• Dynabookのプレミアムモバイルラインナップ"R"シリーズのフラッグシップモデルとなる「dynabook R9/X」。発売は2024年4月下旬から順次で、量販店のオンライン価格は279,180円前後となっている

Dynabook社の「dynabook R9/X」(P1R9XPBL)は2024年2月14日に2024年春モデルとして発表された、14型ディスプレイを搭載したクラムシェルスタイルのノートPCだ。

Dynabookの中の人が「dynabookでRの称号が与えられるというのは名誉なこと」というほど、最上位シリーズの中でも「9」の背番号、いや、シリーズナンバーを背負うR9は、歴史あるdynabookの“旗艦”モデルとしてこれから君臨することになるだろう。

さらに、2024年春モデルとして登場したR9は、CPUにインテルの最新世代“Meteor Lake”ことCore Ultraプロセッサを搭載したことで、統合グラフィックスの処理能力が向上しただけでなく、近年関心が集まっているAI関連処理能力に滞納した演算ユニットも実装するなど、“これから”のモバイルノートPCのフラグシップモデルとしても期待が寄せられている。

CPUベンダーも、Dynabook社をはじめとするモバイルノートPCベンダーも、Core Ultraを採用したPCを「AI PC」と訴求しているところだ。多くの期待を一身に受けて登場したdynabook R9のモバイルノートPCとしての実力を検証していく。

鮮やかなブルーが印象的、R9の外観は従来モデルを継承

Dynabookのラインナップにおけるdynabook Rシリーズの“最上位”という立ち位置は不変だ。モバイル利用で重要な小型軽量と、実利用で重要な処理能力、ディスプレイをはじめとするマンマシンユーザーインタフェースサイズの“相反するトレードオフ”は、依然として高い次元でバランスが取れている。

モバイルノートPCの基本仕様となる本体サイズは幅312.4×奥行き224.0×厚さ15.9mmと従来のdynabook Rシリーズと変わらない。本体カラーもこれまでと同じく「ダークテックブルー」の一択だ。

  • ボディーカラーは深い青色が印象的なダークテックブルーを採用する

本体に搭載するインタフェースは、Thunderbolt 4(USB4 Type-C)×2基(電源コネクタ兼用)、USB 3.2(Gen1)Type-A×2基(1基はUSBパワーオフアンドチャージ機能に対応)、マイク入力/ヘッドホン出力端子のほかに、映像出力用としてHDMI出力端子、そして、日本のビジネス用途では依然として必須(しかし現実としてはもはやネットワーク対戦用)の高速有線LAN接続用としてRJ-45を用意する。

メディア用インタフェースとしてmicroSDスロットも載せている。無線接続インタフェースでは、Wi-Fi 6E(IEEE802.11ax)とBluetooth 5.3を利用できる。従来モデルではBluetoothが5.1準拠だったが、5.3準拠となったことで電力効率の向上や接続の安定性と信頼性の向上、LE Audio(Low Energy Audio)サポートによる低遅延、高音質、多機能な音声伝送が可能となる。

  • 左側面には、 HDMI出力にUSB 3.2 Gen1 Type-A、2基のThunderbolt 4(USB4 Type-C)を備える

  • 右側面には、マイク&ヘッドホンコンボ端子にUSB 3.2 Gen1 Type-A、有線LAN用RJ-45、microSDスロットを用意する

  • 正面

  • 背面

  • ACアダプタは右側面中央に位置するThunderbolt 4に接続する。標準付属のACアダプタのサイズは60×60×27mm。重さはコード込みで実測246グラム。出力は20Vで3.25Aだ

見た目より軽いが、MILスペック10項目をクリア

ディスプレイは従来のdynabook Rシリーズ同様に、1,920×1,200ドットの解像度を実現した14型サイズを採用する。映り込みが少ないノングレア処理を施しているほか、狭額ベゼルと細身のヒンジを用いるなど画面に集中できる工夫を施している。

  • 縦方向の見通しがよく、非光沢パネルで画面に集中できるディスプレイ

  • ディスプレイ上部に配置した有効画素数約92万画素のカメラ。その上部には周辺の声を集音しやすくした上側面マイクも搭載

  • ディスプレイの最大開度は180度。対面の人と画面を共有しやすい

キーピッチ19mm、キーストローク1.5mmを確保したキーボードもストレスなくタイプし続けられる。また、生成AIを活用した「Copilot in Windows」が呼び出せる「Copilot」キーをdynabookとしては初めて搭載した。キーボード右下、カーソルキーの左隣だ。

