1980年代に『Shout At The Devil』『Girls, Girls, Girls』『Dr. Feelgood』など、数々のマルチプラチナムアルバムを発表し続けたモトリー・クルー(Mötley Crüe)。ハードでグラマラスなロックサウンドとその破天荒なライフスタイルから、”The World's Most Notorious Rock Band(世界でもっとも悪名高いロックバンド)”と呼ばれ、今日まで幅広いジャンルに多大な影響を与え続けている。
2015年末をもって一度は活動を終了させるも、2019年春に自伝映画『ザ・ダート:モトリー・クルー自伝』がNetflixで公開されたのを機に、マシン・ガン・ケリー(※同映画でトミー・リー役を担当)をフィーチャーした新曲「The Dirt (Est. 1981)」を含むサウンドトラック・アルバム『The Dirt Soundtrack』を発表。同年11月にはツアー停止契約を破棄し、本格的に復活することを宣言した。その後、コロナ禍の影響で思うように動けない時期があったものの、2022年にはデフ・レパードとの北米スタジアムツアーを実現。2023年11月には2組による来日公演も実施されたことは、記憶に新しい。
現在はヴィンス・ニール(Vo)、ニッキー・シックス(Ba)、トミー・リー(Dr)、ジョン・5(Gt)という布陣で活動するモトリー・クルーが、4月26日に待望の新曲「Dogs Of War」をリリースした。昨年春、SNS上でレコーディングの様子が公開され、同年末にはトミーの口から同曲を含む複数の楽曲が制作されたことが告げられている。2024年という時代に、モトリー・クルーは一体どんな楽曲を届けてくれるのか。盆栽を趣味にするなど親日家としても知られるトミー・リーに、新曲の制作過程やミュージックビデオ、バンドが現在も活動している事実について話を聞いた。
─久しぶりに届けられるモトリー・クルーの新曲について、歌詞やサウンド含めてどんなものにしたいと考えましたか?
トミー:どんな曲も、まず雰囲気(vibe)から始まるんだ。「Dogs of War」に関しては、ヴァース部分は抑えめでサビで一気に爆発する、静と動がはっきりした曲を作りたいと思っていて、いろいろなリズムやアイディアを試すところから始めた。俺がドラムのビートを変えてみたり、ジョンがギターリフをいろいろ試したり。音楽的にはそれが出発点だ。そこからニッキーが歌詞のコンセプトを少しずつ構築していく。とにかく、まず最初に雰囲気で「これ」っていうものを探すんだ。「心を動かされるビートはどれか」とか「ここの部分のこれはちょっと違和感がある。これならどうか?」とかね。そうやって最初は曲の土台作りに時間をかける。それさえ決まれば、あとはみんなで一気に仕上げていくだけだ。
─その新曲「Dogs Of War」はモトリー・クルーらしいエッジの効いた、王道感の強いハードロックであると同時に、どこかフレッシュさも感じられる作風です。レコーディングにおいて、トミーがこだわったポイントはありますか?
トミー:曲の形が見えてくると、今度は曲の展開における色味が変わる場所が見えてくる。「このヴァースではドラムは抑えめにして、ここでは思い切りぶっ放すぞ」といったことを考えるんだ。サウンドに関しても、君が言うようにフレッシュに感じられるのは、昔のモトリーのアルバムを作っていた頃と比べて、新しいテクノロジーがいろいろ出てきているのも大きいんじゃないかな。例えば、部屋を振動させるような正弦波、つまりサブベース(ウーハ-)を加えて、可聴音を向上させることもできる。そういう新しいテクノロジー、新しいサウンド、新しい発想、すべてが合わさった結果なんじゃないかと思う。
─これだけ長くやっているバンドで、新しいテクノロジーを受け入れる柔軟な姿勢を持っているところもすごいと思うんですが。
トミー:俺は毎日そういうものを試しているよ。新しいサンプラーだったり、新しいスライサーだったり、常にサウンドをより良くしてくれるものを探している。聴いたときに「ワオ! なんだこれは?」ってなるようなサウンドだ。そういう部分も新曲にしっかり表れていると思うし、それによってフレッシュな音になる。正直、サウンド面の技術に関して言えば、俺たちがバンドを始めた頃と比べて録音技術は格段に進歩している。だから、俺は可能な限り最高のサウンドにしてくれるものを常日頃からチェックしているんだ。
Big Machine Recordsと新たに契約する様子を収めた映像
─では、ソングライティングに関してこだわった部分はどうでしょう?
トミー:もちろん俺も深く関与しているけど、どう言葉で説明するのがいいかな……みんなで一緒に作っていくんだよね。ドラマーとしての役目は、まず曲のイメージが(みんなが)思い描いているものと合っているか、ということ。テンポ、雰囲気、どういう感情を呼び起こすか、とかね。あとは、「このリフを試してみようぜ」とか「このリズムはどうだろう」とか、そういう部分で俺もいろいろ提案するよ。ドラマーだから、全部のパートをしっかりまとめる役目があるし。で、ソングライティングに関して言えば、みんなでアイディアを出しながら作っていくんだけど、俺がもっともこだわっているのは曲を支える基盤をちゃんと作るところ。だって、そこがちゃんとしてなきゃ、どんなに曲が良くたってダメだからな。何かノリが遅すぎるとか、聴いていてマイナスに感じるようなポイントがあるってことは、俺たちが要点を外してるってことだし。だから、俺がまずこだわるのはそこだね。
─なるほど。「Dogs Of War」はジョン・5が参加した最初のオリジナル曲となりますが、トミーの目から見た本作における彼の貢献度はいかがでしたか?
