ダイキン工業が発表した2023年度(2023年4月~2024年3月)連結業績は、売上高、営業利益ともに過去最高の業績を更新。売上高では初めて4兆円を突破する好調な内容となった。

売上高は前年比10.4%増の4兆3953億円、営業利益は4.0%増の3921億円、経常利益は3.2%減の3544億円、当期純利益は1.0%増の2603億円。

  • ダイキン工業 2024年3月期の決算概要

    ダイキン工業 2024年3月期の決算概要

ダイキン工業の十河政則社長兼CEOは、「多くの地域や事業で、想定以上に需要が落ち込む厳しい事業環境となったが、カーボンニュートラルや省エネにつながる新商品の投入やサービスの提案強化、戦略的売価施策の徹底、トータルコストダウンなどの重点施策の実行を徹底。インド市場やアプライド(業務用大型空調)製品など、好調な領域や高付加価値商品の販売拡大を図り、過去最高業績を更新した」と総括した。

  • ダイキン工業 十河政則社長兼CEO

    ダイキン工業 十河政則社長兼CEO

第3四半期は、欧州のヒートポンプ暖房や、米国の住宅投資の減少に伴う流通在庫調整の影響、インフレによる耐久消費財の需要低迷など、多くの地域や事業で、需要が想定以上に落ち込んだために一時的に減益となったが、欧州では、既存空調店の暖房取り扱いの促進や、新規チャネルの開拓、販売店への訪問強化などによる受注獲得強化に努めたこと、米国では住宅用ユニタリー市場で、ボリュームゾーンにおけるインバータ搭載の「FIT」の拡販に向けた新商品の投入、提案型ディーラーの育成施策などを実施。「第4四半期には、これらの成果を最大限に創出したことで増収増益に転じ、通期の過去最高業績の更新につなげた」と説明した。

2023年度の部門別、データセンターと半導体工場向けで空調が好調

2023年度の部門別業績は、空調・冷凍機事業の売上高が前年比11%増の4兆288億円、営業利益が3%増の3333億円となった。

空調・冷凍機事業の地域別業績では、日本の売上高が前年比6%増の5887億円。省エネニーズに対応した高付加価値機種の提案を強化したほか、戦略的売価施策の徹底により売上高は前年を上回ったという。とくに住宅用は、電気代の上昇や省エネニーズの拡大を背景に、「うるさらX」を中心にしたユーザーへの提案を強化したことで販売を拡大。また、寒冷地での販売も好調だったという。さらに、エコキュートは市場全体では12%減と縮小するなかで、同社では前年並の実績を維持。シェアは2.4ポイント上昇し、20%程度にまで拡大したという。

業務用エアコンは、売価施策や利益重視の方針を徹底し、高い省エネ性を持つ「FIVE STAR ZEAS」や、施工性を向上した「machiマルチ」を拡販したという。

国内の住宅用エアコンのシェアは前年比0.7ポイント上昇の23.2%となり、業務用エアコンは前年並の44.3%を獲得している。

空調・冷凍機事業における米州の売上高は前年比18%増の1兆5759億円。中国の売上高は前年比7%増の4588億円。欧州の売上高は前年比1%増の6666億円。アジア、オアセニアの売上高は9%増の5899億円。欧州ヒートポンプ暖房については、「当初予想の30%減に留まっている。今後は、補助金に頼らない販売方法を構築していく必要がある。欧州では、工事費用が高い点が課題であるため、そこに特徴を持った提案を行っていく。この厳しさは2~3年は続くが、売上げを拡幅するための取り組みを強化する」という。同社では、ヒートポンプ暖房で、自然冷媒のR290製品を2024年11月に発売する計画も明らかにした。

さらに、アプライド空調が好調であることにも言及。「データセンター向けと半導体工場向けが成長している。生成AIの活用には、データセンターで多くの電気を使用することになる。ダイキン工業では、これをチャンスと捉えており、さらなる省エネにつながる商品やシステムをデータセンター向けに投入したいと考えている」としたほか、「将来を考えると空冷に留まらず、液冷もやらなくてはならない。液冷の技術は持っていないため、提携やM&Aを視点に入れてやっていく必要がある」と述べた。

なお、化学事業の売上高は前年並の2639億円、営業利益は13%増の515億円。その他事業は、売上高が前年比16%増の1026億円、営業利益は2%増の73億円となった。

  • ダイキン工業 2024年3月期の事業セグメント別実績

今期は売上高4.5兆円超え、利益率の回復、インド拠点化を加速

一方、創業100周年の節目の年にあたる2024年度(2024年4月~2025年3月)の連結業績見通しは、売上高が前年比3.3%増の4兆5400億円、営業利益は8.4%増の4250億円、経常利益は10.0%増の3900億円、当期純利益は2.6%増の2670億円とした。