「Copilot」キーは、Microsoftが開発中の生成AI技術「Copilot in Windows」(執筆時点ではベータ版)を呼び出すための専用キーで、ユーザーがドキュメント作成やWebブラウザ、テレミーティングを行いながら「Copilot」キーを押すことで、状況に応じたAIの支援を受けられることを目指している。

  • 軽めタッチのキーボードには新たにCopilotキーが追加された(赤丸の部分)。タッチパッドのサイズは110×86mmと広いエリアを確保している

  • キーストロークは1.5mmを確保。タイプの感触が軽めなのはdynabookシリーズ共通

本体サイズと深い関係にある本体の重さは約1.05kgで、従来モデルのdynabook R9/Wと同等だ。

本体の重さとトレードオフになるのが、本体の堅牢性とバッテリー駆動時間。堅牢性に関しては従来モデルと同様にdynabook R9/Xはボディ素材にマグネシウム合金を採用し、MIL-STD-810Hの10項目(落下、粉塵、高度、高温、低温、温度変化、湿度、振動、衝撃、太陽光照射)をクリアしている。

一方、バッテリー駆動時間に関しては従来モデルから大幅に向上している。JEITAバッテリー動作時間測定法Ver.3.0で約11時間(動画再生時)、約27時間(アイドル時)、JEITAバッテリー動作時間測定法Ver.2.0で約35.0時間を実現したとしており、これは従来モデルのR9/Wと比べて約10~14%の改善(JEITAバッテリー動作時間測定法Ver.3.0において)となる。

搭載CPUはCore Ultra 7 155H、本体構成をチェック

dynabook R9/Xの最大の特徴は、最新のCore Ultraプロセッサを搭載したことだ。

今回採用されたのは「Core Ultra 7 プロセッサ 155H」で、他のdynabook Rシリーズの採用CPUと同様にTDP(Processor Base Power)は28W、処理能力優先のPerformance-cores(Pコア)を6基、省電力を重視したEfficient-cores(Eコア)を8基組み込んでいるほか、低消費電力 Efficient-core(LPEコア)を2基備えている。Pコアはハイパースレッディングに対応しているので、CPU全体としては16コア22スレッドだ。

スマートキャッシュの容量は24MBで、動作クロックがP-coreでベース1.4GHzのMax Turbo Frequency4.8GHz、E-coreでベース900MHzのMax Turbo Frequency3.8GHz、LP Eコアでベース700MHzとなる。

Core Ultraに統合された「Intel ARC Graphics」は、ゲーミング向けの「Xe-HPG」をベースに開発された新しいアーキテクチャ「Xe-LPG」を採用する。8基の「Xeコア」を組み込み(演算実行ユニットでいうと従来の96基から128基)、従来のIntel Iris Xe Graphicsと比べて最大2倍の性能を発揮するとされている。さらに、レイトレーシング演算用ユニットを実装するなど、従来のIntel Iris Xe Graphicsから大きく進化した。

さらに、独立したAI専用エンジン(NPU)として「Intel AI Boost」を実装しており、AI処理に関するスピードを高速かつ高い電力効率で実行できるのも特徴だ。Core Ultraを採用するPCをIntelやPCメーカー各社は「AI PC」という“ブランド”として訴求するなど、市場規模の拡大(それはとりもなおさず新規ユーザーの取り込み)に期待を寄せている。

なお、CPU以外でdynabook R9/Xに実装された処理能力に影響するシステム構成を見ていくと、システムメモリはLPDDR5X-6400を32GB搭載。ストレージは512GB SSD(PCIe 4.0対応)だ。LPDDR5X-6400は、データ転送速度が最大6400Mbpsに達し、従来モデルが採用していたLPDDR5-4800の4800Mbpsから33%以上速くなった。加えて、低消費電力化も進んでいるのでバッテリー駆動時間の延長にも寄与すると考えられる。

同様に、ストレージで対応したPCIe 4.0も、データ転送速度が最大16GT/sと従来のPCIe 3.0と比べて2倍となる。さらに、CPUとのデータ転送におけるレイテンシも短縮するため、システム全体のレスポンス向上も期待できる。

