るべき記憶にのみ込まれていく。
■映画『湖の女たち』公開記念舞台挨拶にキャスト陣集合
福士は「今回の圭介という役はすごく複雑な心境を持ちながら生きている青年ですが、普段の僕はすごく笑顔です。今日の舞台あいさつは安心して聞いていただければ」と笑顔であいさつ。続く松本も「わたしはこの映画を撮ってから、公開されるのがすごく怖くもありました。とても個人的なことですが、SNSに書けていない作品です。それほど自分の中で、この映画をどう表現したらいいのか……すごく難しくて。でも本当にこの作品はわたしにとって、人生の中でとても大きな、大切な作品です」と誇らしげな表情。さらに「この映画は、僕の映画にありがちな賛否両論がわき起こっています。ただ、この映画をつくることには確信を持っていて。この映画をつくれたこと、公開となったこと、スタッフ・俳優にも感謝しかありません」と呼びかけた。
この日は原作者の吉田修一氏より、出演者にサプライズで手紙が届けられた。「映画『湖の女たち』公開に寄せて」と題したその手紙は、「試写でこの映画を見終えて、私は言葉を失いました。慌てて何か言葉を探そうとしたのですが、今自分の心のうちに湧き上がっているものに、ただの一語も言葉を与えてやることができませんでした。それほど映画『湖の女たち』は、観る者から安易な言葉を奪ってしまう作品なのだと思います」とはじまり、「この小説はとても持ちにくい形をしています。映像化に際して持ちやすいように形を変えることは簡単ですが、大森監督は持ちにくい形のまま、それでも持ち上げようとしてくれました。監督のその大いなる覚悟にも改めて感謝申し上げます」と大森監督の“覚悟”、そしてそんな大森監督に対する“信頼”がつづられていた。
そして「この作品で描かれるのは、官能と自然と歴史、そして正義についてです。偶然にも、本日壇上にはそれぞれを体現されているキャストの皆さんがいらっしゃるとお聞きしました」と続けられ「福士蒼汰さんが持つ野性的な官能。松本まりかさんが体現された大自然のリズム。そして伝説的な女優である三田佳子さんからはこの国の歴史を、浅野忠信さん演じる刑事は正義の揺らぎを、生々しくわれわれに伝えてきます。映画の終盤、浅野さん演じる刑事が『世界の美しさ』について福士さん演じる圭介に問うシーンがありますが、ひいき目ではなく、日本映画史に残るような名シーンではないかと思います」とキャスト陣について言及。
「この『湖の女たち』が一人でも多くの方に届くことを願ってやみません。一人でも多くの方がこの映画に触れ、福士蒼汰さん松本まりかさん、お二人の鬼気迫る姿に、そして湖の夜明けの美しさに、私と同じように言葉を失ったならば、この作品が伝えようとしたものは、きっと届いたのだろうと思います」「主演を務められた福士さん、そして松本さん。圭介と佳代という人間を生み出した原作者として思うのは、今回のお二人の挑戦が生半可なものではなかっただろうということです。しかし、その挑戦の先でお二人が見せてくれた風景は、小説を遥かに超えたものでした」と感謝の思いが明かされ、「風景には、決して触れられない。ずっとそう思っていましたが、それでも必死に手を伸ばせば、いつかかなうのではないか。お二人の演技は私にそんな思いを抱かせるほどに、人間の品性と生きることの可能性を見せてくれました。圭介と佳代を、誇り高く演じてくださって、心から感謝申し上げます。本当にありがとうございました」という文言とともに締めくくられた。
福士は「すごくありがたい言葉をたくさんいただいてうれしいですし、素直に受け止めたいと思うんですが、すごくありがたい言葉をいただけばいただくほど、もっとやりたかったなという思いがあふれてきて。自分の未熟さを実感してしまいます」と正直な思いを吐露すると、「この作品をやって大きく変わりましたし、人としても、物事の捉え方、言葉の扱い方というものが少しずつ変わってきたなという感覚があって。それは心が成長していくというか。役者をやるのってすてきだなと思う瞬間のひとつ。それは先輩の浅野さん、三田さんを見ても、役者を続けていくと、こういう風にきれいな景色を見ることができるということを体現している方がそばにいると、自分もそれを続けていきたいと思いますし、さらに自分の未熟さを感じてしまうところもありますが。圭介と同じようにそういう心境が入り交じるといいますか、そんな感覚の30代なんだと思います。吉田さんありがとうございます!」とコメント。
続く松本は言葉に詰まった様子で、しばし黙考しつつも、その瞳からはみるみると涙があふれてくる。そして「正直な話をすると、わたしはこの作品を受けて、非常に罪深いことをしたなと思いました」と絞り出すように語りはじめると、「やはり自分にはやりきれない。この作品を、この役を体現するには、あまりにも自分は未熟すぎました。すべては人間性も芝居も、全部ですが。だけどわたしは大森監督の作品を、吉田さんの作品をどうしてもやりたかった。それはただ、ただ自分にとって必要な映画だったから。自分がこの作品を背負って、やっちゃいけないなと思っていましたけど、自分の欲求だけでやってしまいました。撮り終わってからも、すごく罪深いことをしてしまったなと思っていました」と述懐。吉田氏から手紙に触れて、「原作の吉田さんからこういったお言葉をいただいた時に、さらにその罪深さは増したなと思いました。でも吉田さんがそう思ってくださったことはわたしにとっては救いでした」とその正直な思いを切々と語った。
さらに「今のお言葉からも、やっぱりこうやって自分が何かを表現する立場にいる、自分が影響力を持つ仕事をしているという自覚。安易に言葉にしないということを大事に生きていかないといけないなと思いました」とあらためて決意を語った松本は、「今までも安易な言葉を使っているつもりはありませんが、自分から出てくるもの、表現というものが、本当にうつくしいと思えるものであり続けたいなということを、今、お手紙を聞きながら身を正しました」と涙ながらに付け加えた。
最後に福士が「何より隣で松本さんがいてくれたことが大きかった。撮影中は(役柄の関係性もあり)笑顔も見せずに話さないということでやり通しましたが、彼女はすごく不器用だけど、熱いものをめちゃくちゃ持っている人です。(先ほどもそうでしたが)話し出すまですごく考えているんだけど、話し始めたら止まらないじゃないですか。松本さんの持っているエネルギー、ピュアさみたいなものがすごくたまっていって、それが佳代という存在とリンクしていくのだと思います。それが人間的で美しいなと思う瞬間がありましたし、佳代という存在にも現れていたんじゃないかなと思いました」と語ると、最後に松本に対して「ありがとうございました」と感謝の思いを伝え、会場からは大きな拍手が送られた。
そしてその言葉に笑顔を見せた松本は「最後に1カ月半くらいきつかった時期を回収してもらいました」と涙ながらにコメントすると、「(圭介という役柄に対峙して)怖かったです」と付け加え、福祉はあわてた様子で「ごめんなさい!」と返していた。