トミー:彼の貢献度は無限にある。アイツはなんだって弾ける。こっちがどんなものを投げても、受けてくれる。例えば「こんな感じのやつを試しに弾いてくれ」「こんなのはどう?」「ここは一気にスローダウンしてみよう」とか言うと、「OK!」と言って完璧にやってのける。「ちょっと待って、これもどうかな?」みたいに余計な話し合いや説明っていうのもなく、マジで1テイクでできちゃうんだ。見ていて楽しいよ。「これよろしく!」って言うだけで、ジュークボックスみたいになんでもパッパと出てくるし、やってほしいことを言えばそれに答えてくれる。それくらい才能に溢れているよ。
「今この瞬間を生きろ」日本へのメッセージ
─楽曲クレジットを拝見すると、バックボーカルにデレク・デイ(クラスレス・アクトのシンガー)とデクスター・ホーランド(オフスプリングのシンガー)の名前があります。2人が参加した経緯は?
トミー:それほど大袈裟な経緯があるわけでもなくて。彼らとはもともと友達で、彼らもボブ・ロック(※「Dogs Of War」のプロデューサー)と仕事をしていて、たまたま同じ時期にロスにいたんだ。ちょうど”Gang Vocal”(※モトリー・クルー特有の力強いバックボーカル)に厚みが欲しいと思っていたところだったので、「スタジオに来て歌ってくれよ!」と誘ったら2人とも参加してくれたってわけ。
─モトリー・クルー の楽曲における”Gang Vocal”は、いつも本当にカッコいいですよね。
トミー:あれがなきゃ始まらない。必須だな。
─もともと彼らにはどういう印象を抱いていましたか?
トミー:結構前からの付き合いで、俺よりもニッキーのほうが昔から知ってたかもしれない。2人とも気の合う仲間だよ。
─ミュージックビデオもモトリー・クルーらしさが強く打ち出された、遊び心に満ち溢れた内容です。ビデオの仕上がりに関してはいかがですか?
トミー:みんなに観てもらうのが待ちきれないよ。この曲の世界をさらに広げてくれているし、ぶっ飛んだ感じのアニメーションのビデオというのも、俺たちにとって初めての試みだしな。これは、俺がSmearballsというアーティストとコラボをしたのがきっかけで、彼と「Bouncy Castle」という短編映像を一緒に作ったんだ。彼が映像を作って、俺がそれに音楽を付けたっていう。ただ面白いと思ってやっただけなんだけどね。で、今回「Dogs of War」のビデオをどうするかって話になったとき、実はニッキーから「お前が以前一緒にやったアーティスト、誰だっけ? あのビデオ、めちゃくちゃヤバかったじゃん」って言われたんだ。で、俺が「そうそう、アイツすごいんだよ!」って答えたら、ニッキーが「『Dogs of War』のビデオをやってくれないか、聞いてみるか」って言うんで、「わかった。電話しようぜ!」ってことになった。彼も俺たちのアイディアやコンセプトを気に入ってくれて、最終的にこんな最高なコラボが実現した。かなりぶっ飛んだビデオだと思うから、今からみんなに観てもらうのが超楽しみだよ!
─モトリー・クルーは1981年の結成から40年以上を経てもなお、”世界でもっとも悪名高いロックバンド”と言われ続けています。そうした存在であり続けられた理由は何なんでしょうね?
トミー:俺にもわからないな(笑)。いまだにそんな称号を与えてもらえていることに、俺は感謝しかない。これだけ長くキャリアを続けられるアーティストはそう多くないし、特にこの間のワールドツアーは、自分たちがいかにラッキーかということを思い出させてくれた。だって、客席を観ると子供が父親に肩車してもらって「Shout! Shout! Shout!」(※代表曲「Shout At The Devil」のコーラス)って叫んでるんだぜ? 「6歳の子供までノリノリだ。なんて最高なんだ!」と感動すら覚える。この2、3年は特に、今でも活動できて、楽しむことができて、少しはクールで楽しい世の中にできることに心からありがたいと思っているんだ。
─「Dogs of War」が新たにセットリストに加わることで、今度は「Bastards! Bastards! Bastards!」と叫ぶ若い世代を目にすることができそうですね。
トミー:ああ、まったくだ。その日を今から楽しみにしているよ!
2023年11月、Kアリーナ横浜にて開催された来日公演の様子
─日本のファンには「Dogs of War」をどう楽しんでもらいたいですか?
トミー:この曲を聴いてみんなに感じ取ってもらいたいのは、「今この瞬間を生きる」ということ。つらいことや社会のシステムや人間関係に打ちのめされず、目の前にあることをありのまま、素直に楽しむために、今この瞬間を生きるために闘い続けようぜってことさ。
だって、明日になれば俺だってみんなだって、いなくなっているかもしれないんだから。だろ? 俺たちは今、何をしている? どうせなら、それを思い切り楽しもう。そのメッセージが伝わることを切に願う。自分の王冠を誰にも奪われるなよ!(※「Don't let them take your crown」は「Dogs Of War」の一節)
─本日はありがとうございました!
トミー:去年のツアーは本当に楽しかったし、また日本に戻りたくてしょうがない。日本のみんなに俺から大きなハグを送るよ!
モトリー・クルー
「Dogs of War」