あまりにシンプルなところが、むしろ好印象? ボルボEX30に乗ってわかったこと

EV(BEV)に対する評価が世界的に揺らぎつつある。CO2排出削減の切り札とされるも、製造から廃車までのライフサイクルを通して考えると、本当にエコな存在といえるかは疑問符が付く。利便性という点でも、依然として充電時間の長さや航続距離の短さという懸念材料が払拭されたとは言いがたい。

【画像】クールな外観、シンプルすぎるインテリア。まさにシンプルイズベストを地で行くボルボEX30(写真11点)

こういった懸念点は危惧して、日本の自動車メーカーの多くは当初からマルチパスウェイ(カーボンフリー技術を複数の経路で模索する方針)を指向していた。法的(ないしは政治的)に時限を切ってEVの普及を推し進めるとう強引な手法は、どだい無理な話だった。

さりとて、EVを全面的に否定する材料もない。車好きの人たち(特にクラシカルな)にとって懐古的なエンジンサウンドやオイルの香りと対極的な存在であるEVは、関心を払いにくい物体であることは理解できるが、マルチパスウェイの一翼にEVを組み込んでいない自動車メーカーなど皆無だし、1日数時間の近距離移動という使用方法に限定すれば、EVは依然としてもっとも有効な選択肢の1つだ。

個人的には、騒音と振動と排ガスから隔絶した未来を約束するEVは、まさに夢の乗り物だと考えていた。生家の近隣を走る国道1号は、田舎であるのに重工業地帯のような空気の悪さと、夜間に甲高い音を立ててかっ飛ばす暴走車を毎日生み出す。大型車がわずかに乱暴な運転をするだけで、一級河川の堤防から500mという地盤の悪さも手伝って、日常的に震度1~2程度の地震が起こる。

有鉛ガソリンが禁止され、三元触媒が普及し、石原慎太郎がディーゼル車を追い出して、日本の空気は随分ときれいになった。それでもなお、東京東部の幹線道路沿いに立つ集合住宅に住んでいると、屋外に洗濯物を干すことを躊躇ってしまう。トータルのCO2排出量の重要性は重々承知しつつも、個人的には目先の排ガスをなんとかして欲しいという思いが強い。

現実的な解決策は、休日にドライブを楽しむ乗り物としての内燃機関車は否定せず、平日の通勤・通学や日常の買い物などはEVを筆頭とした環境対応車に切り替えるという分離策だろう。これがなかなか進まないのは、2台所有が難しいという一般家庭の金銭的な事情が大きいだろうが、日常のアシだって運転する楽しさをスポイルされたくないという心情も影響しているように感じる。

つまり、魅力あるEVが少なかったことも原因の1つではないだろうか。一部のEV専業メーカーを除けば、これまでEVのために専用設計されたモデルは少なかった。内燃機関車などをベースとした「既存モデルのEV版」は、熟成された機能を安心して使用できるという恩恵を受けられる一方で、EVならではの独創的なデザインや装備を試すことは難しかった。

ようやく本題に移るが、ボルボ「EX30」はEV専用のプラットフォームを使用したブランニューモデルだ。EV化の波がいったん弱まりつつある昨今において、ボルボは2030年に新車を全てEV化するという姿勢を崩していない。ハイブリッドやPHEVを含む「電動化」ではなく、真っ先に「EV化」を宣言し、堅持していることから、他の欧州メーカーとは明らかに異なる姿勢でEV化に取り組んでいることがはっきりとわかる。

まずプロポーションからして、既存モデルと似ていない。グリルレスでフラットな(のっぺりした?)フロントマスクでありながら、シャープさを感じる独特のルックスは実にユニーク。エンジンを持たないためノーズが短いのも特徴だ。

実際に乗り込もうとすると、いろいろ戸惑う部分が多い。まずキーは近づけば自動でロックが解除される仕組み。シートに腰を下ろしても、イグニッションどころかスタートボタンもない。シートベルトをして、ブレーキペダルを踏みながらシフトをDに入れれば発進する。求められる動作があまりにも少なすぎて戸惑ったが、何度か乗り降りして慣れてくると快適に感じてきた。

シンプルなのはインテリアも同じ。ハンドルとウィンカーなどのレバー、アクセルとブレーキのペダルは存在するものの、それ以外は極力省略するという強い意志を感じる。スピードメーターは、センターのタブレットのようなディスプレイ上部に小さく表示される。エアコンやサイドミラーの調整、走行モードの切り替えなどの作業も、このディスプレイに集約されているのだ。