ダイキン工業の十河社長兼CEOは、「営業利益は、為替を除く実質ベースでは2桁以上の増益を目指し、営業利益率は9%台に回復させる。創業100周年を節目に、次の100年につながるスタートの年として、さらなる飛躍に向けて取り組んでいく」と抱負を述べた。

だが、「引き続き、事業環境は厳しく、住宅用空調は各拠点ともに低成長に留まる見通しであり、欧州のヒートポンプ暖房市場も回復が見通しにくい。インフレは調達部品の価格高騰や人件費の上昇に及び、コストアップが継続することになる。コストアップの吸収とシェアアップを両立する売価施策と、営業力や販売力の強化、グローバル横串での変動費コストダウン、固定費の効率化などの重点テーマに取り組む」とした。

  • ダイキン工業 2025年3月期の業績計画

  • ダイキン工業 2025年3月期の業績計画

また、「2025年度を最終年度とする中期経営計画『FUSION25』において、成長戦略と位置づけるカーボンニュートラル、エネルギー、サービス・ソリューションの推進を軸に、事業環境の変化に対応し、短期利益を確保するだけでなく、中長期の成長を見据えた収益力強化につながるテーマを実行していく」と述べ、「2024年度の営業利益の4250億円は、『FUSION25』の達成に向けた必達ラインとなる。これを上回るべく挑戦をしていきたい。そのためにはもう一段稼ぐ力を向上させることが不可欠である」と語ったほか、「先行投資も実施していく考えであり、2024年度は生産能力の増強に向けて、ポーランド、メキシコ、インド、インドネシア、中国への空調事業の5大投資などを予定している。また、北米の販売網やサービス・ソリューション事業の強化、欧州の低温事業の買収などのシナジー創出による投資の刈り取りを強化し、収益力の効果を進め、大幅増益の達成と営業利益率9%への回復を目指す。事業体質のさらなる強化を進める」とした。

インド市場では2025年度に1750億円の売上高を目指していたが、これに近い数字目標を2024年度に前倒しするほか、2025年度に売上高2000億円を目指す計画を打ち出した。「インドを、一大グローバル拠点化する。2023年8月に稼働したスリシティ工場ではルームエアコンの年間300万台の生産体制が整ったが、これを500万台に引き上げることで、さらなるコストダウン効果を図ることができる。グローバルサウス市場に打って出ることができる」などと述べた。

  • 2025年度を最終年度とする中期経営計画「FUSION25」における、後半3カ年計画のテーマ。「インドの一大拠点化」は加速している

部門別業績見通しは、空調事業の売上高が前年比3%増の4兆1650億円、営業利益が10%増の3655億円。そのうち、日本の売上高が前年比2%増の6000億円、米州は5%増の1兆6500億円、欧州は5%増の7000億円、中国は前年並の4600億円、アジアは5%増の4800億円を見込んでいる。

また、化学事業の売上高は前年比2%増の2700億円、営業利益は1%増の520億円。その他事業は、売上高が前年比2%増の1050億円、営業利益は2%増の75億円とした。

今期は創業100周年の節目、経営の新体制もスタート

過去最高の業績を更新したダイキン工業だが、厳しい環境にあるのは確かだ。しかし、その一方で、成長市場に対しては積極的な投資を進める姿勢は崩さない。

ダイキン工業の十河社長兼CEOは、「100年目の節目を過去最高業績で迎えることができるのはなによりである。ダイキン工業には、長年培ってきた独自の強みがある。地産地消のモノづくりや、独自の販売網を作ってきたことなどがあげられる。だが、そのすべての根底には人を基軸にした経営があり、人の力を最大限に引き出すことが大切である。ダイキン工業は、社員の定着率が高く、帰属意識が高い企業である。経営層と現場の第一線とが近い関係にあり、フラット&スヒードの経営ができている。こうした取り組みが実行力につながっているおり、挑戦し、実行し、それを成果に結びつけることができている」と語る一方、「今後は、より変化が速くて、激しい時代に入っていく。先行きの見通しも不透明である。次のFUSION 30をどう作るか。その検討に入っているが、生産地や中継地、消費地までを一気通貫で提案するコールドチェーン事業の推進や、空気の可視化による事業化にも取り組み、次の成長と発展を描きたい」と述べた。

FUSIONは、5年間の経営計画とし、前半と後半に分けて策定し、折り返し点で再度内容を見直すのが通常だ。次期中期経営計画であるFUSION 30では、どんな成長戦略が描かれるのかが、いまから楽しみである。

なお、ダイキン工業は、2024年6月27日付で、代表取締役社長兼COOに、竹中直文専務執行役員が就任することを発表している。十河政則社長は、代表取締役会長兼CEOに就任する。100周年の節目に新体制でスタートを切ることになる。