粗品が語る「アンチ現代音楽」の真意、初アルバムに込めた2つの大義

霜降り明星・粗品の1stアルバム『星彩と大義のアリア』が4月17日にリリースされた。今作は、粗品がヴォーカル・ギター、藤本ひかり(ex. 赤い公園)がベース、岸波藍(ex. セプテンバーミー)がドラムを担当。全12曲すべてを粗品が作詞作曲をしており、飾らない言葉、真っ直ぐな歌声、骨太なロックンロール・サウンドという、とにかく潔さと清々しさを感じる1枚となっている。彼は何を思い、今作を完成させたのか? 音楽を通して粗品が訴えたいこととは一体?

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─1stフルアルバム『星彩と大義のアリア』に関して、まずは作品のテーマを教えてください。

粗品:テーマは2つありまして、1つは自分の”大義”を表現しています。

──大義というのは?

粗品:結構ね、僕は悪く言われることも多いんですよ。「あいつ生意気やな」「なんでこうせーへんねん」って言われるんですけど、僕は自分が間違っていると思ったことが一度もなくて。自分の中に芯があって、ちゃんと考えた上でその行動に至ってる。なので、何か言われたら説明できることだらけなんですね。その姿勢がブレたことはないんですよ。これが僕の中での大義なんです。その大義を表現して、いうたら”復讐”だとか”攻撃”という側面がある。もう1つのテーマは、”より多くの人を救いたい”という気持ちがあって。できるだけいろんな人に刺さるように、「この曲は学生に向けて」とか「これは社会人に向けて」と曲ごとにターゲットを変えながら、このアルバムを通して一曲でも生きるのがしんどい人に刺さればいいなと思った。その2つでできているのがこのアルバムです。

─構想自体はいつからお考えになっていました?

粗品:割と最近ですね。そういうコンセプトとかをまとめ出したのは、作詞のフェーズに入ってからです。

─今回はスリーピースのバンド形態ですけど、そこにはどんな思いが?

粗品:僕が常々言っているのが「アンチ現代音楽だ」と。最近複雑になっているトラック数の多いおしゃれで小粋な音楽ではなく、自分が憧れてきたコードも歌詞もシンプルとか、誰でも真似しやすくてとっつき易い音楽を表現したくて、スリーピースにこだわりましたね。

―バンドメンバーである、ベースの藤本ひかりさん(ex. 赤い公園)、ドラムの岸波藍さん(ex. SEPTEMBER ME)とは以前から交流があったんですか?

粗品:岸波藍は、僕が作ったVOCALOIDの曲を好きでいてくれたのもあり、ちょいちょい面識はありましたね。彼女の演奏を見たことがあって、いいなと思っていて。藤本ひかりとは面識がなかったんですけど、岸波藍と交流があったり2人は同郷だったり、もちろん僕も赤い公園は知っていたので、2人にサポートしてもらえたら素敵やなと思ってご一緒することになりましたね。

─アルバムをお聴きした時に、がなるような感じのストレートな歌い方が印象的でした。ファルセットを含め、いろいろ歌い方の選択肢はあったと思うんですよね。

粗品:ファルセットとか綺麗な声は、まだいいかなって思いましたね。何て言い方をしたらいいかな? 自分にとってはシャバいというか。別にほかのアーティストの方がファルセットで綺麗に歌うのは全然いいし、素晴らしいと思うんですけど、今僕がそれをやるのはシャバいかなと。あと、単純に声が小さなるじゃないですか? 今回の曲はすべて大きい声で歌いたかったんです。なので、わりとストレートな声とか、がなり声を織り混ぜて歌いましたね。

─では収録曲について、既に発表されている楽曲の話から聞かせください(※インタビューは3月中旬に実施)。「宙ぶらりん」は、曲を作ってから発表するまでに1年ほど温めていたそうですね。

粗品:あ、そうでした! あくまでメロディだけ、ですけどね。確かに曲の構成自体は1年前にできていましたね。

─もともとアルバム一発目に解禁する曲として準備をしていたのでしょうか。

粗品:そうですね。粗品初歌唱楽曲として「こういうのを歌っていくよ」と皆さんに見せしめる意味もあって選びましたね。

─そもそも「宙ぶらりん」が生まれたはきっかけは?

