インターネットイニシアティブ(IIJ)は5月10日、2023年度第4四半期/通期の決算と2024年度から3カ年の中期事業計画を発表し、これらについての説明会を開催した。説明会では、代表取締役 社長執行役員 Co-CEO&COOの勝栄二郎氏が概要について、取締役 専務執行役員 CFOの渡井昭久氏が詳細の説明を行った。

  • 勝栄二郎社長

    代表取締役 社長執行役員 Co-CEO&COOの勝栄二郎氏

通期業績は売上9.2%増、営業利益6.6%増

2023年度通期の業績は、売上が前期比9.2%増の2760.8億円。営業利益は同じく6.6%増の290.3億円。当期利益は5.2%増の198.3億円となっている。

  • 決算概要

    決算概要

領域別の実績を見ると、モバイルを除くネットワークサービス領域の売上が85.6億円増、モバイル領域の売上が38.6億円増で、営業利益も53.5億円増と全体に大きく寄与。システムインテグレーション領域も売上が108.8億円増と成長しているが、前年度に比べて伸び率の鈍化がみられ、営業利益も小幅な伸びにとどまった。その要因については、案件は活発であるものの、来期以降に売上計上となる大型案件が増えていることの影響があると説明。質疑応答で今後の事業環境の見通しを問われた際にも、大型案件が増えているという状況はIIJにとってはプラスになるという認識を示した。

  • 領域別の売上・営業利益の増減分析

    領域別の売上・営業利益の増減分析

ネットワークサービス領域の詳細では、法人向けインターネット接続サービス/個人向けインターネット接続サービス/アウトソーシングサービス/WANサービスのいずれも成長を継続。システムインテグレーション領域で案件を獲得するとそれがネットワークサービス領域の売上にもつながっているという。

  • ネットワークサービス領域の売上高推移

    ネットワークサービス領域の売上高推移

モバイル/IoT事業では、法人モバイルの好調に加えて個人向けも伸長

モバイル/IoTの事業状況については、法人モバイルが期を通じて強い成長を続けた。また個人向けサービスのIIJmioも第4四半期に3.6万回線の増加と好調で、ギガプランの回線数は100万回線を突破。決算詳細の説明を担当した渡井専務は「モバイル全体として非常にいい事業状況」という認識を示した。

質疑応答でその理由を問われた際には、勝社長は従来から継続しているキャンペーン施策に加え、2024年2月に提供を開始した「ギガプラン」の大容量プランが「思ったよりも好評」であること、自社ブランドおよびMVNEで提供している訪日外国人向けのプリペイドSIMの利用増を要因として挙げた。楽天モバイルがこの春各種キャンペーンを積極的に展開したことについては、大きな影響はなかったという。

  • モバイル・IoTの事業実績

    モバイル・IoTの事業実績

  • 「ギガプラン」の料金体系

    「ギガプラン」の料金体系。右側のプラン別内訳の円グラフは2024年3月末時点のものなので、3月1日に提供開始となった30ギガ以上の比率は小さい

なお、MVNO事業の原価に影響するNTTドコモへ支払うモバイルデータ接続料の2024年度の単価は、2024年3月に提示された金額が12,862円(Mbps帯域単価/月額)となっている。2023年3月の提示では、2023年度分が15,644円、2024年度分が13,084円となっており、低減の傾向が続いている。

  • モバイルデータ接続料の推移

    モバイルデータ接続料の推移

中長期ビジョンでは売上高5,000億円規模を目標

こういった2023年度通期決算を受けての中期事業計画では、既存コア領域の強化に加えて、新たな成長領域の創出として「データ駆動社会への取り組み」「デジタル通貨の国内普及実現」に取り組むことを掲げた。前者はデータ活用ビジネスの実践や有意義なデータの生成、データ流通の仕組み構築や運用等により、新たなビジネスの創出を目指すもの。後者は関連会社のディーカレットが担うもので、国内初の商用デジタル通貨の発行(2024年7月予定)に加え、デジタル契約のプラットフォームとなることで、2026年度の単月黒字化を目指すという。

これらにより、3カ年最終年度の2026年度の売上としては現在の約1.4倍の3,800億円を設定。さらに中長期ビジョンとして売上高5,000億円規模を目標にするという。

  • 新中期計画の概要

    2024年度~2026年度の新中期計画の概要

  • 中長期ビジョン

    新中期計画を踏まえた中長期ビジョン

「日本もITが国益に結びつくということにようやく気付いた」と鈴木会長

勝社長・渡井専務からの発表に続いて、代表取締役 会長執行役員 Co-CEOの鈴木幸一氏がマイクをとり、IIJの事業や日本国内のIT投資の現状についてコメントした。鈴木会長は日本のIT投資について、「インターネットが巨大な産業に成長するということについて、欧米ではあったコンセンサスが残念ながら日本にはなかった」と振り返りつつも、「最近の政府の投資を見ていて、けた違いに規模が大きくなってきている。日本もITが国益に結びつくということに30年遅れて気が付いたんじゃないか」と語った。

「若干遅すぎたんじゃないかという気はするんですけれども、ようやくこの1、2年で日本が取り組みだしたということで、IIJにとってもマーケットが広がるのでは」と期待を示したが、「日本の企業組織は大きな転換にすぐに対応できる文化がない」という懸念を示し、「この日本のカルチャーそのものを変える取り組みをいっしょにしていきたいので、よろしくお願いします」とメディアにも呼び掛けてコメントを締めくくった。

  • 鈴木会長

    代表取締役 会長執行役員 Co-CEOの鈴木幸一氏

鈴木会長は質疑応答で今後の事業環境の見通しを問われた際にも、「これまでとはスケールの違う案件が出てきている。そういう案件ははじまるまでは時間がかかるけれども、ネットワーク環境がぜんぶ変わっていく中で、IIJのポジションは非常にいいところにあると考えています。成長率も想定より高くなっていくんじゃないかと」と明るい見通しを示し、「企業経営者の意識も、そうやっていかないと世界からますます遅れていくというふうになってきたのでは」と付け加えていました。