有機物を堆肥化して土にかえす
なるべくゴミを出さない暮らしをしたいと思っている。
わが家で日常的に出るゴミは、自治体でリサイクルできないとされる商品パッケージなど、一部のプラスチック製品だけだ。缶などの金属やガラス瓶、古紙、古布などは、ほとんどリサイクル資源として収集してくれる。ただ、再生に工業的なエネルギーが使われるため、それらもあまり出ないほうがいいのだが。
キッチンから出る生ゴミは、コンポスト箱で堆肥化して土にかえす。野菜くず、果物の皮、魚の骨、卵の殻、茶がら、コーヒーがら、庭の雑草、落ち葉、木工で出るおがくずなど、ほとんどの有機物は堆肥の材料になる。
堆肥とは有機物を発酵・分解させたものである。堆肥を土にすき込むと、その栄養分をエサとする微生物やミミズ、節足動物などの分解者が増え、その働きで作物の生育に適した土がつくられる。適度な水分と空気を含み、水はけがよく、手で触れるとふっくらとしてやわらかい土である。生物多様性も育まれ、肥料分を蓄える機能も高まる。農家や家庭菜園愛好家にとって堆肥は、作物を栽培するために欠かせない資材なのだ。
自然界では、木々の落ち葉や動物の亡きがらがゆっくりと分解されて堆肥になるが、コンポスト箱は、その自然のサイクルを人為的に管理し、堆肥化を早めるアイテムである。
コンポスト箱は、ポリバケツのようなものや室内で使える小型のものが市販されているが、一見して“生ゴミを処理しています”という感じがして、庭や畑に置く気になれない。それに、堆肥を作るためのコンポスト箱が土にかえらないプラスチックでできているというのが、どうにも好きになれない。
そこで、提案したいのがDIYで作る木製のコンポスト箱だ。
木製コンポスト箱のいいところは、見た目がスマートでしゃれていること。材料は無垢の木なので、庭に置いてあっても嫌な感じがしない。機能的にも優れており、水分が抜けやすく、通気性がいいので微生物の活動を妨げない。安価な材料で簡単に作れるのも魅力。DIY初心者でも大丈夫。最終的にはコンポスト箱自体も腐って、いずれは土にかえるというのも好ましい。
家庭のゴミ処理に適したコンパクトサイズ
今回作るコンポスト箱は、1辺約60センチ。小さな家庭菜園にはちょうどいいサイズで、住宅地の庭でも設置しやすい。コンパクトだが、一般家庭から出る生ゴミ程度なら毎日入れ続けても、まずいっぱいになることはない。もう少し容量が必要な場合は、同じものを2~3個作ってもいいし、単純に箱を大きくすれば、畑の雑草や野菜の残さ、落ち葉などを大量に投入できる。容量があるほど発酵も安定するので、堆肥化がスムーズに進むメリットもある。
コンポスト箱は底がない筒状で、余計な水分が抜けるようになっている。持ち上げれば中の堆肥を取り出すことができ、移動も簡単。微生物が苦手な紫外線と雨による水分過剰を防ぐためのふたもつける。ふたがあれば見た目もいいし、中身をカラスや小動物に荒らされる心配もない。
材料は、SPF(※)だ。SPF1×4で本体の壁を作り、ふたにはSPF1×6を使う。ホームセンターなら、大抵置いてあるメジャーな木材だ。安価だが耐久性はそれほど高くないので、4~5年を目安に傷んできたら作り直すといいだろう。ヒノキやウエスタンレッドシダー(ベイスギ)など、腐食に強い木材を使えばより長持ちする。ただし、価格は若干高め。
SPFとは北米原産の木材であるスプルース(Spruce/トウヒ)、パイン(Pine/マツ)、ファー(Fir/モミ)の総称で、それらのいずれかの樹種が使われているということ。安価で加工しやすく、ホームセンターでは最もメジャーな木材。通常SPFは、ツーバイフォー(2×4)といわれる規格材に用いられ、これは断面寸法が2インチ×4インチであることに由来する。ただし、実際の寸法は38ミリ×89ミリで、2インチ(50.8ミリ)×4インチ(101.6ミリ)とは若干異なる。ちなみに1×4は19ミリ×89ミリ、1×6は19ミリ×140ミリである。