粗品:まず、ああいう曲構成に憧れていたのがあるんですね。最初にギターと歌だけで始まり、ドラムとベースが入っていって、Aメロとサビだけという……言ったらブルーハーツの「リンダリンダ」なんですけど。まあ「リンダリンダ」はね、サビじゃなくて「ドブネズミにみたいに〜」って最初にAメロをアカペラで歌っているんですけど、あれに似た構成はやっぱり憧れますね。あと、最近は言いたいことをだんだん言えなくなってきて。僕は結構言うてる方なんですけど、そんな僕でも仕事していて思うんですよ。だからこそ「こいつ腹立つな」とか「こいつキモいねん」っていうことを、遠慮なく歌に乗せたいなと思ったのがきっかけですね。

─この曲は「こいつにはなりたくない」とか「こういう人間が嫌いだ」という反発心が強い印象がありまして。

粗品:うん、そうですね。自分のステータスとかポジションで思う「あの先輩キモいな」ということやから、最初はあんまり共感してもらえないんかなと思って作ったんです。でも、お客さん(リスナー)の反響を見ると意外に共感してもらえてて。特に嬉しかったのは、40代くらいのめっちゃ年上の人から「『宙ぶらりん』に触発されて会社を辞めてきました」というDMが来て。年上も焚きつけられたかと思って、めっちゃ嬉しかったです。

─この曲を聴いていると粗品さんに「お前はこうなってくれるなよ」って言われてるような気持ちになって、思わず背筋が伸びるんですよね。

粗品:はいはい! 確かにそういうことですよね。「背筋が伸びた」って近しい人にも言われましたね。「ああ思われへんようにするわ」って。どっちでもいいんですけどね。茨の道というか修羅なんで、僕が歩んでいるのは。いわば”激尖り道”ですよ。「背筋が伸びた、ああならんようにしよう」と思ってくる方もすごいし、逆に「粗品はこうやけど、俺は自分の尺度で頑張ろう」とか「へー、こんな考え方の奴もおんねや」という楽しみ方でもいいと思って作りましたね。

─ほかの楽曲も然りですけど、特に「宙ぶらりん」は粗品さんの強者感をすごく感じるんですんですね。

粗品:あぁ、はいはいはい(笑)。

─この強靭なメンタルはどこで培われたのかが気になるんですよね。

粗品:それは結果と実績ですね。お笑いという世界に身を置いて、僕はあまりに成し遂げてしまい過ぎたので。まあ、それはちょっと上から物言わしてもらうよっていう。大口を叩くに足る実績がついてきてしまっている、ということですね。自信満々やしっていう。

─実績を作る前から、粗品さんはブレない強さを持っている気がするんですよね。

粗品:ハハハ、どうなんですかね? 確かに、若い頃から僕はこの感じなので、結果は後からついてきたって感じなんでしょうけど。だからこそ、このタイミングでのリリースなんですよね。「M−1グランプリ」で優勝する前に、こんな曲を出しても「何言うてんねん、こいつ」と思われるだけなんで。ある程度は黙らせられるようなすごいことをいっぱいしてから出したかったんですよね、この曲を。だからタイミングはバッチリでした。

─「サルバトルサーガ」はどういうきっかけで生まれたのでしょう?

粗品:メロディ自体は「宙ぶらりん」と同じタイミングにできていて、最初は恋愛の歌詞やったんですよ。想いを馳せる異性への甘い言葉を歌っていたんですけど、アルバムに入れるとなった時に、恋愛の曲もいいとは思うんですけど、もっと伝えたいことがあるなって。みんなが「生きてるだけで偉い」って言われてなさ過ぎるな、と思ってこういう歌詞になりました。

─聞いてみたいフレーズがあるんですけど、<間違ってなかったんだ 虹を無視した日も>にはどんな思いを込めているんですか。

粗品:これは自分のことなんですけど、虹がかかったときに、みんながパシャパシャ写真を撮ったりとか指差したりして見惚れてる間に、自分だけはずっと無視していたんですよね。これは例え話なんですけど、いうたらほんまにキモい奴らが、そういうのに群がって「ウエーイ」とか言って時間を無駄にしてる間、自分だけは努力して頑張ってきた。だけど虹を無視してると、周りから後ろ指を刺されるんですよ。「あいつも虹を見たいくせに。カッコつけてるだけやろ」と言われる。まさに今、僕と同じような状況の人達に「そのままで大丈夫やで」って言いたくて書きました。俺は間違ってなかったからって。

