インド発のスタートアップが開発! EFポリマーとは?
コバマツが今回注目したのは「EFポリマー」という資材です。これを使うといろいろと栽培上の問題が解決されるといううわさを聞きつけ、まずは開発した会社にやってきました。そのEF Polymer(イーエフポリマー)株式会社があるのは沖縄科学技術大学院大学(以下、OIST)の中にあるイノベーションスクエアインキュベーターという施設。ここにはOISTでの研究をきっかけに設立したスタートアップ企業などが入居しています。
インタビューに答えてくれたのは、同社の広報担当、中尾享二(なかお・きょうじ)さんです。ではさっそく詳しく聞いていきましょう!
EFポリマーとはどのようなものなのでしょうか?
インド発のスタートアップ企業である当社が開発した超吸水性ポリマーの農業資材です。ポリマーとは、赤ちゃんのおむつに使われているような、自重の何百倍もの水分を吸って保持することができる樹脂のことです。
とても環境にやさしいポリマーだといううわさを聞いたのですが、それは本当ですか?
はい! EFポリマーはオレンジやバナナなど、従来廃棄されてきた作物の残さから生まれた100%オーガニックのものです。オレンジの皮を乾かして粉にしてペクチンなどを混ぜると吸水性があるものになるんです。これを農地に適用することで水不足などの厳しい環境下でも生産できるだけではなくて、肥料の耐久性も期待できる。収穫量の向上につながります。
ところで、こちらの会社は「インド発」と聞いていますが、インドに関係した企業なんですか?
代表のナラヤン・ガルジャールがインド人なんです。彼はインドの干ばつの多い地域で、農家の両親のもとに生まれ育ったんですよね。幼いころからうまく作物が育たない環境を目の当たりにしてきて、「いつか水不足に悩む両親や村の仲間を助けたい」そんな思いを持っていたそうです。彼が高校生のときにはすでに、今のEFポリマーの元となるものを構想していたと聞いています。
その後、ナラヤンは大学に進学してポリマーを開発しようと研究していたのですが、資金面で研究や製作段階で頭打ちになってしまったんです。そこでいろいろ調べていたところ、OISTの起業家育成支援プログラム「OISTスタートアップ・アクセラレーター・プログラム」を見つけて申し込み、見事運転資金やスタートアップのサポートを勝ち取って、日本で事業を展開することになりました。
水が少ない環境で農業をする両親のもとで育って、地元のために何か貢献したいっていう思いで開発を始めたなんて、スゴイですね!
現在、日本では特に沖縄と北海道でEFポリマーの利用者を増やしているところなんですよ。実際に使っている農家さんがいるので、その様子を取材すればより詳しくEFポリマーのことがわかると思います。
そうですね! では早速これから、実際に使っている農家さんにも話を聞いてきます!
実際に使っている農家に聞いてみた
最初にやって来たのは沖縄本島の北西、フェリーで30分ほどのところにある伊江島。島ラッキョウの生産など農業の盛んな島です。お話を聞いたのは知念和良(ちねん・かずよし)さん。親元就農して4年目、島ラッキョウ・ラッカセイ・ニンニク・紅イモなどを作っている農家さんです。
知念さんはEFポリマーを使ってみてどうでしたか?
昨年、島ラッキョウの圃場(ほじょう)で、EFポリマーを使ってみました。通常の収穫予定より、EFポリマーを使った圃場は2週間早く収穫できたんですよね。
えっ! それってどうしてでしょうか?
EFポリマーを使うことで肥料の耐久性、吸収性がアップするからだと思います。通常は肥料をまいた後、土と肥料がなじみ始めたころに雨が降って肥料が流れちゃうことがよくあるんですよね。
試験的に島ラッキョウの根元にEFポリマーを筋まきしたんです。後日、EFポリマーをまいた畑とまいていない畑とで土壌検査をしたら、まいた畑は養分が残っていたんです。まいていない畑は追肥しなければなりませんでしたが、EFポリマーをまいた畑は肥料の養分をしっかり蓄えてくれていたんです。
追肥をしなくていいっていうのは、その分手間も省けますし、コストカットにもなりますよね!
しかもそれだけじゃなくて、他の畑よりも生育が良く短い期間で収穫できるので、虫や病気にかかるリスクも減ります。なにより、早く収穫できて他の人が出荷していない時期に出せるので、その分高く売れるというメリットもありますね。
作物の生育を手っ取り早く良くするとなると、化成肥料をイメージしがちですが、自然由来のものでそんなに早く効果が出る方法も珍しいですね!
化成肥料は短期的にはいいかもしれませんが、長期的に見たら自然由来のものの方が自然環境にも良いし、持続的に活用できるんじゃないかなと思います。
北海道で活用している農家にも聞いてみた
今度は南の島から北海道に移動して、洞爺湖(とうやこ)町にやってきました。お話を聞いたのは、洞爺湖の近くでセロリやトマトを栽培している佐伯範彦(さえき・のりひこ)さんです。
佐伯さんはどうしてEFポリマーを活用しようと思ったんですか?
北海道も最近温暖化の影響で夏は30℃を超えるなど、葉物野菜にダメージを与える気温になるときもあります。また、気候の変化が生育にも影響を及ぼしていました。そんな時に有機生産者の勉強会でちょうどEFポリマーの紹介があって、肥料や水の耐久性に効果があるとのことだったので使ってみました。
僕は今年の初めからセロリに使い始めたのですが、EFポリマーをまいた畑とまいていない畑だと、まいた畑の方が例年より生育状況が2週間ほど早いかなという感じがします。
現段階では肥料や水の持ちが良く、生育が早い点がメリットだと思います。葉物野菜は特に病害虫や暑さが課題です。夏の暑さが増す時期より早く収穫できそうなので、暑さによる野菜に対するダメージを少なくできるのはすごくメリットに感じますね。早く収穫できる分、虫や病気のリスクも減ると感じています。
早く収穫できる分、暑さを回避できるというメリットもあるんだ! そういえば有機生産者の勉強会でこの資材を知ったとのことですが、有機栽培でもこのEFポリマーは使えちゃうんでしょうか?
うちは有機JASを取得している農園です。EFポリマーは有機資材リストに載っていて有機栽培にも使えますよ。
今後の展望
2件の農家さんに取材したところ、EFポリマーは農家の課題解決に役立っているようです。今後について、改めてEF Polymer社の中尾さんにお話を聞きました。
今は、インドの工場でオレンジなどの残さを活用して製造していますが、さらに、他の地域でも製造できるように進めていきたいです。地域の残さを活用してポリマーを作り、その地域の生産活動に活用することができれば、より循環型の農業にも貢献できると思います。
今は沖縄で製造研究していますが、今後は、沖縄を拠点としてグローバルに世界中の水不足に悩む農家を減らしていきます。創業者のナラヤンは「一層研究開発を進めて、資材を開発していきたい」と話していますね!
さらに、ポリマーはシャンプーや保冷剤などにも使われているのですが、今は石油由来のものがほとんどなので、環境負荷がかかるものが多いんですよね。ナラヤンは自然由来のEFポリマーを活用することでより良い未来を作りたいとも考えているようです!
農業分野で始まった取り組みが、地球全体の環境負荷低減にもつながるなんて、ステキな取り組みですね!
今回は新しい資材の活用を通じて農業の課題を解決する取り組みを取材しました。農業現場では環境の変化や資材高騰への対策で農家の皆さんはとても苦労しつつも、経営的にプラスになる資材の使い方を模索しているのが印象的でした。
今後も農家の皆さんのプラスになるさまざまな技術を開発しようとしているEF Polymerの取り組みに注目していこうと思います!