空き家を借りて活用するまでのロードマップ

まずは、空き家を見つけて家主に交渉し、実際に活用するまでの経緯について、筆者の経験をふまえ紹介します。長年放置されている空き家は、当然のことながら不動産屋で紹介・仲介してもらえるわけではないため、通常の家探しよりも時間がかかることは念頭に置いておきましょう。

借りたい空き家を探す

ネットやSNSが普及している現代では考えられないことかもしれませんが、空き家を探すためにまず取り組むことは、自分の足で候補地に赴き、借りたい家を探すことから始まります。自治体によっては空き家バンクがあり、移住関連の部署が遠隔でアドバイスをしてくれることもありますが、やはり現地に赴くほうが候補となる物件が見つかることが多いです。空き家バンクに掲載されている物件は一部であり、実際に地域の方と話す中で借りられる物件が見つかることもあるためです。

この段階では家の外観を見るだけになりますが、目視でわかる範囲で家の傷み具合などを確認します。

家主を探す

借りたい空き家が見つかれば、その持ち主が誰でどこに住んでいるのかを調べます。
その家の近所の人や、地域のことに精通した町内会長などに聞くと情報が得られることが多いです。

家主と交渉

家主が分かったら、家を貸してほしい旨を伝え、交渉します。家主と顔見知りであれば直接話をしてもいいですが、全く知らない場合は家主も警戒します。その場合は、家主・借り主両者を知っている人や、地域の顔のような人に同席してもらうと家主も安心します。

賃貸のための契約を結ぶ

家を借りられるとなった場合、賃貸契約を結びます。不動産業者がいる場合は仲介を依頼します。過疎地などで不動産業者が存在しない場合は、自ら契約書を作成せざるを得ません。不動産の賃貸において、仲介業務を対価を得て行う行為は不動産業者にしか許されていませんが、仲介業者を挟まないこと自体には法的な問題はありません。家主・借り主間の交渉が成立し、契約を取り交わせば賃貸は成立します。専門家でない者同士が契約を交わす場合は、必要事項を網羅した契約書を作成し、トラブルが起きないように注意をする必要があります。借りる家が老朽化し、改修の必要がある場合、その修繕費は家主・借り主のどちらが負担するのかなどもきちんと協議し契約書に明記しておくことが必要です。

改修を行う

「古民家」に分類される空き家の場合は老朽化により改修が必要な場合があります。
空き家を住居として活用するのか、リノベーションして事業に用いるのかによって、どこまで改修を加えるかは変わってきますが、下記を参考に、考慮すべき点を整理しましょう。

機能回復

家として最低限求められる機能の維持と回復を指します。屋根、床下、外壁、および梁や柱などの家の構造上重要となる箇所の補修がこれにあたります。

機能強化

古くて使い勝手の悪い家を、使いやすくするための改修を指します。ふすまと障子だけだった部分に壁や扉を取り付けたり、寒さ対策のため断熱を施したりする補修がこれにあたります。

美観快適性

必要不可欠とまではいいませんが、快適に使うために手掛けた方が良いと思われる作業で、外壁の塗装、壁紙貼り、洗面やトイレの設備を新しいものに変えるなどがこれにあたります。

空き家問題が、町に人を呼び込む資源に

近年は空き家を住居として活用するほか、古い家の造りや趣ある雰囲気を売りにして古民家カフェや宿として活用するケースも多く目にします。

空き家は地域社会の重要な課題の一つですが、うまく活用することによって交流人口の拡大など、地域に好影響をもたらす可能性もあります。
ここでは筆者自身が空き家を再生し、活用した実例を紹介します。

住民目線で暮らしを楽しむ「暮らしの宿 福のや、」

築65年の空き家を借り受け改修し2018年、1日1組限定の宿泊施設「暮らしの宿 福のや、」として営業を始めました。構造上重要な部分のみ地元の工務店に補修を依頼し、壁の塗装や床板張り、家具などについては仲間の力を借りてDIYで仕上げました。数年前まで空き家だった家が、今では観光ガイドブックに掲載され、国内外から宿泊客が訪れるようになりました。集落の中にある家のため、地域の人との交流もあり、町の暮らしが見えることから移住希望者が利用することもあります。