─粗品さんの音楽って、はぐれものに対して優しいですよね。権力者やマジョリティ側の人間に刃を向ける強い姿勢を持ちながら、生きることに対して葛藤し、もがいている人への優しさを送っている気がして。

粗品:ありがとうございます。うん、責めるところは責める。ただ、この曲で歌っている「生きてて偉い」に繋がるんですけど、どっちかっていうと「宙ぶらりん」で怪我した奴らが「死にたいです」と言ったら、俺は「サルバドルサーガ」で救いたい気持ちはあります。どっちかっていうと、優しさが多めのアルバムになっていますね。

─ちょっと話が飛ぶんですけど、初期の頃に発表された「#みどりの唄」(2020年)という曲がありますよね。ある日、高校生だった”みどりちゃん”という女の子から「学校でいじめられています」というDMが粗品さんのインスタに届いて、それをきっかけに曲を作ったと。

粗品:はいはい、そうですね。

―その後、YouTubeでみどりちゃんに会いに行った動画を見てビックリしたんですよ。DMでいじめの相談を受けていただけじゃなくて、第三者委員会に動いてもらうために、いじめの証拠を押さえる方法を一緒に考えるとか、みどりちゃんのご家族と電話をして、自分が教室に乗り込んでフリップ芸で笑いをとった後に「俺、みどりちゃんの友達です」っていえば人気者になれるかもしれないと提案されたこともあったそうですね。

粗品:よく知ってくださってますね。そうそう、ありましたね。

―しかも、カメラが回っていたわけじゃなくて、プライベートで相談に乗られていたじゃないですか。僕ね「どうしてそこまで優しくできるの?」と思ったんですよ。粗品さんの優しさの源流は何なんだろうって。

粗品:振り返ると両親の影響が大きいですかね。母ちゃんは慈善活動じゃないけど、そういうのにめっちゃ興味のあるいい人で。父ちゃんもめっちゃ優しい人やって。この2人の間に生まれて、俺はどんな人間なんやろうと思っていたんですけど。霜降り明星の粗品という世間で売れた人間が、ちょっとファンに優しくするだけで、「大丈夫やで」ってちょっと言ってあげるだけで、その子の人生が変わるぐらいの「粗品のおかげで、めっちゃ救われた」っていうのを経験したときに、コスパいいなと思ったんですよ。俺は「大丈夫やで」と一言いっただけやのに「めっちゃ元気でました」と言ってくれる。これをみんながしてなさ過ぎるなって。芸能人はこれをもっとやったらいいよ、って思ったんですね。そういう精神からインスタでもやり取りをしますし、僕ね一般の方の友達が何人もいるんですよ。あとは、血の繋がっていない兄弟もめちゃくちゃいるんですね。そういう悩み相談されて「こうやで」って言うし、ライブに招待したり、自分なりにできることしていたんです。だけどお笑いには限界があるんで、音楽という形でもっと救いの気持ちを発信できて、今は大変満足してますね。

─お笑いに限界があるっていうのは?

粗品:笑わせられるんですけど、感動させるのが難しいっていう。それがお笑いはネックで、だからお笑いなんですけど。笑わすってもちろんいいことやし、癌患者が「めっちゃ笑うことで治りました」というケースもあるんやろうけど、音楽の方が精神面で支えられるかなって。曲を聴いて感動して勇気をもらうとかね。お笑いで勇気ってあんまりもらわないじゃないですか? 

─確かに、そうですね。

粗品:まあ嫌なことは忘れられるんですけど、ちょっと役割が違うかなって。もっと言うと、動員人数もお笑いより音楽の方がすごいし、あと世界共通でもあるから、音楽の方が僕のやりたいことに近いかなと思ってます。

─先ほど「救いたい」とか「偉いって言ってもらわれてなさすぎる」という話がありましたけど、「オーディンの騎行」「絶対大丈夫の歌」でも悩みを抱えている人に対して温かい言葉を送っていますよね。粗品さんが歌う先には、どんな人が見えているんですか。

