女優の尾野真千子が、フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)のナレーション収録に臨んだ。担当したのは、28日に放送される『私の父のなれのはて ~全てを失った男の楽園~』。フィリピンでひっそりと暮らす日本人男性を追った作品だ。

不法滞在の身であり、決して裕福な暮らしを送っているとは言えないが、その姿に「幸せなんだろうな」と感じたという尾野。この不思議な魅力を視聴者に伝えられる喜びを語ってくれた――。

『ザ・ノンフィクション』のナレーションを担当した尾野真千子

『ザ・ノンフィクション』のナレーションを担当した尾野真千子

日本にいる娘に「もう一度会いたい」

番組スタッフがマニラ近郊の町で出会ったのは、日本でトラック運転手や土木作業員をしていた平山さん(64)。2004年、友人から誘われるままに、フィリピンへ渡ったが、「一緒に日本料理店を開こう」という知人に、借金をしてまで用立てた開業資金をカジノで使い込まれてしまった。一文無しで帰国資金さえ失った平山さんは、現地で知り合った人の家を転々とする生活を送り、それから10年、乗り合いバスの呼び込みでチップをもらい、何とか食いつないできた。今は、そんな暮らしの中で出会ったフィリピン人女性・テスさんとの間に娘も生まれ、家族として暮らしている。

電気代が払えず、暗闇で食事をすることもしばしば。それでも、時おり日本の歌謡曲を口ずさみながら、新しい家族との暮らしを楽しんでいるように見える。ある日、昔話をしながら口にしたのは、日本に残してきた娘のこと。「日本にいる娘にもう一度会いたい」というが、すでに結婚し、故郷を離れているため、居場所も分からないという。番組スタッフは、日本で平山さんの娘を探し始めた…。

  • 平山さん(左)と、フィリピンでもうけた娘 (C)フジテレビ

歯はなくなっていくが痩せていかない

2021年に公開されたドキュメンタリー映画『なれのはて』の登場人物の一人だった平山さん。この映画を見た尾野は「こんな“なれのはて”があるんだと、未知の世界を感じて、人生や生き方について考えさせてもらいました」と振り返る。そこから月日が経ち、今回のナレーションのオファーが来ると、「自分の感じたことを、自分の声で皆さんにお伝えできるんだと思うとうれしくて。“知ってる? こういう世界があるんだよ”と言えることに、面白いなと思いました」という心境で、今回のナレーションに挑んだ。

平山さんの印象を聞くと、「私たちが“良い/悪い”と判断する必要性は全くないです。だけど、面白いことしてるなと思いました。“どうしようもないなあ(笑)”って思うんですけど、“幸せなんだろうな”と感じるんです。ナレーションで“この時の流れは、なんだろう…”という部分がありますが、本当にその通りだなと思いました」と不思議な感覚に。

幸せな様子を感じる理由は、常に笑顔でいることが大きい。「ほかにも日本人が登場しますが、彼らがガリガリなのに比べて、平山さんがふくよかなんですよね。時が経つにつれて歯はどんどんなくなっていくけど、全然痩せていかず、幸せそうな笑顔のままなんです。それは支えてくれるテスさんのおかげですよね。本当に、出会った人が良かったんだと思います」と受け止めた。