「農業」の魅力を発信する「大野岳の麓(ふもと) 茶や、」

築50年を超える空き家を借り受け改修し、2022年に1日1組限定の農泊施設「大野岳の麓 茶や、」として営業を始めました。前述の福のや、と同様、建物の基礎部分や重要な部分のみ地元の工務店に補修を依頼し、それ以外はDIYで仕上げました。

町の主要産業である「農業」の魅力を発信するため、滞在型の宿泊施設として活用。また、農産加工品を製造する加工スペースも設けています。

この他、筆者の暮らす町には空き家を再生しカフェをオープンしたり、また移住者の住居になったりなど、空き家を有効活用したケースが何件かあります。最初は貸すことにとまどいもあった家主も、自身の家が地域活性化につながる様子を目の当たりにし、他の空き家の持ち主にも、貸してみてはどうかと話をもちかけるまでになりました。地域の中に空き家活用の優良事例が数件出てきたら、貸してもいいという家主が増えてきます。空き家再生は借り主、貸主にとっても、そして地域にとってもいい活動といえます。

「空き家」は貸し渋られるケースも

「空き家」は文字通り、空いている家のことで、持ち主が使っていないのであれば、使わせてくれるだろうと考える借り主は多いでしょうしょう。筆者自身、長年空き家だから使わせてもらえるだろうと思い、家主に話を持ち掛けたことが何度もあります。

しかし、スムーズに交渉が進んだケースはほとんどなく、お断りされる理由もさまざまでした。なぜ、使っていない家を貸そうとしないのか? 貸主が貸すことに踏み切れない理由を紹介します。

いつか使うのではないかという迷い

今は使っていないけれど、将来的に使う日が来るかもしれないという思いで貸すことをちゅうちょする場合があります。家主本人だけではなく、家族や親戚がいる場合は、誰か使う時がくるのでは、と考えさらに貸すことをためらいます。

貸すことへの不安

大切な家をよく分からない、知らない人に貸したくないと思うのは当然のことかもしれません。借り主が近隣に迷惑をかけるような人だったらどうしよう、家を乱暴に扱う人だったら嫌だなと、不安に駆られ貸すことを思いとどまります。

周りからのイメージ

都会ではあまりない感覚かもしれませんが、地方では他人に家を貸すと「お金にこまっているではないか」という目で見られることもあります。そんな風に思われたくないという見栄をはり、貸さない場合もあります。

家財道具が入ったまま

住まなくなったけれど、家財道具はそのまま放置しているケースも多くあります。貸すとなると、家財道具の運び出しや処分をする必要が出てきて、それを面倒だと感じ貸すことをためらいます。空き家を不要品置きの倉庫として使う人も多くいます。

表面化しない権利の束

借り主からすると、貸主は一人に思えますが、一軒の家でも何人もの権利者が存在する場合があります。家主本人は貸してもいいけれど他の権利者が納得しないなどの場合、貸すことができないということになってしまいます。

相続出来ていない「登記」

権利者が大昔に亡くなった人のままで相続が出来ていないということもよくあります。貸してもいいけれど、まずは登記を現状に合わせた内容に改める必要があり、それは面倒だからやはり貸さないというケースも耳にします。

貸主側の事情に配慮し、交渉することが大切

これらの理由でお断りされるも、どうしてもあきらめきれない場合は、貸主側の事情や思いに寄り添って交渉を進めていくことが大切です。筆者の場合は、家財道具の処分が面倒だから貸さないという家主に提案し、家の中の荷物は借り主である筆者が処分しました。貸さない・貸せない理由をきちんと聞くと解決策が見えてくる場合もあります。

まとめ

本記事では空き家を見つけ、活用するまでのロードマップを紹介しました。空き家は借りるのも大変、改修も必要で面倒などマイナスに思える点もありますが、安く借りることができる、自分の思う通りにリノベーションすることができるなど、いい点も多くあります。空き家との出会いは一期一会です。活用するまでに苦労はあるかもしれませんが、手をかけた分だけ愛着がわきます。これから空き家を活用したいと考える方に本記事が参考になりましたら幸いです。