粗品:僕、ファンの人とかなりコミュニケーションを取ってる方なんですよ。DMもそうですけど、スーパーチャットで太客と投げ銭芸をやっている中で、顔も見たことないし名前も知らない人の身の上話をよく聞くんです。そういう人たちのことを思い浮かべますね。だから「日本中にそういう人がいっぱいおるんやろうな」とか、自分より不幸な人も死ぬほどおる。あと、僕は虫を見たら反射的に叫んでしまうんですよ。嫌い過ぎて「うわー!」って。そういうリアルな体の拒絶反応と一緒で、僕は「死にたい」って言葉にめっちゃ敏感なんです。どんな人でも「死にたい」とか「今から死にます」って言われると、いても立ってもいられなくなる性分なんですね。どうでもいいって思えなくなるんですよ。「”死にたい”ってこいつが言ってるのを知ってもうたしな」みたいな。そういう人のことを思って、できるだけ優しい言葉でとか、そういう曲が増えているんやと思います。

─でも今って「死にたい」って言葉を見る場面が多い気がするんですよね。僕なんかはX(Twitter)で「死にたい」ってポストしているのを見ても、「まあ、そうは言ってるけど」と思っちゃうんです。

粗品:うんうん、そうっすよね。手軽に書き込めますしね。

─粗品さんが過敏に反応を示すのってどうして?

粗品:たとえ1%でも、ほんまに死んだらどうしようって思ってるからですね。「死ぬ気ないやろな、こいつ」とか分かるし、冷やかしで「粗品からレスをもらいたくて『死にたいです』と言ってみよう」という奴も山ほどいると思うんです。そうやとしても、優しくしたいなって。そういう人にも自分が優しくしない理由ないかなって、そういうマインドで全部動いてますね。

─実際、「宙ぶらりん」「サルバトルサーガ」のYouTubeのコメント欄を見ると「救われた」という書き込みが本当に多いですよね。

粗品:うんうん、「サルバトルサーガ」とか確かにそうでしたね。僕もこんなに届くんかって嬉しかったですね。真っ直ぐというか、あまり飾らない言葉で作詞したのが、いい方に皆さん受け取っていただいて本当によかったです。めっちゃよかった。

─一方で「宙ぶらりん」や「風炎デージー」は特にそうなんですけど、みんなと一緒にいるよりかは主人公が1人ぼっちな感じがしたんですよね。それは粗品さんご自身の心境が投影されているのかなって。

粗品:まさに「宙ぶらりん」は自分過ぎる曲で、僕はずっと1人やったし、誰にも理解されへんけど自分が一番と思ってる奴で。「風炎デージー」も1人なんですけど、僕というよりも誰を救いたいのかっていうと、やっぱり友達がおらん奴とか、充実していない奴なんです。しんどい奴に届けたいなと思ったら、自ずと孤立してるような奴を想像して書いた曲になりましたね。

─そこに目が行くのが不思議なんですよね。粗品さん自身はマジョリティの中で天下を取った人じゃないですか。それでもマイノリティの人達にも意識が向いてるのは素晴らしいと思う反面、その視点を持てているのはどうしてなのかなと。

粗品:我ながらバランス感覚のセンスはあると思いますね。もともとマイノリティ出身で「マジョリティもできますけど。余裕ですよ」っていうスタイルなんで、どっちの気持ちも分かるし、「この時はこっちにいた方が得やな」っていうのはセンスで分かっちゃいますね。それはちょっと生まれ持ったものだと思います。

─子供の頃からそのセンスがあった?

粗品:いや、どうなんですかね。子供の頃は偏っていて、まあ具体的に言うと中学まではマジョリティで高校からはマイノリティな感覚が自分の中であるんですけど、どっちも経験して社会人になってから、バランスを取るのがうまくなっていった感じですね。

──ロックってどこか閉鎖的なものだと思うんですよね。「お前はそのままでいいとか」「あいつらに従う必要はない」とか、反体制的なロックの世界に没入すると自ずとマジョリティの奥深くへ潜ってしまう。

粗品:そうですね。でもね、僕がいる場所はマジョリティに入らんと売れないんで。王道を行ってる奴がマイノリティもしてあげる、という救い方がいいと思うんですよね。

──ちょっと前の情報になるんですけど、去年12月「SCHOOL OF LOCK!」に出演されたのをお聴きしまして。

粗品:ありがとうございます。めっちゃチェックしてくれてますね。

─とあるリスナーが「自信を持つにはどうしたらいいか?」と質問をしたら、「まだ結果が出ていない時に自信出すためには、これはさすがに誰もこんな努力してへんやろうなみたいな、誰にもコレできてないよなってことを1人でした」と話していましたよね。