旗艦モデルの実力は? ベンチマーク結果は順当な進化

Core Ultra 7 プロセッサ 155Hを搭載したdynabook R9/Xの処理能力を検証するため、ベンチマークテストを実施した。なお、比較対象としてCPUにCore i7-1360Pを搭載し、ディスプレイ解像度が1,920×1,080ドット、システムメモリがLPDDR5-4800 16GB、ストレージがSSD 512GB(PCI Express 3.0 x4接続)のノートPC(要はdynabook X CHANGER)で測定したスコアを併記する。

  • CPU-ZでCore Ultra 7 プロセッサ 155Hの仕様情報を確認

  • GPU-ZでCPUに統合されたIntel ARC Graphicsの仕様情報を確認

ベンチマークテスト dynabook R9/X 比較対象ノートPC
PCMark 10 6372 5487
PCMark 10 Essential 9789 9988
PCMark 10 Productivity 8531 6293
PCMark 10 Digital Content Creation 8410 7132
CINEBENCH2024 CPU Multi 629
CINEBENCH2024 CPU Single 99
CrystalDiskMark 8.0.5 x64 Seq1M Q8T1 Read 6731.44 6791.71
CrystalDiskMark 8.0.5 x64 Seq1M Q8T1 Write 4770.71 4899.35
3DMark Time Spy 3652 1968
3DMark Night Raid 25580 19104
FFXIV:黄金のレガシー(最高品質) 4007
FFXIV:黄金のレガシー(高品質ノートPC) 7882

第13世代のCore i7 TDP28Wモデルを搭載した比較対象ノートPCと比べ、Core Ultraプロセッサを採用したdynabook R9/Xが全体的に上回る結果となった。特に、3DMarkなどのグラフィックス性能で大きな差が見られた。これは、Intel ARC Graphicsの描画性能がアーキテクチャの進化によって強化されたことを如実に示したものといえるだろう。

なお、ストレージの転送レートを測定するCrystalDiskMarkに関してはスコアがほぼ同等(むしろわずかながら数値は低い)だが、これは比較対象も評価機材も搭載するSSDがサムスン電子ラインアップの同等モデルということがインタフェース規格より大きく影響しているためといえる。

また、Core Ultraプロセッサの搭載により、バッテリー駆動時間が従来モデルと比べて約10~14%改善したとされているが、バッテリー駆動時間を評価するPCMark 10 Battery Life Benchmarkで測定したところ、Modern Officeのスコアは15時間2分(Performance 5634)となった。ディスプレイ輝度は10段階の下から6レベル、電源プランはパフォーマンス寄りのバランスに、それぞれ設定している。なお、PCMark 10のSystem informationで検出した内蔵するバッテリーの容量は64988mAhだった。

  • 底面には奥側に広範囲に吸気用スリットを設けている

  • ヒンジ奥に排気スリットを設けており、ディスプレイを開いた状態でパネルに沿って排熱されていく

生成AIをローカルで活用できる日は近いかもしれない

ここまでの検証でdynabook R9/Xは、現代の汎用モバイルノートPCとして旗艦モデルに相応しい実力を有していることはわかった。

だが、インテルやDynabook社が訴求する、そしてユーザーが求める「AI PC」としての実力はどうか。現時点において、多くのユーザーが生成AIの利活用に対して関心を持ちつつある。しかしその演算処理の多くはクラウド上で実行されており、ローカルで実行するAI処理は高度な画像生成を求めるユーザーを除くと限定的だ。

その画像生成AIの分野では、強力なグラフィックス処理能力を必須とするため“高価すぎる”ハイエンドGPUを用意できない多くのユーザーはクラウドGPUサービスを利用するのが主流となっている。しかし、ユーザー増加に伴う処理時間の長期化やサービス料金の上昇により、ローカル指向の動きも見られるという。

これはChatGPTやClaudeでも似たような話がある。Web検索に対応したChatGPTは、当初Webを検索した結果を反映した“丁寧な”提案をしていたが、最近では、URLのリンクを回答するだけで、あとはユーザーにアクセスして自分で調べるように促してくる。Claude(Anthropic社が開発した生成AI)も最近では思考が浅くなったような感触があるし、提案の内容に“口から出まかせ”的な間違い(いわゆるハルシネーション)が多くなってきたような感触がある。

このような変化を感じていると、生成AI利用にローカル指向の流れが早晩来るのではないかと思わずにはいられない。心もとない心証が根拠でレビュー記事のまとめとしてはどうよ、と私自身も思わなくもないが、それでも世間で言われているほどにAI PCが絵に描いた餅とは言えないのではないだろうか、とdynabook R9/Xを使いながら考えたのは事実だったりする。