デビュー時から次世代のダンス・ミュージック・シーンを担う存在として、ビッグ・アーティストからのラブコールも絶えないほど大きな期待を背負い、音楽ファンからも大きな支持を集めた、UK出身のジョシュ・ロイド・ワトソンとトム・マクファーランドから成る二人組ユニット、ジャングル。2023年8月には4枚目となる最新アルバム『VOLCANO』をリリースして、アルバム全曲を一つの長編映像作品にして、単なる音楽にとどまらない世界観も提示。アルバム収録曲の「Back On 74」は大ブレイクを果たし、その振り付けを「踊ってみた」ダンスチャレンジ動画もSNS上で大流行。3月3日のBRIT AWARDS 2024では、グループ・オブ・ザ・イヤーの受賞に輝いている。5月の来日を前にトム・マクファーランドに話を聞いた。
ーコーチェラのライブはどうでした?
素晴らしかったよ。けっこう頑張ったからね(笑)。音楽をやるには最高の場所だと思う。コーチェラには2015年と2018年にも出てるんだ。
ーコーチェラのセットリストを見ると、最初の曲は「Busy Earnin」で、ラストの曲は「Keep Moving」でした。「Busy Earnin」はラストの曲でやることも多いですよね。
「Busy Earnin」は最初にやったり、最後にやったりしてるね。この曲をやると会場がエネルギーに満ち溢れるから、最初の曲にはピッタリなんだ。10年前の曲だから、セットリストの順をいろいろ変えることによって、違うダイナミズムが生まれるのが面白いんだ。
ーセットリストはいつもどのように決めているのですか?
エネルギーの流れによって決めてる。流れに一貫性のあるセットリストを心がけてるんだ。DJセットのように音楽がミックスされていくのが好きなんだ。だからその日にどう感じたかというのが大きいね。ライブの最初から最後までが旅のように感じられるようにしたいんだ。
ーセットリストは常に変わっていくんですか?
そうだよ。2日前にアメリカのアリゾナ州でライブをやった時は、1stアルバムからの曲で、5年間プレイしなかった曲をプレイしたんだけど、楽しかったし、エキサイティングだったね。毎日が新鮮に感じられるようにセットリストを変えてるんだ。
ーコーチェラのステージにはダンサーも登場しましたね。
BRIT AWARDS 2024の時もそうだけど、スペシャルなショーだからダンサーをフィーチャーしたんだ。できればどこのライブでもダンサーを連れていきたいんだけれど、経費がかかりすぎてしまうんだよね(笑)。
ー現在のライブはどういうバンド編成でやっているのですか?
今は6人編成でやってる。ドラマーはジョージで、パーカッションはウィル、ベース・プレイヤーはジオ、シンガーはアルバム『VOLCANO』で歌を歌って、曲も一緒に書いてるリディア・キット、あとはジョシュと僕だ。最高のミュージシャンが集まっていいバンドになってるよ。
ー今はアメリカをツアー中ですか?
アメリカに来て2週間になる。明日はコロラド州のRed Rocks Amphitheatreでライブだ。赤い巨石のある野外のシアターで、壮大な景色なんだ。特別な場所でライブをやれるので、今から楽しみにしてるよ。
ー5月には日本に来ますよね。どのようなライブになりそうですか?
日本は大好きなところだし、しょっちゅう行けるわけじゃないから、エネルギー全開で臨みたいね。バンドのみんなも楽しみにしてる。実は日本には2019年に行った時に2週間滞在してたんだよね。だから日本を少しは知った気でいるんだ(笑)。
ー初来日の時のことは覚えていますか?
もちろん。一番最初は2014年のフジロック・フェスティバルだった。海外ツアーをしたのはあの時が最初だったし、クレイジーだったよ。国も違えば、時差も違うところに行って、ビッグネームのアーティストたちと共演したのは素晴らしい経験だった。フジロックはカルチャーも素晴らしかったし、お客さんも素晴らしかった。日本にはもっと行かなきゃと思わせてくれたよ。
ー2019年に2週間滞在した時は、日本で何を見ました?
日本はカルチャーが凝縮されてるところが素晴らしいと思うんだ。アート、サウンド、ビジョン、照明のすべてが輝いてる。一方で、穏やかさとリスペクトという日本ならではのスタイルもある。クレイジーさと美しさの間のバランスが絶妙なんだ。でもそういう陰陽のようなバランス感覚は、常に意図的なものだし、理由のあるクリエイティブなものだと思うんだ。
ー音楽アーティストの視点で見て面白いと思ったものはありました?
