厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を発表したのは2018年のこと。それから5年あまり、副業を取り巻く環境はどう変化しているのだろうか。パーソルグループによる、副業に関するオンラインセミナーを取材した。

適材適所の副業が『スキル循環社会』を実現

パーソルグループは、転職支援や求人情報など人材サービスを展開する企業グループ。副業についても、着々と取り組みを進めてきたようだ。

セミナーは副業やフリーランスのプロ人材が持つスキルを活用・マッチングするサービス『HiPro(ハイプロ)』の事業責任者である鏑木陽二朗氏による取り組みの紹介から始まった。

「これまでの社会は、多くの人材が一つの企業だけに所属したことで、個人のスキルが固定化し、新しい流れが生まれにくい面がありました。これに対し、個人が持つスキルが様々な企業で柔軟に生かされ、磨かれることで、個人も企業も相乗的に成長を続けていく「スキル循環社会」の実現を目指しているのが『HiPro』です」(鏑木氏)

  • 出典:「『HiPro』パート メディア向け勉強会資料」

終身雇用制は長らく高度成長を支えてきた日本式経営の特徴のひとつだった。しかし、人材の流動性の低さがグローバル競争に後れを取る要因のひとつになったことは否めない。転職と並んで副業も、人材の流動性を高めることにつながる。

副業を考える人材の約6割が地方に興味

同グループの取り組みは『HiPro』だけに留まらない。2023年6月、スキル循環社会の実現に向けた施策として、『スキルリターンプロジェクト』を立ち上げ、鳥取、山形、福島、広島の4県で発表会を実施した。

「このプロジェクトは、主に都市部で専門的な経験を積み、地域に特別な想いを持つプロ人材と、人材獲得が深刻な地域の企業をつなぐ取り組みです。『HiPro』で昨年7月に実施した『地方でのはたらき方に関する実態調査』でも、約6割が地方の副業に興味ありという結果が出ています」(鏑木氏)

コロナ禍の影響もあって、リモートワークが一般的になってきた今日、働くのに距離の壁はなくなったということであろう。

重要なのは受け入れ企業の啓発と促進

今後、副業マーケットはどう推移していくのだろうか。この点についても、鏑木氏がこう指摘する。

「労働人口が減少している日本では、人材不足が継続し、企業にとって人材の確保が大きな課題であることは間違いありません。パーソル総合研究所の調査では、2030年には644万人が不足することが明らかになっています」(鏑木氏)

  • 出典:パーソル総合研究所『労働市場の未来推計2030』

転職が当たり前になってきたとはいえ、中小や地方の企業が新たに人材を採用するのは簡単なことではない。まして即戦力のスキルを持った人材となると、難易度が跳ね上がる。しかも、運よく採用できたとしても、長期に活躍の場を提供できるかが懸念される。

「これらの課題を解決する、雇用によらない新たな選択肢になるのが副業です。しかし、プロ人材への期待が高まる一方で、『HiPro』の現況は1案件に対し副業人材の登録数が9倍を超えています。プロ人材を受け入れる企業の啓発と促進が重要です」(鏑木氏)

企業に対する啓発が進めば、副業は社会の人手不足を軽減する施策のひとつになりそうだ。

個人の副業意向率と副業実施率で大きなギャップ

パーソル総合研究所では、『副業の実態・意識に関する定量調査』を2018年と2021年、2023年の3回実施した。セミナーの第2部では、同研究所の研究員 中俣良太氏から調査結果に基づく副業の現在地に関する報告があった。

「調査から見えてきたひとつは、個人の副業意向率と実施率に大きなギャップあることです。副業を行っていない正社員の副業意向は40.8%で2021年から0.8ポイントアップしているのに対し、実施率は7.0%で2021年からむしろ2.1ポイント低下しました」(中俣氏)

  • 出典:パーソル総合研究所「第三回副業の実態・意識に関する定量調査」

個人では副業したい気持ちはあっても、なかなか実行に移せない現状があるようだ。この原因がどこにあるのか。中俣氏は次のように分析した。

「大きな要因は受け皿の少なさにあると考えています。副業を容認している企業の割合は60.9%なのに対し、受け入れ率は24.4%で2021年からわずか0.2%のアップに留まっています」(中俣氏)

第1部でも指摘があったように、受け入れる企業の啓発が必要なことが裏付けられた調査結果だ。

副業の推進には3つの課題解決が必要

第2部では、副業の現在地だけでなく、より良い副業社会の実現に向けた考察も行われた。まずは現状の副業に関する3つの課題を挙げる。

「ひとつが副業求人における『応募控え意識の低減』、2つ目が副業開始時における『リアリティショックの抑制』、そして3つ目が副業中の『パフォーマンスの発揮』です。これらを解決するための施策も調査から明らかになっています」(中俣氏)

  • 出典:パーソル総合研究所「第三回副業の実態・意識に関する定量調査」

本取材を通して実感したのは、筆者の副業に対するイメージが180度変わったことだ。取材するまで副業に対しては、給与が上がらないことによる生活の糧といったものだった。しかし、副業は個人にとっても企業にとってもポジティブな影響をもたらす。

中俣氏は「これからの副業は、企業と個人がそれぞれ働きかけ合い、好循環をもたらす『歯車連動型』が肝要」と説く。

スキルに磨きをかけ、プロ人材として副業に取り組むことがトレンドになる時代が来るかもしれない。