木製コンポスト箱の作り方
材料
➀SPF1×4(19×89×600ミリ)24枚
②SPF1×6(19×140×620ミリ)5枚
③スギ角材(30×30×700ミリ)4本
④スギ角材(30×30×580ミリ)2本
⑤自然木 適宜
作り方
1.木材は必要なサイズにカットする。DIY初心者はホームセンターのカットサービスを利用する方法もある。
2.③スギ角材を平行に2本並べて、端の部分を➀SPF1×4でつなぐ。ビスは45㎜を使用する。
3.➀SPF1×4を全部で6枚張る。その際、板と板の間には約20㎜のすき間をあける。すき間は➀SPF1×4を縦に仮置きして間隔をそろえるとよい。同じものを2枚作る。
4.3で作った2枚のすのこスタイルの壁を平行に立てて、➀SPF1×4でつなぐ。
5.これでコンポスト箱の本体が完成。
6.次にふたを作る。②SPF1×6の両端に④スギ角材を写真の位置で仮止めする。
7.裏返して②SPF1×6を並べ、表から45㎜のビスを打って④スギ角材と固定する。なぜ、表からビスを打つのかというと、強度を出すためには取り付ける材の厚さ+20㎜以上の長さのビスが必要で、薄い材から打たないと強度を確保しにくいためだ。
8.②SPF1×6を5枚張り、木の枝で作った取っ手をつける。本体にふたをかぶせて完成。
堆肥のつくり方
有機物を堆肥化するには、微生物の活発な活動と増殖が欠かせない。そのために必要なのが、適度な水分と空気、そして微生物のエネルギー源やたんぱく源となる炭素や窒素だ。炭素を多く含む素材はわら、落ち葉、もみ殻、おがくずなど。これらは分解が遅い。一方、窒素が多く、分解が早いのは家畜ふん、ぬか類、草、野菜くずなどだ。
窒素分と炭素分をバランスよく投入する
堆肥づくりでは、分解の早い材料と遅い材料を混ぜてやるとよい。そこで、日常的に生ゴミや雑草を入れるなら、併せて落ち葉やわらなどを2週間から1カ月に1回、バケツ1杯くらいの量を入れてやると水分調整にもなり発酵がスムーズに進む。腐葉土でもよい。さらに米ぬかを加えると、微生物のエサとして即効性があり、発酵菌を増やす働きもある。米ぬかの量は一握りから二握り程度を上から振りかけてやればよい。
コンポスト箱は地面に直接置く。雨のあとに水たまりができたり、ぬかるんだりしない水はけのよい場所に置くこと。床材として、腐葉土、落ち葉、もみ殻などを10㎝くらいの厚さで入れる。米ぬかは一握りから二握りふりかける。
生ゴミや雑草を投入したら、そのたびに床材と混ぜ合わせる。最初は分解が緩慢だが、生ゴミや雑草を入れ続けると窒素分が増え、床材の炭素分とバランスがとれて発酵が進む。
堆肥化の過程で腐敗有機物を好むアメリカミズアブなどの虫が発生することもあるが、幼虫は優れた分解者で、堆肥化を急速に進めてくれるので、懸念する必要はない。カブトムシの幼虫も分解を助けてくれる。
気温が高い時期なら数カ月から半年程度で投入した有機物は完全に形が崩れて堆肥化する。そうしたら堆肥箱を持ち上げて、下のほうの出来上がった堆肥を取り出し、ふるいにかけて未分解の有機物を取り除いてから畑に施用する。未分解の有機物は、コンポスト箱に戻して堆肥化を進める。
一家に一台のコンポスト箱を!
このコンポスト箱では、農家の広い畑に施用できるほどの堆肥をつくることはできないが、毎日家庭から出る生ゴミを処理するにはちょうどいいサイズだし、小さな家庭菜園であれば十分な量の堆肥を得られる。
街の暮らしではゴミとして処理されることの多い生ゴミだが、コンポスト箱があれば寡黙で仕事熱心な分解者がせっせと堆肥化してくれる。これは何も驚嘆すべきことではない。地球ができて間もない頃からずっと繰り返されてきた完璧な循環システムなのだ。それを、工業的エネルギーを使って燃やして処理するほど無駄なことはない。
この時代、一家に一台必要なものといえば、どんな便利な家電よりも無数の微生物が宿るコンポスト箱ではないだろうか。