面白いウィスキー・バーを見つけたんだ(笑)。場所は覚えてないんだけど、ハイウェイにある小さなバーだった。あと、原宿のシンセサイザーの店が素晴らしかった。昔のMOOGのコレクション、ドラムマシン、テープエコーとかいろいろあるんだ。日本はレアなものを集めることに関しては素晴らしいと思うね。
ーウィスキー・バーの話が出ましたが、お酒は好きなんですね。
好きだよ(笑)。ゴールデン街で小さなバーを見つけて、ウィスキーを飲んだりするのは最高だからね。
ー3月3日に行われたBRIT AWARDS 2024では、グループ・オブ・ザ・イヤーを受賞しましたね。
あれはクレイジーな瞬間になったね。音楽業界に認められたことはうれしかったよ。僕たちはアーティストである自分たちを前面に出さないで、音楽そのものに語らせてきたから、多くの人が僕たちはどういうやり方でやってるのか、疑問に思ってたはずなんだ。でも僕たちは意志が強かったし、自分たちが行うことすべてについて、考え抜いた上でやってきた。でもそういうやり方で多くの人に認められたわけだから、満足感は大きかったよ。
ーBRIT AWARDSのスピーチで、あなたはジョシュとは9歳の時から一緒にやっていると話しましたね。9歳の時はどんな子供でした?
野心に満ちてたね。二人とも自信がたっぷりあった。でも子供から大人になっていく過程で、その自信に対して疑問を持つことになるよね。僕たちは10歳の時の自分たちに戻って、自分たちが世界をどう見てたのか、世界は自分たちに何をしてくれると思ってたのかを思い出したんだ。それで今、こうして大人になって、成功することができて、自分たちの作ってきた音楽、自分たちの歩んできた道を振り返った時に、ハッピーな気持ちになれるんだ。心配することもないし、ある意味、今も子供の時と同じ気持ちでいられるからうれしいんだ。
ージャングルはジョシュのベッドルームから始まったんですよね。
そうだよ。1stアルバムはジョシュのベッドルームで作った。
ー今はどこで曲を作っています?
今はありとあらゆるところで作ってる。スタジオでも作るけれど、良い音楽はスタジオで生まれるとは限らないというのは、僕たちがこの10年間で証明してきたことだから。ツアーバスの中でも作るし、ライブ会場の控え室の中でも作る。アルバムの曲が出来た時は、大きなスタジオをブッキングして、時間をかけてエディット作業などをやって完成させてる。そうやって最後にスタジオを使わないと、制作は無限に続くからね。
ーどこでも曲を作るということは、いつでもアイデアが浮かんだらすぐに形にしたいんですね。
まさにそうだよ。今はテクノロジーのおかげでどこでも音楽を制作することができる。ラップトップを開けばすぐにアイデアを形にできるんだ。テクノロジーのおかげで、どこに行っても制作ができる自由をもらえたと思ってる。
ー今までで一番あり得ないシチュエーションでの曲作りは?
2ndアルバムのヒット・シングル「Heavy, California」のコーラスは、コーチェラ初出演の時に会場に向かうツアーバスの中で作った。カリフォルニアで作った曲がカリフォルニアについての曲になったわけだから、ある意味メタファーを使ったことになる。不思議なシチュエーションで作ったけれど、後になって意味がつながったんだ。
「イメージ」よりも「音楽」を大切にしたい
ージャングルとして世に出ていこうってなった時、どういう打ち出しを考えました? ダンス・ミュージックのデュオでいうと、ケミカル・ブラザーズ、ダフト・パンクのイメージが強いですよね。いろいろ考えた結果、最初は顔を出さないでミステリアスな存在として打ち出したのですか?
自分たち個人よりも音楽、アートそのものを前面に出したいと思ったんだ。それはある意味、当時ネット上で起こってたことに対する反動でもあった。2013年、2014年というとInstagramが影響力を持ち始めた時期だった。アーティストにしても音楽そのものよりも、イメージの方を重視するようになっていった。だから僕たちは自分たちが何者とか、見た目がどうとかで判断されたくないという、意識的な決断をしたんだ。それよりも自分たちの作る音楽、MVで判断してもらいたい。自分たちが一番大切にしてるのは音楽だから、オーディエンスにも一番大切なのは音楽だと思ってほしかったんだ。
ーイギリスのダンス・ミュージックは昔からどんどん新しいものが生まれて、新しい流れが出てきますよね。いろいろなバックグラウンドがあった上で、音楽的にはどういう風に新しい打ち出しをしていこうと考えました?