粗品:言うてました言うてました。みんなが酒を飲んでるときに、誰にも負けない努力するってね。

──まさに「タイムトラベルマシンガン」で、そのまま描かれている。そういう意味では、粗品さんが歩んできた道程もこのアルバムには誠実に描かれているとも言えますね。

粗品:そうですね。VOCALOIDの曲を作っていたので、変な歌詞も書くはずなんですけど、今回の作詞にはまっすぐ気持ちが乗ってますね。「オーディンの騎行」だけ少しボカロ味も入れて漢字を多めにしましたけど、意味はちゃんとあるんで。その曲はびっくりされるかもしれないですね。

──テレビをはじめYouTubeやSNSでも、ご自身の思いを歯に衣着せぬ感じで届けられている印象がありますが、粗品さんの中で”歌の中だからこそ言える”ことはなんでしょうか?

粗品:”恥ずかしいことも言える”のが大きいですね。「サルバドルサーガ」なんかでも<今、生きてる そんなあなたを愛してる 偉い偉すぎる>という言葉も、音楽じゃなかったら馬鹿にされかねない。なぜならメロディがそこにないから。メロディをつけて、全力で恥ずかしげもなく表現できるっていう幅の広さは、音楽のすごいところですね。特に芸人をやっている人間は、そういう小っ恥ずかしい言葉を避けがちなんです。だけど音楽なら表現できるし、「絶対大丈夫の歌」もそうですね。馬鹿にされても別にいいんですけど、自分の中での折り合いとして「ここまでやって馬鹿にされるんやったら、しゃあないか」と思える作品になった。

──粗品さんの中で、どういう感情が楽曲制作に向かわせますか?

粗品:繰り返しになってしまいますけど、「救いたい」のと「ぶっ倒したい」っていう2つの感情ですね。音楽を作る原動力になるのは。

─相当ぶっ倒してはいると思うんですよ。特にお笑いの世界なんて。

粗品:うん、そうっすね。

─まだぶっ倒していない人がいるんですか。

粗品:いや、いますね。能力とか実績とか、事実上はぶっ倒してるんですよ。ただ、業界の政治とか媚び・パイプ・コネ・セックス・酒とかで繋がってる奴らをまだぶっ倒せていない。僕が芸能界を世直ししてやりたい、という思いはあります。それが楽曲制作に繋がりますね。

─ちなみに、今回のレコーディングで特に苦労された楽曲は?

粗品:音作りでいうとほぼエフェクターなしで、直アンで全部やったんですね。今回は基本的に、めっちゃ簡単でベタなロックのコード進行なんですけど「翌貿の薦濯祉」だけは、現代音楽っぽいコード進行をしてるんですよ。

―マルサ進行ですよね?

粗品:そうです。それこそアンチ現代音楽ですね。今、「マルサ進行にすればいい」みたいな風潮になってるんで、あえてマルサ進行の曲でぶち壊したかったんですよね。だからドラムも暴れてもらったし、わざと不協和音のところで歌ってみたんですよ。デモの時は良かったんですけど、実際に音出して歌ってみたら「さすがに気持ち悪すぎるか」と思って。そこはかなり議論になりましたね。一見粗品が音外してるとか「アレ? ここ歌下手じゃない?」と思われかねないメロディラインなんですけど、そのまま行きましたね。そういう意味で、そこは加減が難しかったです。あ、そうや! レコーディングの話でいうと、ギターの新しい奏法を2つ発明しまして。

──本当ですか!