辛うじて残されたのが、センターの肘掛け前に移されたウィンドウの開閉スイッチ(これもフロントとリアをボタンで切り替える集約型だ)とパワーシートの操作ボタン(同様にシンプルな形状になっている)、エアコンの吹き出し口とダッシュボード奥のサウンドバー。物理的なスイッチを極限まで減らす取り組みの結果だ。

シンプルすぎるともいえるインテリアの背景には、脱炭素の取り組みがある。特にドアの内側からスイッチ類やスピーカーを除いたことは、もちろんコストダウンという狙いもあるのだろうが、廃車時のリサイクルを容易にし、環境負荷を与えないための取り組みであるという。

リサイクル素材は最大限に活用されている。アルミニウムの25%、スチールの17%、プラスチックの17%がリサイクル素材であるほか、シートにはウール混紡素材や再生可能繊維の亜麻が、パネルには再生プラスチックが、フロアマットは廃棄された魚網が素材として使用されている。加飾を排除してもプレミアムな質感を実現できることを志向したデザインは、まさにシンプルイズベストだ。

運転した感覚は、これまでに乗ったEVの中でもっとも好印象だった。全長4235×全幅1835mmというサイズは、日本の道路事情に合ったほどよいサイズ。日本サイドが本社に掛け合って実現したという、一般的な立体駐車場にギリギリ収まる1550mmの全高も、都市部に住むユーザーのことを考えると慧眼だと思う。

WLTCモードで560kmという大容量69kWhのバッテリーを搭載しているので、車両重量は1790kgとEVにしては軽めという程度なのだが、走ってみるとすこぶる素軽く感じる。強烈なトルクで強引に加速するのではなく、ボディ全体が軽いような感覚なのだ。アクセルワークを多少雑にしてもガバッと踏み込まない絶妙な味付けも好感が持てる。

ハンドリングもナチュラルで、軽快な身のこなしを見せてくれる。とりわけ印象的だったのが乗り心地の良さだ。1000万円超のEVと比較すれば劣るだろうが、この価格帯としては実にしなやかで、首都高速のギャップや路面の段差を乗り越えても、穏やかさを失わない。シートの性能を含め、全体的に乗り手の要望を十分に尊重しつつ、疲れさせないパッケージに仕上がっている。

レクチャーを受けなければ発進すら難しい操作系は、レンタカーやカーシェアには間違いなく不向きだ。だが、あまりにシンプルな内装の質感や、初見殺しの操作性の問題は、意図的に設計されたことが明確に伝わってくるし、その意図を汲むユーザーをターゲットとしていることが十分にわかる。

リサイクル素材の活用を前提とし、廃車時の環境負荷まで考慮したという設計理念からは、ユーザーのインテリジェンスが大きく試される印象を受けた。そもそもEVが根源的に持つ充電時間・航続距離の問題は、対象となるユーザーを大きく絞り込んでいるわけだが、さらにEV30は選ばれたターゲット層へと真っ正面から問いかける車といえそうだ。

そんな中、どうしても納得がいかないのがオーディオだ。EX30にはharman/kardonのシステムが標準装備され、ダッシュボードのサウンドバーなど9つのスピーカーが配されている。センターディスプレイで設定をあれこれいじってみたのだが、どうにも納得のいく音にはならないのだ。特に不満なのが低音で、ソリッドな音がリバーブがかかったように曖昧になってしまう。エレキベースとウッドベース、バスドラムとティンパニーの区別がつかないほどだ。

マルチウェイスピーカーの下部にウーハーが取り付けられるのは正当な理由があるからであって、ドアパネルからスピーカーを排除した弊害は大きかったのではないかと思う。さらにはサウンドバーからの音が強すぎるのか、運転席で聴いていると音がすべて左前方から聞こえる。一方から音がするということは(サラウンド感どころか)ステレオ感が低く、まるでモノラルで音楽を聴いているような感覚がする。

これらはサウンドバーがもともと抱える性質そのものだ。弊害は承知の上で割り切ったのかもしれないが、この音質ではharman/kardonというブランドのイメージを毀損するのではないだろうか。そして他の車種と同様にGoogleが採用されているインフォテインメントシステムは、iPhoneユーザーとの相性が決してよろしくはない点も指摘しておきたい(個人的にはAndroidユーザーなので影響はなかったのだが)。EX30に興味を持つ限られたユーザーが、このあたりを疎かにして黙っているとは思えないのだ。

文:渡瀬基樹 Words: Motoki WATASE