一番大切なのは、自分たちのハートとソウルから出てくるものだと思うんだ。もちろん昔のソウルのレコードは大好きだし、昔のレコーディングでマイクがとらえたボーカルの響きも大好きだ。僕たちはモダンでコンテンポラリーな音楽を作りたかったけれど、同時に、トラディショナルに聴こえるサウンドの音楽も作りたかった。コンピューターと最新のテクノロジーを使うことで、モダンでエレクトロニックだけれど、自分たちのルーツでもあるブルース、ソウル、ジャズ、ファンク、ディスコ、ヒップホップも取り入れたかった。あと、そこに大好きなボーカル・ハーモニーも入れたかった。クロスビー・スティルス&ナッシュとかビーチ・ボーイズも好きだったからね。だからいろいろな影響が僕たちの音楽には入ってると思う。昔のレコードの持つフィーリングを21世紀に甦らせたかったというのも大きいね。
ーそう言えば、『For Ever』のために作ったプレイリストの中に、ビーチ・ボーイズの曲「Til I Die」がありましたね。
名曲だからね。ダークなビーチ・ボーイズが好きなんだ。ビーチ・ボーイズはあまりハッピーじゃない方がいい(笑)。
ーゲームミュージックからの影響もありますか?
あるよ。僕たち世代の最高のゲームミュージックのサウンドトラックは『グランド・セフト・オートV』だからね。ちょうど僕たちが1stアルバムを作ってる時にあのゲームは発売になったんだ。『グランド・セフト・オートV』にはJ・ディラの音楽もあるし、ゲームの中にはジャイルス・ピーターソンのラジオ局もあった。ジャイルス・ピーターソンに関しては、コンピレーション『Worldwide』から影響を受けてるよ。あれだけのスケール感のビデオゲームで、いろいろなイマジネーションが集まって一つの世界を作ってるわけだから、ものスゴいインスピレーションを受けたね。だからジャングルをやる時も、ファンがその世界に入りたいと思うような世界観を作りたいと思ったんだ。
ーだからジャングルの音楽は単なる音楽ではなく、ビジュアルもカルチャーも含めた世界を形作っているわけですね。それはMVでもそうですし、ライブの見せ方でもそうですよね。
それが本質的に僕たちのやりたいことだからね。僕たち個人が表に出なければ出ないほど、もっとクレイジーなことができるから。
ー「Back On 74」にしても、音楽だけでなく、映像、コリオグラフィ、ダンスのスキル、衣装、照明とすべてのアートが入って、一つの世界を作っていますよね。どのようにアイデアを形にしていったのですか?
楽曲と映像の結びつきは大好きだから、今回はアルバム『VOLCANO』全曲通しての映像を作ってみたんだ。正直、「Back On 74」はあそこまで大きな反響をもらえるとは思ってなくて。アルバムを作った時も、「Candle Flame (featuring Erick the Architect)」とか「Ive Been In Love (featuring Channel Tres)」の方が、もっと受けそうな、外に向かうエネルギーがあると思ってたぐらいだ。だけどオーディエンスが求めてるものは「Back On 74」だったんだよね。
ー「Back On 74」はどのように生まれたのですか?
4月22日にLAの家の中で生まれた。ツアーを終えてちょっと休みを取ってた時だ。家の中で楽しい時間を過ごしてる時に曲を作ったんだ。そういう時が一番純粋なアイデアが生まれるからね。大きなスタジオで制作する時のようなプレッシャーもないし、自然な環境でごく自然に曲を作るわけだから、自分たちの素直な気持ちが曲に出たんだと思う。
ー「Back On 74」はFull Crateによるリミックスも出していますよね。レイドバックしていて、また違うカッコ良さがありました。
いいよね。あれはFull CrateがTikTok用に作ったものなんだ。それを僕たちに送ってきたから、限定盤のヴァイナルで出すことにしたんだ。
ージャマイカのリディムも感じさせますね。
素晴らしいよね。バックビートがレゲエのダブプレートみたいだから。僕たちが作ったリミックスではないけれど、曲にあったメロディとフィーリングはちゃんと受け継がれてると思う。
ーちなみに、ヒップホップ、レゲエからはどのような影響を受けましたか?
キッズの時はヒップホップをずっと聴いてたし、J・ディラ、マッドヴィランは大好きだった。新しい音楽の中に昔の曲のサンプリングが入って、ノスタルジアを感じさせるところは、僕たちの大好物なんだ。そういうスタイルを持ったヒップホップ・カルチャーがモダン・ミュージックに与えた影響には多大なものがあるよ。レゲエに関しては、僕が生まれ育ったのがロンドンでも黒人の多いエリアだったというのが大きいね。学校に行く途中のお店でもレゲエはかかってたし、レコード屋にもレゲエのレコードが置かれてた。それで、ジャマイカ音楽、カリブ音楽は常に僕たちにとってのレファレンスになったんだ。
ー今後の予定は?
新曲はいつだって発表したいと思ってる。ただ、今はツアーで忙しいから、そこに集中していたい。新曲を出すよりも、今のアルバムをもっと浸透させていきたいんだ。
<INFORMATION>
JUNGLE
5月27日(月)東京・Shibuya Spotify O-EAST
SUPPORT ACT どんぐりず(DONGURIZU)
OPEN 18:00 / START 19:00
TICKET: オールスタンディング¥7,300(税込/別途1ドリンク)