粗品:存在するのかもしれないですけど、楽譜に起こして自分でその奏法に名前をつけようと思ったのが2つあって。1つは「宙ぶらりん」のギターソロ中のショットガン奏法。ギターを真正面に立ててスライドするという、ショットガンを装填してるような動きなんです。ブオンブオンとオクターブ上にスライドするっていう。これをタブ譜で書いたら、スライドのSだと思うんですけど、それをショットガンのSで書けへんかなと。あと「七赤シジジー」のギターソロのラストが、EからE♭に半音下がってBに移るんですね。そのEからE♭までが、チューニングを落としてるっていう。1弦の解放弦を弾いて、決まった尺中に半音落として、2弦の開放弦を弾くというチューニング奏法。そういう新しいギターの弾き方もちょくちょく入ってるので、ぜひ聴いてほしいですね。

─改めて『星彩と大義のアリア』はどんな1枚になりましたか。

粗品:アーティストの処女作としては、抜群にバランスのいい一枚になったと思います。”芸人がやってる音楽”と思われないようにするのが目標なので、いずれは”粗品と言えば芸人”ではなく、”アーティスト・粗品”って言われるぐらいになりたいですね。それだけ本気でやってるんで。

─本気はすごく感じますよ。

粗品:でもね、この12曲で僕はまだ本気を出し切ってはいなくて。いや、本気は本気なんですけど、僕はMVの完成度をウリにしたい人間なんです。「乱数調整のリバースシンデレラ」(2021年)は作詞の段階でMVのことを考えながら作ったんですね。そういうことができんのって、正直自分ぐらいやと思うんですよ。秀逸なMVをね。それで言うと、今回は音楽だけで伝えようって認識もあったし、アルバムを作ってる時に「どの曲で何本のMVを出せるのか」が全く決まっていなかったので、そういう作り方をしなかったんです。それでも「サルバドルサーガ」とか、これから公開する「はるばらぱれ」のMV(※3月27日に公開された)もある程度の評価を受けると思うんですけど、僕はもっとできるんですよね。あくまでMVをくっつけただけの曲なので、まだ最終奥義があるというか、もっと本気を出せるよって感じですかね。次ぐらいは、MVを意識した楽曲を作りたいなって考えてます。

─今後のことで言うと、6月から7月にかけて初の音楽ライブツアー「粗品 1stツアー『星彩と大義のアリア』」が決まっていますね。

粗品:音楽のライブが初めてなので不安は不安なんですけど、一体感というよりは一方通行なライブでいいかなと思ってます。「生でアルバムの歌を歌うから聴きに来て」って感じですね。面白いMCをしようとか、ちょっと変わったカバーしようとかも今は考えていなくて。そういうのもあるかもしれないんですけど、とにかく生歌でがっかりされないように頑張りたいですね。

─最後に大きい質問ですけど、粗品さんが大事にされていることってなんですか?

粗品:それは音楽とか関係なく?

─そうですね。

粗品:うーん、何やろうな? まずは親孝行ですね。これは生きる上で一番大事にしています。自分のことで言うと、天下は獲りますよ(キッパリ)。そこに向かって全部やってる感じですかね。

─それを明言できるのがすごいですよね。心が折れそうになる瞬間ってあります?

粗品:……ないっすね、正直。もうないです。「M-1」で優勝したのが2018年だから、6年ぐらいないですね。若い頃はたまにありましたけど、今は全然ないです。自分がやってきたことが証明された今、もう無敵なので。あとは天下を獲るだけですね。

<リリース情報>

粗品

『星彩と大義のアリア』

発売中

初回限定盤(CD+2DVD):UCCY-9042 \6,600(tax in)

通常盤(CD):UCCY-1123 \3,300(tax in)

=収録曲= ※初回限定盤・通常盤共通

1. オーディンの騎行

2. サルバドルサーガ

3. 絶対大丈夫の歌

4. タイムトラベルマシンガン

5. 普通幻想曲

6. はるばらぱれ

7. 風炎のデージー

8. 不条理な外連味

9. 七赤シジジー

10. 翌貿の薦濯祉

11. ビームが撃てたらいいのに

12. 宙ぶらりん

初回限定盤ボーナスDVD収録内容

DVD 1:音楽

・アルバム全曲解説

・メイキング映像

DVD 2:お笑い

・THE FIRST TALK 永久保存版

・生涯ベストフリップネタランキング

・新企画「ツッコミマシンガン」

<ライブ情報>

粗品 1stツアー「星彩と大義のアリア」

2024年6月25日(火)大阪府 梅田CLUB QUATTRO

出演者:粗品 / I's

2024年7月5日(金)福岡県 DRUM Be-1

出演者:粗品 / Paledusk

2024年7月11日(木)東京都 渋谷CLUB QUATTRO

出演者:粗品

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